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【おとな向け映画ガイド】

老いに近づいた女性ふたりの秘密……『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』

ぴあ編集部 坂口英明
22/4/3(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(4/8〜9)の映画公開は17本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』『とんび』『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』の3本。中規模公開、ミニシアター系が14本です。今回は8日公開のフランス映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』を紹介します。

『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』

そろそろ老いに近づいた、女性ふたりの愛の物語。原題は『DEUX』。「ふたり」と簡単に訳してもよいのでしょうが、日本語タイトルはちょっと意味深で、素敵です。

南仏のおちついたアパルトマン、その最上階。エレベーターを降りると、右と左に向かい合って2室。右の部屋はフランス人のマドレーヌが、夫に先だたれてひとり暮らし。息子と娘は独立して、時おり訪ねてくるくらい。思い出の品々と品のいいインテリアに囲まれた、優雅なライフスタイルです。左の部屋には、同じくらいの年齢、ドイツ人のニナが住んでいます。こちらはやや謎めいた暮らしぶりです。

実はこのふたり、隣人を装っているものの、ほとんど一緒に暮らす恋人同士です。ふだんはマドレーヌの部屋で過ごし、例えば、誕生日のお祝いで、子や孫が訪ねてくるときは、ニナが自分の部屋に避難する。ふたりが深く愛しあっていることは、秘密。いわゆる“クローゼット”なのです。

残された人生。ふたりはそれぞれのアパルトマンを売って、思い出の地、イタリアのローマに移り住む計画をたてています。不動産屋をよび、査定してもらい、あとは子供たちに、自分たちの関係と移住計画をどう打ち明けるか。ところが、マドレーヌは突然、脳卒中に倒れ、病院に運ばれてしまうのです……。

ここからは、まるでサスペンスまたはミステリードラマです。救急車を呼んだのはニナですが、マドレーヌの意識がなくなってしまうと、ふたりのことを知らない子供たちにとって、彼女は仲のいい、おせっかいな隣人でしかありません。いまさらニナが「20年来の恋人だ」といいはっても信じてくれる人はいません。もちろんニナはマドレーヌの部屋の合鍵を持っているし、とても行動的です。そのことが引き起こす、まさに思わぬ展開が待っています。

監督・脚本は、この作品が長編デビュー作のフィリッポ・メネゲッティ。友人が住むアパルトマンを訪ねたとき、扉を開けたまま部屋越しで親しそうに話す未亡人ふたりをみて、イメージをふくらませたといいます。

家族を思い、自己抑制してしまう、心やさしいマドレーヌを演じるのは、フランスの名門国立劇場、コメディ・フランセーズの名役者マルティーヌ・シュバリエ。情熱的で勝ち気なニナ役はドイツの大女優、バルバラ・スコヴァ。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『ローラ』や、日本でも大ヒットした『ハンナ・アーレント』などでさまざまな女優賞を受賞している実力派です。

劇中に何度も効果的に使われるのが、日本ではリトル・ペギー・マーチ版が大ヒットした「アイ・ウィル・フォロー・ヒム」という曲のイタリアヴァージョン。マルティーヌ・シュバリエは1949年生まれ。バルバラ・スコヴァは50年生まれ。彼女たちが10代のころの世界的なヒットソングです。セリフではあまり多くを語られないふたりの愛の物語と結びつく重要なメロディーです。

この歌の思い出、ふたりの出会い、謎めいたニナの過去……。最近の映画は、伏線の回収に神経質ですが、そのあたり過度に説明をしないで、観る側の想像にまかせてくれる、おとなのフランス映画なのです。上映時間も95分。このくらいがとてもよい塩梅。

【ぴあ水先案内から】

高崎俊夫さん(編集者、映画評論家)
「……ふたりの対照的な佇まいが、この映画にこの上ない品位と静謐な格調をあたえている……」

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首都圏は4月8日(金) からシネスイッチ銀座で、中部は4月15日(金) からセンチュリーシネマで、関西は4月15日(金) からテアトル梅田で公開。

(C)PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTEMIS PRODUCTIONS - 2019

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