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ピーター・バラカンが『ママ・アフリカ ミリアム・マケバ』の魅力を解説 PFFの人気企画「ブラック&ブラック」が開催

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現在、国立映画アーカイブで開催中の「第43回ぴあフィルムフェスティバル」で、恒例の人気企画『映画と音楽シリーズ「ブラック&ブラック」』の上映が9月15日に行われた。

このスペシャル上映は、ブラック・ライブズ・マター運動が起きたことを機に、ブラック・ミュージックに焦点を当てて3年前にスタート。音楽にも映画にも造詣の深いピーター・バラカン氏が作品の選定からナビゲーター&トークまでを担当している。この日も多くの観客が珠玉の音楽映画を堪能するとともに、バラカン氏のトークに聴き入った。

今回の本シリーズで、バラカン氏がピックアップしたのは2作品。「ママ・アフリカ」の愛称で親しまれ、南アフリカの歌姫として世界的に知られるミリアム・マケバの『ミカ・カウリスマキ/ママ・アフリカ ミリアム・マケバ』と、「JB」の愛称でおなじみ、ファンクの帝王、ジェームス・ブラウンの『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』という、ドキュメンタリー映画が選ばれた。

第一弾として本日上映されたのは、『ミカ・カウリスマキ/ママ・アフリカ ミリアム・マケバ』。タイトルから察しがつくように、この作品は、『GO!GO!L.A.』や『モロ・ノ・ブラジル』などで知られるフィンランドのミカ・カウリスマキ監督が手掛け、歌手として活躍する一方で、反アパルトヘイトを訴え活動したミリアム・マケバの音楽と人生に迫る。今から10年前の2011年に発表されていながら、日本では劇場未公開となっていた作品だ。

上映が終わり、アフタートークで登壇したバラカン氏は、まず冒頭で「(僕は)この作品の存在をまったく知らなかった。今回の企画を進めるにあたって、ミカ・カウリスマキがこういう映画を撮っていることを知って、“こんな作品があったのか!”」と驚いたことを告白。「(PFFディレクターの)荒木(啓子)さんに感謝したい」と日本未公開作品を上映にこぎつけた映画祭に謝意を述べた。

主人公のミリアム・マケバは1932年に南アフリカのヨハネスブルクで誕生。ところが生まれて間もなく母親が密造酒の販売で逮捕され、生後約6カ月を母親とともに刑務所で過ごすことになる。

ここから彼女の波乱の人生はスタート。1959年に反アパルトヘイトの記録映画に主演したことに南アフリカ政府が激怒し、国外追放に。以後、彼女は母国へと戻れなくなり政治亡命の日々が続く。

ただ、その間も、音楽活動を続け、1966年にはグラミー賞を受賞。一方で、ブラックパンサー黒人運動活動家のストークリー・カーマイケルと結婚。ニクソン政権下ではFBIなどに常に監視対象となっていた。

その後、1990年にネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領が釈放されたとき、母国への帰国が許可され、約30年ぶりに南アフリカの地を踏んでいる。そして、2008年に死去。亡くなってもう10年以上が経つ。

ドキュメンタリー映画『ミカ・カウリスマキ/ママ・アフリカ ミリアム・マケバ』は、ミリアムの関係者やバンド仲間、元夫などの証言や彼女自身のメディア出演時のインタビュー、ライブ映像などでまさに彼女の人生をたどった内容。バラカン氏のトークは、この映画の内容を補完する形のさまざまなエピソードが語れた。

その中で、バラカン氏は、作品内でミリアムが自身にとって最大のヒット曲となった「パタ・パタ」について、「内容のある曲ではないので実はあまり好きじゃない。ほかの違う曲がヒットしてほしかった」と打ち明けている点に触れ、

「多くのミュージシャンにこういうことがあるなと思いました。もちろん多くの大ヒット曲をもっている人もいるが、多くのミュージシャンの大ヒット曲は1曲か2曲。ほんとうはもっといい曲が別にあるかもしれない。けど、どこで演奏しようとお客さんが聴きたい曲はその曲になってしまう。

おそらく何十年もほんとうは歌いたくないが、毎回毎回それを歌わざるえない。これはミュージシャンの宿命で、ミリアムもそういう状況にいたことを感じました」と語り、

「僕はこの曲『パタ・パタ』は大好きな曲なんだけど、彼女のこの話をきいたら、ラジオで曲をかけるとき、うしろめたい気持ちになるかも」と複雑な心境を明かした。

その後も話は続き、作品内でも映像が登場するポール・サイモンがミリアムを招き、ジンバブエで行ったコンサートのことなどが語られ、最後は、ミリアムが母国南アフリカの地を踏むきっかけを作ったネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領の話に。

長く刑務所生活を余儀なくされたネルソン・マンデラを「解放せよ!」というメッセージが込められたイギリスのバンド、The Specialsの楽曲『Nelson Mandela』を流して充実のトークは終了した。

そして最後の最後にバラカン氏は、今回の作品に関して「最初に観たとき、情報量がかなり多いし、けっこう編集のカットのテンポが速いのでなかなかついていけなかった」とのこと。

「今回、劇場での公開はない『ぴあフィルムフェスティバル』ためだけの上映で、もう一回上映があるので、今回観てよかったけども、もう少しゆっくり観たい方は、もう一度観ることをお薦めします。さらにいろいろとみえてくることがあると思います。また、もう1本の『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』もよかったら来てください」と言葉を寄せた。 ということで、今回見逃してしまったという方は、まだチャンスあり。『ミカ・カウリスマキ/ママ・アフリカ ミリアム・マケバ』は17日 17:30より(※トークなし)、もう一度上映される。もう1本の『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』は、22日(水)17:30より、バラカン氏のアフタートーク付きで上映。どちらもお見逃しないよう願いたい。

また、「第43回ぴあフィルムフェスティバル」は9月25日まで開催。『映画と音楽シリーズ「ブラック&ブラック」』のほかにも、今世界の映画祭で脚光を浴びるタイの新鋭、ナワポン・タムロンラタナリット監督に焦点を当てた世界初の大特集『ナワポン・タムロンラタナリット監督特集~タイからの新しい風』、松居大悟ら名だたる監督たちが、心から敬愛する今は亡き森田芳光監督の傑作について語り明かす『森田芳光70祭~伝えたい、モリタを~』など、本映画祭ならではのオリジナルで特別な企画・特集が多数組まれている。

未来の映画作家を目指す若手作家たちがしのぎを削るメイン・プログラムとなるコンペティション「PFFアワード2021」と合わせ、新しい才能、新しい映画に出会う機会にしてほしい。

取材・文=水上賢治

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