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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 第1回:映画『前科者』 社会復帰を目前に失踪した元受刑者。 そのとき、“保護司”阿川佳代は……!?

第1回:映画『前科者』
社会復帰を目前に失踪した元受刑者。
そのとき、“保護司”阿川佳代は……!?

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国家公務員だけど報酬は一切ナシ!?
意外と知らない、“保護司”ってどんなお仕事?

保護司の仕事は、犯罪や非行に走った元受刑者の更生を助けること。法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員ではあるが報酬は一切支払われず、民間のボランティアによって成り立っている。本作の主人公・阿川佳代のように、保護観察中の元受刑者たちと定期的に面談をするなどし、彼らの社会生活を見守るのが主な役目。

保護観察官からの指示を受け、担当する元受刑者に会うところから任務は始まる。時に過酷な任務にもなり得るが報酬が発生しないため、劇中の阿川と同じく他の職業と掛け持ちで保護司をする人も。保護司法の第1条では、その使命を「保護司は、社会奉仕の精神をもって、犯罪をした者の改善及び更生を助けるとともに、犯罪の予防のため世論の啓発に努め、もって地域社会の浄化をはかり、個人及び公共の福祉に寄与することを、その使命とする」と掲げている。

保護司の仕事に熱心なのはある理由が……?
主人公・阿川佳代の繊細なキャラクター像

コンビニの店員として働く一方、保護司として元受刑者たちの更生を助けてきた阿川佳代、28歳。保護司の任務に熱い阿川は、担当する元受刑者たちを叱咤することもしばしば。彼らが社会生活を滞りなく行えるよう、深い愛情をもって接している。

母親の愛にも似た情熱は元受刑者たちの凍てついた心を溶かすことも多く、担当した元受刑者たちからの信頼はあつい。一方、周りからはもっと自分の人生を楽しむよう諭されるが、なぜ阿川はそこまで保護司の仕事に懸命なのか? その理由は、阿川が過去に経験した出来事に関連している。

呆れるほど真っ直ぐで、毅然としていて、しかしながら不器用で、どこか目が離せなくなるほどチャーミングな阿川を、昨年は『花束みたいな恋をした』も大ヒットを記録した有村架純が熱演。純粋ではあるが綺麗事では片づかない現実も知る阿川に、等身大の魅力をもたらしている。

社会復帰を目前に姿をくらました理由は……!?
“前科者”工藤誠の謎めいた人物像

阿川が半年前から担当しているのが、誠実で穏やかな元受刑者の工藤誠。10歳のとき、義理の父親に母親を殺された工藤は、弟とともに施設を転々とすることに。やがて就職したパン工場で先輩からの激しいいじめに遭い、相手を刺し殺してしまう。そのときのことを全く覚えていないという工藤には、「また人を殺してしまうかもしれない」という不安がつきまとっている。

親身な阿川との関係は良好で、自身が抱える戸惑いや不安を阿川に打ち明けることも。仮釈放後に働き始めた自動車修理工場での仕事ぶりもよく、保護観察明けには社員に起用される予定。しかし、保護観察終了前の最終面談の日、突如として姿を消してしまい……。社会復帰を目前に、工藤の身に何が起きたのか?

哀しい事情を抱えて生きる工藤役で、『ヒメアノ~ル』の森田剛が唯一無二の存在感を発揮。懸命であろうとする工藤を繊細に演じ、心をわしづかみにしてくる。

若手からベテランまで多彩なキャスト陣が好演!
阿川と工藤を取り巻く人々

姿を消した工藤を追う若手刑事・滝本真司を、『ヤクザと家族 The Family』などの磯村勇斗。滝本とともに工藤の足取りをたどるベテラン刑事・鈴木充を、個性派として多数の作品で印象を放つマキタスポーツ。工藤の失踪に関わってくる謎の青年を、『街の上で』などの若葉竜也。さらには、阿川が保護司として初めて担当した保護観察対象者であり、阿川の良き友人として今も交流を続けている斉藤みどり役で、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』などの石橋静河が出演。個性溢れる登場人物たちが、阿川と工藤の物語の中で重要な役割を果たしている。

また、保護司の阿川を冷静かつ穏やかに導く保護観察官(北村有起哉)、保護司として奔走するあまり、コンビニの仕事に支障をきたす阿川を半ば諦め顔で見守るコンビニの店長(宇野祥平)なども、阿川の日常になくてはならない人たち。さり気なくも人間味のあるドラマを、それぞれ担っている。

Character

滝本真司
(磯村勇斗)

区役所福祉課の職員が殺害される事件を捜査。やがて工藤に疑いの目を向ける中で、保護司である阿川のもとを訪ねる。実は、阿川とは中学時代の同級生。阿川との過去に、何か大きな出来事があったようで……。

斉藤みどり
(石橋静河)

阿川が保護司として最初に担当していた保護観察対象者。現在は便利屋を営んでおり、社員を引き連れて阿川の家に上がり込むこともしばしば。良き友人として接し、保護司の仕事に熱過ぎる阿川を心配している。

鈴木充
(マキタスポーツ)

滝本とバディを組み、区役所福祉課の職員が殺害される事件を捜査。やがて連続殺人事件へと発展していく事態に苛立ちを隠せないでいる。工藤を容疑者と見なし、保護司である阿川に威圧的な態度を取ることも。

宮口エマ
(木村多江)

工藤の義父が妻(工藤の母)を殺害した事件の弁護士。罪の重さで犯罪者を線引きするべきではないという信念を持ち、工藤の義父の弁護を引き受けた。失踪した工藤を探す阿川に会い、助言をすることになる。

REVIEW
繊細なドラマを演じきったキャスト陣
ラストには岸善幸監督が用意した優しいメッセージが

保護司の仕事も板についてきた阿川佳代の奮闘記が展開する映画版で、物語の軸になるのは2本。阿川が担当していた保護観察対象者の工藤は、順調に社会復帰を目指す中でなぜ姿を消したのか? そしてもうひとつは、保護司の仕事に並々ならぬ情熱を傾ける阿川の過去に何があったのか? だ。

工藤のストーリーラインは原作コミックを発展させたオリジナル脚本として生まれたもので、サスペンス色が強く、犯罪捜査ドラマの趣も。事件の中心に立たされることになる工藤のやるせない事情を森田剛が背負い、緊迫の展開と濃密なヒューマンドラマを一手に引き受けている。

一方、事件の核心に迫るのと並行し、徐々に明かされていくのが阿川の過去。頑固で、凛々しく、自分に偽らず生きているかのように見えた阿川もまた“事情”を抱えているのだと分かる。そんな阿川を決して単純には語れない人物として演じ上げた有村架純はもちろん、彼女と複雑な因縁で結ばれた刑事・滝本を演じる磯村勇斗も作品の重要なピース。悩ましいほど複雑で壊れそうなほど繊細な阿川と滝本の歴史を、実力派ふたりがあるワンシーンで切なく表現している。

おいそれと分かった気にはさせてくれない主人公・阿川佳代の物語は、工藤の事件を経てどう着地するのか。“人間”を描いてきた岸善幸監督が、ラストに優しいメッセージを滲ませている。

Text:渡邉ひかる

『前科者』
1月28日(金)より全国公開

(C)2021香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会