桐谷健太、『醉いどれ天使』で12年ぶり舞台出演 「戦後の獣のような感覚を舞台で見せることができたら」
ステージ
インタビュー
ビジュアル撮影のため役柄の扮装で取材に応じた桐谷健太 撮影:渡邊明音
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すべて見る巨匠・黒澤明が志村喬、三船敏郎らを迎え、貧しい医師と闇市のやくざの姿を通じて戦後の混沌を鮮やかに描き出した名作『醉いどれ天使』が舞台化! 三池崇史が演出を担当し、三船が演じた戦争帰りの若いやくざ・松永を桐谷健太が演じる。2009年上演の『恋と革命』以来、2度目の舞台出演となる桐谷は、黒澤映画の傑作の舞台化、昭和の日本を代表する名優が演じた役柄にどのように挑むのか?
想像していない松永が自分の中から出てきて止まらなくなるかも
「“つながったな‥…”という感じ」――。桐谷は本作への出演が決まった心境をそんな、少し曖昧な言葉で表現する。「そこはもう自分の中の感覚の話なんですけど……(笑)。何というか、水と水がくっついて、大きな塊になる感じに似ているのかな?」
補足すると、本作の制作が発表された際、桐谷は公式のリリースで「東京に出てきて間もない頃、色んな人に目がギラついてるねと言われたあの頃、ひとりのおっちゃんに『お前の眼光は往年の三船敏郎みたいやな』と言われ、ちょっぴり嬉しく想ったことを覚えています」というコメントを発表している。そして三池監督は、桐谷の飛躍のきっかけともなった20代のヒット作のうちのひとつ『クローズZERO』シリーズの監督。「つながった」という言葉には、若い頃に桐谷の胸に刻まれた、忘れられない記憶や経験がひとつの作品に集約されたという思いがあるのかもしれない。
舞台版の脚本を手がけるのは近年、次々と話題の舞台を世に送り出している蓬莱竜太。桐谷は舞台版の脚本について映画と比べて「しっかりと“答え合わせ”がされている」と語る。
「もちろん、映画の『醉いどれ天使』はすごい作品ですけど、あの時代(※公開は終戦の3年後の1948年)の人々が観てスーッと入れる部分が大きかったと思う。決してすごく説明している作品ではなく、そこが素敵な映画なんですけど、いまの人が観てもわからない部分もあると思います。舞台版は、いまの人が観てもすごく沁みこんでくる作品になっていると思います」。
舞台出演はおよそ12年ぶり。「舞台に関してはド新人です」と笑う。インタビューが行われたのは、4月の下旬のポスター撮影が行われた日。まだ稽古の開始まで時間はあるが、いまの時点でこの作品が自身のキャリアにとっても、重要な一作になるという予感、いや、確信を抱いている。
「舞台でしか出せない生の感覚がある。自分の予期しない感覚も出てくると思うので、それを止めずに、素直に――もしかしたら、稽古で感じなかったものを本番で感じたりもするかもしれないし、想像していない松永が自分の中から出てきて止まらなくなるかもしれないけど、そこは自由にさせたいと思っています」。
自分が変われば世界の見え方が変わってくる
松永は、若くして闇市を仕切るやくざの男。傷の手当てで、町医者・真田の元を訪れた際に結核を患っていることを指摘され、療養を勧められるも言うことを聞こうとはしない。
「松永がどうして闇市という場所にたどり着き、どんな思いでやくざ稼業をしているのか? 結核に侵されながらもなぜここまで生きることへの執着を持っているのか? そこは今回の舞台で大切な部分だと思っています」
舞台版では、時代的な背景を含め、松永の人物像がさらに深く掘り下げられることになりそうだ。そして、そこにこそ、令和のいま、この作品を上演する意味があるとも。
「松永という男の哀しさ、不器用さは結局、戦争という不可抗力に近い経験があって、なぜ自分は生かされているのか? なぜ生きるのか? と思っている男の葛藤にあると思います。戦争に行かされて、“帰ってきてしまった“ことへの後ろめたさ――本当ならば生きて帰ってきて、みんなに『よかったね』と言われて然るべきなのに、恥を抱えて帰ってきてしまったという思いがあって……。
あの時代の人たちは、一日、一日がムチャクチャ濃かったと思うんです。熱い血が流れているような、戦後の獣のようなその感覚を舞台で見せることができたら、いまの時代にこの作品をやる意味があるんじゃないかと思います」。
戦後とはまた違った意味で、混沌とした状況にある現代。先の見えない不安を抱えながら生きる人々に見せたいのは“生の輝き”。
「明日があるのかわからないという人たちがたくさんいた時代。死ぬように生きるのか?命を使い果たすつもりで生きるのかで、人生は全く変わってくる。いま、違った意味でどうしたらいいかわからない状況の中で、自暴自棄になったり、暗い気持ちになっている人も多いと思います。世界を変えることはすごく難しいけど、自分が変われば世界の見え方が変わってくる。(松永は)生きることに執着する。その分、死というものも濃くなってくるんですが、そうやって生きているほうが1日の終わり、朝、目が覚めた時の感覚というのがすごく輝いてくると思う。光と影の強い作品になっていると思いますが、その陰影を感じてもらえたら」。
舞台上でどんな道標を示してくれるのか? 熱い芝居を期待したい。
取材・文:黒豆直樹 撮影:渡邊明音
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公演情報
舞台『醉いどれ天使』
原作:黒澤明、植草圭之助
脚本:蓬莱竜太
演出:三池崇史
出演:桐谷健太、高橋克典、
佐々木希、田畑智子 篠田麻里子
高嶋政宏
※蓬莱竜太の「蓬」は正しくは一点しんにょう。
※高嶋政宏の「高」は「はしごだか」が正式表記。
【東京公演】
2021年9月3日(金)~20日(月・祝)
会場:明治座
【大阪公演】
2021年10月1日(金)~2021年10月11日(月)
会場:新歌舞伎座
チケット情報
★7月15日(木)まで東京公演2次選考受付中!
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2110099
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