ユーモアと皮肉と醜さのスパイスを効かせた人間喜劇―演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『冬のライオン』
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『冬のライオン』より 撮影:田中亜紀
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すべて見る国王ヘンリー二世と妻エレノアが軽い笑みを浮かべて腕を組みながら舞台奥へとゆっくり歩みを進めていく最後の場面は、やっぱりと納得はしたもののふたりの愛情の不可解さを思わずにはいられなかった。森新太郎が演出した『冬のライオン』。ユーモアと皮肉と醜さのスパイスを効かせた人間喜劇を見せつけた。
物語の縦糸は“冬のライオン”であるイングランド国王の跡目問題である。息子3人の中から誰を選ぼうか。権力者や富裕者の欲望とは始末に悪い。疑心暗鬼になり易く、自己中心に陥る。演じたのが佐々木蔵之介。考えが合わない年上の妻エレノアを幽閉し、息子を試し、愛妾であるフランス王女アレー(葵わかな)や隙を狙うフランス王フィリップ(水田航生)を巻き込む骨肉の争いを繰り広げる。これが横糸。
溺愛する長男リチャード(加藤和樹)に王位を譲り、アレーと結婚させたいエレノアが高畑淳子。国王夫妻は、意見対立のみならず、まだ愛に溢れていた頃の過去を引き合いに出す。佐々木と高畑は猛烈な罵り合いが多弁、それも夫婦漫才の如く、しゃべりまくる。だが、却ってその言葉の闘いが心地良くなったのが不思議だった。愛情と憎悪はコインの裏表なのかも知れない。
佐々木のヘンリーはスケールが大きい国王というスタンスではなく、わがままで迷惑な亭主に近い。息子3人に対する感情、接触ぶりを変えながら権力者の苦悩と孤独を描いた。高畑は時にヒステリックに、時に喉をゴロゴロ鳴らす猫の如く夫に甘える。自在の演じ分けである。息子の中では三男ジョンを演じた浅利陽介の喜劇味が愉快だった。
それにしても、だ。権力者の家庭背景とか身勝手な愛情の行方、独断と偏見によって動かされる政治などとは何と恐ろしいものか。(2/27所見)
『冬のライオン』 公演期間:2022年2月26日(土)~2022年3月15日(火) 会場:東京芸術劇場プレイハウス
プロフィール
大島幸久(おおしま・ゆきひさ) 東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。
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