
モッズスーツを着た元特殊部隊のエリート!
英国から新たなヒーローが登場!
『PENNYWORTH/ペニーワース<シーズン1>』特集
1960年代の英国ロンドンを舞台に、抜群の戦闘能力と知的でチャーミングな魅力を持った新たなヒーローが活躍するドラマシリーズが日本初上陸!「まるでジェームズ・ボンドのようだ」とまで評されるその主人公の名は、アルフレッド・ペニーワース。右派と左派が対立し内乱一歩手前という緊張状態の中、モッズスーツを着込んだペニーワースが国家転覆の陰謀に立ち向かう!
本特集では、本作の魅力をひも解くとともに、いち早くご鑑賞いただいたイギリス出身のブロードキャスター、ピーター・バラカンさんに本作の感想を語っていただきました!
『PENNYWORTH/ペニーワース』の
魅力をひも解く!
ピーター・バラカンが語る
『ペニーワース』の魅力

<ピーター・バラカンさんに聞く『PENNYWORTH/ペニーワース』>
撮影や時代考証、演技、脚本はお見事
若い役者たちの演技もいい
ジャック・バノンは人気が出るんじゃないかな
── まずは『PENNYWORTH/ペニーワース』をご覧になった率直なご感想を教えてください。
ピーター・バラカン(以降バラカン) 今回、全10話を観たのですが、やはりすべて観ると、ハマってきますね。
第一印象としては、漫画チックに突然なるような箇所があったりすると、ちょっと引いてしまいます。ある暗殺の場面が現実離れしていて、ゾンビじゃあるまいし……と思ったりも(苦笑)。ただ、リアリズムはあまり必要としていないのだろうと思うと納得できました。
暴力に関しても、絞首刑のシーンは突然中世に飛んだようで現実離れしているんですが、そこはもちろん狙ってやってるんでしょうね。Netflixの『ビーキー・ブラインダーズ』はシーズン3から暴力描写がどんどん生々しくなってきて観るのを止めてしまったんだけど、『ペニーワース』に関しては、そこまでの描写はなかったですから。
その一方で、撮影や時代考証、演技、脚本は見事ですね。そういう意味ではとても興味を惹かれるドラマでした。

── 1960年代というとイギリスでは『007』シリーズの生まれた時期でもありますが、つながりを感じましたか?
バラカン ジェームズ・ボンドというよりも、僕はマイケル・ケインを連想しました。『国際諜報局』という映画で彼が演じていたハリー・パーマーはコックニーのアクセントで話す労働者階級のスパイなんですが、まさにあんな感じ。で、女性にもモテる(笑)。
ケインを匂わせる決定的な描写がひとつあるんです。アルフィー(=アルフレッド・ペニーワース)の住む家の通りの表示が何度か出てきますよね。一、二度、それがアップになるんだけれど、ミクルワイト・アヴェニューだったかな。で、マイケル・ケインの本名はモリス・ミクルワイトなんですよ(笑)。ミクルワイトという名はイギリスでも決して多い名前ではない。これはマイケル・ケインに対するオマージュで、分かる人には分かる、と僕は思いました。
── それは気づきにくいポイントですね。
バラカン 数年前に公開されたスウィンギン・ロンドンのドキュメンタリー映画『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』でマイケル・ケインが案内役を務めていましたが、あの映画の中で彼が自分の本名を言うんですよ。あの映画を観て、僕も初めて知りました。

── 黒魔術の大家とされるアレイスター・クローリーも、1960年代は没後でしたが、このドラマには登場するので、ファンタジー的な色合いは強いのかもしれませんね。
バラカン 本作で出てくる歴史上の人物というと彼くらいなのかな。当時はもう亡くなっていましたが、描かれているキャラクターは、あれに近いと思います。ブラック・マジックの使い手だった人物として、当時は有名でしたね。名前の発音はアリスタ・クラウリーですけど……。
それと実在する人物ではないですが、ハーウッド卿というキャラクターが悪役として劇中に出てきますが、イギリスにはハーウッド卿という人物が実際にいたんですよ(笑)。なので、よくこの名前でキャラクターを作ったなあと思いました。

── 冒頭で脚本が見事とおっしゃられていましたが、どういった点でしょうか?
バラカン 日本人には分かりにくいと思いますが、イギリス人以外には分からないようなセリフ回しがたくさん出てくるんですよ。特に労働者階級、アルフィーとその家族、デイヴ・ボイやバザら友人との会話は、いかにもイギリス人といった感じですね。ああいう気取らない雰囲気は、滅多にドラマの中で見ることはありません。その辺は、現実離れした描写とは対極にありますね。
劇中の日常的な会話に関して言うと、僕が40数年前までロンドンで暮らしていた時期の言い回しそのままなんですよね。今のロンドンの若い世代が、ああいう言葉の使い方をしているかどうかは分かりませんが、あの時代の言葉の持ち味を、よく知っている人が脚本を書いているのでしょう。
また、それに応えている若い役者たちの演技もいい。アルフィーのセリフは、時に誇張している部分あるけれど、あまりにも自然で嫌味がない。あのジャック・バノンという俳優は人気が出るんじゃないかな。

── 他の俳優はどうでしょう?
バラカン (悪役の)サイクス姉妹がマンチェスター出身という設定でしたが、あのふたりは北の人間特有の土くさい訛りで話しているんですよね。妹のベットは1話目のロンドンでの物語から登場していますが、言葉を発した瞬間に、そのアクセントだけで“彼女は北の人間だ”と分かるんです。

── アルフィーと家族との生活の描写は、当時と実際の状況と比べて、リアルに見えましたか?
バラカン そうですね。居間や家の雰囲気は労働者階級の雰囲気がありました。テレビはあの時代のままでしたし、車にもリアリティを感じました。ただ、冷蔵庫は、当時にしてはちょっと大きかった(笑)。
アルフィーが恋人エズメの父に挨拶に行った際に、司祭であるエズメの父が労働者階級の彼を見下しているのも、極めてイギリスらしい場面だと思います。あの時代は、階級違いの結婚に対して、親はまず反対していたでしょうね。
── 現実味とファンタジーがうまく組み合わさった作品、ということですね。音楽に関しても60年代にこだわらず、時代を錯綜していますが、その辺はどうご覧になりましたか?
バラカン 80年代のピッグバッグの曲が流れたり、最終話ではクラッシュの70年代の曲が流れていましたね。そういう意味では選曲は独特だったと思います。深みを感じるほどではないですが、ただモッズ色へのこだわりはあるのかもしれません。スモール・フェイセスが複数曲使われていたり、アートウッズの曲が流れていたり、モッズ・シーンを代表するバンドの曲がけっこうあります。アルフィーのスーツもモッズ風だし、そういう点では60年代のモッズ・カルチャーを意識しているかもね。

── このドラマでは政治的なふたつの秘密結社の対立がドラマの鍵となっていますが、当時のイギリスにはこのような動きがあったのでしょうか?
バラカン 目に見えたかたちではなかったけれど、ファシスト的な政治家は当時もいましたよ。それが70年代にナショナル・フラント(イギリス国民戦線)に発展し、一応、政党を名乗ってはいましたが、移民排斥を訴える極右の団体は存在していました。イーノック・パウェルという、やはり移民排斥を訴える議員もいて、イギリス国内での支持もそれなりにありましたね。ただ、実際に暴動のように活動が過激化するのは60年代ではなく、70年代に入ってからですね。
── イギリスで最後に死刑が行なわれたのは1964年で、このドラマはもう少し後の設定になっています。劇中では死刑がテレビ中継されていますが、あんなことは実際にはないですよね?
バラカン ない、ない(苦笑)。あれはなんでもリアリティ番組にしてしまう時代への皮肉として受け止めました。“こんなことはテレビでは見せないだろう”というような部分まで、今のリアリティ番組は見せますよね。それに対する風刺のように思えます。
そもそも、ロンドン塔が刑務所・処刑場だった時代は大昔です。ドラマの中で、刑務所の名前はニューゲイト刑務所と呼ばれていましたが、その刑務所が存在していたのもおよそ19世紀までだし。ディケンズの小説に出てくる時代の話ですよ。そういう部分は、このドラマの漫画的な味になっていると思います。
プロフィール

ピーター・バラカン
1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「Barakan Beat」(インターFM)、「Weekend Sunshine」(NHK-FM)、「Lifestyle Museum」(東京FM)などを担当。著書に『ピーター・バラカン式英語発音ルール』(駒草出版)、『Taking Stock どうしても手放せない21世紀の愛聴盤』(駒草出版)、『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)などがある。
取材・文:相馬学
Photo:AFLO
『PENNYWORTH/ペニーワース』の
魅力をひも解く!
ピーター・バラカンが語る
『ペニーワース』の魅力

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発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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