高橋惠子&永田崇人に聞く執着心「結婚指輪は……どこかにやっちゃいました(笑)」
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インタビュー
永田崇人&高橋惠子 撮影:岩田えり
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すべて見るユダヤ人の文豪の遺稿は誰のものか。その所有権をめぐり、10年に及ぶ法廷闘争が繰り広げられたことは、文学ファンなら記憶に新しいところ。
そんな実話をベースに、母から託された原稿を守るべく、30年にわたって闘い続けた女の人生を描いたミュージカル『HOPE』が日本で初上演される。
現代文学の巨匠ヨーゼフ・クラインは自分の遺稿をすべて燃やしてほしいと伝え、この世を去る。しかし、遺言を託された友人・ベルトの判断によって原稿は燃やされることなく保管され続け、第二次世界大戦の戦火を逃れ、やがてベルトの恋人・マリーのもとに。そして、その娘・ホープの手へと渡っていく。
国立図書館の主張をはねのけ、決して原稿を手放そうとしないホープ。その頑なな姿に、世間は彼女を“狂女”と糾弾する。なぜ彼女はそこまで原稿に執着するのか。その問いの先に、数奇な運命に翻弄された女の人生が浮かび上がる。
ホープに扮するのは、ミュージカル初挑戦の高橋惠子。ヨーゼフ・クラインの原稿を擬人化したKを永田崇人、小林亮太の2人がWキャストで演じる。
はたして観客はホープの生き様に何を見るだろうか。
実は、女優を辞めようと思っていました
――高橋さんは、本作がミュージカル初挑戦。これだけのキャリアがある高橋さんが、今このタイミングで新しいことに挑戦するのはとても勇気のいることだと思ったのですが、何が決め手になったのでしょうか。
高橋 本当はね、2年後に辞めようと思ってたの、女優を。
永田 え。そうなんですか。
高橋 そう。向いてないと思ったの、今さらだけど(笑)。
永田 え〜!
高橋 他にも違うことをいろいろやりたいなと思って。それで、あと2年で辞めようと思いながら、別の舞台をやっていたの。だけど、やりながら思ったのね。まだ自分はやりきってないって。
永田 (感動のようなため息)
高橋 で、やめるのはやめたって(笑)。そしたら、その2日後か3日後にこのお話をいただいて。これは運命だと思って、ぜひやらせてくださいとお引き受けしました。
永田 高橋さんが向いていないって思うんだなあっていうのが衝撃的で。自分も結構そういうことで悩むこともあるんですけど。
高橋 そう。でもみんなそうかも。
永田 ちょっと勇気をもらえましたし、初挑戦のタイミングでご一緒できることがありがたいです。
高橋 どうせ続けるならやり残したことがないように、やったことがないことでもやってみようって。人間がやっていることだし、やればなんとかなるんじゃないかという開き直りの精神です(笑)。
永田 僕もミュージカルはあんまりやっていないので、不安というか緊張はあるんですけど。しっかり本腰入れて準備をしていこうと思います。
――ボイストレーニングも受けられたそうですね。
高橋 まだ1回しか受けられていなくて。それも声を出したのは、1時間のうち10分あるかないかくらい。あとはずっと体づくりをやっていました。内臓を引き上げるとか、そういうことを教えていただくんですね。どれも新鮮で面白かったです。
――永田さんは本作に臨む上でテーマにしたいことはありますか。
永田 人間って普通に喋っていると、声に感情とか最低限しか入らないじゃないですか。でも、ミュージカルは何でも声に乗せないといけないと最近先生に言われて。それが得意ではないんですけど、そういう表現方法を知っておくことは自分の俳優人生にとっても大事なこと。今回はそこをしっかりできるようになりたいです。
高橋 確かに普段はそんなに感情を前面に出すことってないものね。でも、私もミュージカルに詳しいわけではないのでわからないけど、きっとそうやって感情を乗せることで自分の中で何かが解放される気がするの。それが私も楽しみだし、期待しているところです。
ホープの人生を肯定したいなと思った
――“狂女”と世間からバッシングされながらも、原稿に執着するホープの生き方をどう思いましたか?
高橋 イスラエルのことだったりユダヤ人のことだったり、その背景に戦争があることだったり、そんな過酷な状況下でホープがどう生きてきたのかをちゃんと想像しないと埋められないところがあるんですけど、母親の存在って子どもにとっても大きいと思うんです。
自分に愛情を向けてほしいのに、母は愛した人から受け継いだ原稿にばかり心が向いている。その原稿を今度は私が守りぬくんだとホープが決めたのは、きっと母親に対する想いがプラスされているんじゃないかという気がするんですね。
しかも、ホープはそれから30年も裁判を続ける。それってすごくエネルギーがいるし、自分の人生をすべて費やすくらいの気持ちがないとできない。そんなホープが最後にああいう決断をくだす。とても勇気がいるし、私はホープの選んだ人生に共感しました。
永田 僕もホープの人生を肯定したいなって思いました。しかも、これは史実に基づいた話。実話ならではのパワーというか重みがあるというか。僕の演じるKは原稿の擬人化という設定なんですけど。
高橋 面白い設定よね。
永田 はい。やりようはいくらでもあるので、稽古場でいろんなことを試して、どういうキャラクターがいちばん作品にとっていいのかをたくさん考えたいです。
上京への想いを込めた指輪が、僕のひとつのアイデンティティ
――おふたりは執着心は強い方ですか?
永田 僕はあんまりないと思います。結構さらっとしてるというか。
高橋 私もそう。ただ思うのが、物って勝手に生まれないんですよ。必ず人によって生まれてくる。人の手が関わっている以上、そこにはいろいろな想いがこもっているだろうなとは考えます。最近娘から物にも名前があるという話を聞いて。
永田 それは日本語名なんですか、「よしお」とか。
高橋 それがね、うちには夫婦2人で食事する用の小さいテーブルがあるんですけど、それは「ペ」って言います(笑)。
永田 (笑)。韓国でつくられたんですか?
高橋 そう。時々、「ペ」を見て、何かそこに韓国の方の想いが入っているのかなと考えたりしています。
――Kのように長く連れ添ったものはありますか?
永田 僕は指輪ですね。
高橋 あら。いくつから持っているの?
永田 まだ7~8年とかですけど。この仕事を始める前、僕は大学に行きながら熊本の洋服屋で働いていて。東京に行くと決めたときに、その店に置いてあったまあまあ高価な指輪を買ったんですね。それが、後から石を入れられるもので。これにいつか石を入れるために頑張ろうって。
高橋 もう石は入れたの?
永田 入れていないです。逆にもう入れたくなくなっちゃって。
高橋 愛着が沸いちゃったのね、もうこのままでいいって。
永田 そうですね。すごい派手で、今だったら絶対買わないし、誰に会っても何これって言われちゃうんですけど、これが僕のひとつのアイデンティティだなって。
高橋 指輪か……。私は結婚指輪もどっかにやっちゃった(笑)。
永田 それ、大丈夫ですか(笑)。
高橋 ちょっと前まではあったの。けど、引っ越しのタイミングか何かで見当たらなくなっちゃって。私、物に執着心があんまりないの。2~3年前かな。今までいただいたトロフィーも全部捨てちゃった(笑)。
永田 えー!
高橋 だって何の役にも立たないもの。ただ置いて見るだけで、場所を塞ぐだけだし、もういいやって。
永田 まあ、確かに……。
高橋 それにね、いいんです、トロフィーなんて。ほしくなったら、また別の機会でもらえば。そういう気持ちでね、これからもやっていこうと思います。
名前を変えることで、等身大の自分に近づきたかった
――では、ここからはおふたりがお互いのことを知るために、いろいろと質問させてください。永田さんは今27歳。高橋さんの27歳のときの思い出といえば?
高橋 ちょうど結婚した年ですね。で、名前を変えたんです。それまで関根恵子と名乗っていたのが高橋惠子になりました。そう考えると、人生の大きな転機になった年ですね。
――結婚と改名により何が変わりましたか?
高橋 15歳で初めて映画に出て。そこから世の中のイメージが本当の私からどんどんかけ離れて、つくられた存在みたいになっちゃっていたんですね。結婚して名前を変えたのは、等身大の自分に近いところからもう一度女優を始めたいと思ったから。
高橋も普通なら、惠子も普通でしょ(笑)。その普通なところが良くて、誰にも相談せず名前を変えることを決めました。そこからも子どもを産んで、母親になって。本当に普通の毎日を送って。
すごく楽しかったけれど、どこかに普通で終わりたくないという気持ちもあって。だから、女優の仕事も続けたかった。たぶんそれは私の中にあるもともとの気質なんでしょうね。このホープという役にも、私の普通じゃない部分をぶつけたいと思っています。
――永田さんは27歳の日々をどんなことを考えながら過ごしていますか。
永田 いい仕事をしたいなあって、いつもそればっかり思っています。それしか生き甲斐がないんで。今の高橋さんのお話を聞いて、僕は結婚できるのかなって、ちょっと不安になりました(笑)。
高橋 そんなのは別にしたいときにすればいいんじゃない? 別に50歳になってからしたっていいし、結婚しないからダメということでもないでしょ?
永田 そうですよね。今のところ結婚は全然考えていないです。それよりも今は仕事が第一。そのために東京に来たので、もっともっと仕事を頑張りたいです。
この仕事のおかげで、人の人生を一面的に見なくなった
――永田さんからこの場を借りて高橋さんに質問したいことはありますか。
永田 何だろう……。あ、じゃあ、この仕事をしていて、いちばんよかったなと思うことは何ですか? すいません、ありきたりの質問で(笑)。
高橋 全然! よかったと思うことはいっぱいあるんだけど、よく「役になる」と言うじゃない? でも、なれないのよね。なれないけれども、演じるにあたってそういう立場の人の想いを知ろうとする。すると、人に対していろんな見方ができるようになるのね。
一人ひとり、それぞれの人生があって、どれが上とか下とか、いいとか悪いとかじゃない。そんなふうに人の人生を一面的に見ないと思えるようになったのは、この仕事のおかげだと思います。
永田 確かに。
高橋 今までいろんな人を演じてきましたからね。ハムレットの母親やマクベス夫人もやってきたし、トラックの長距離運転手もやったことあるのよ(笑)。
永田 そうなんですか!
高橋 みんな、食べるものから価値観まで全然違う。そういうことを経験するとね、いろんな立場の人のことを想像できるようになるの。そうすると、人に対して公平に見られるようになる。演じることを通じて、人間として成長させてもらいました。
永田 ありがとうございます。なんか、いい質問したなって思いました(笑)。
高橋 ふふふ。とってもいい質問でした(笑)。
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撮影/岩田えり、取材・文/横川良明
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