過酷な運命を乗り越えたふたりの画家が描く牧歌的な風景の美しさ 『牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児』開催中
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すべて見る幸せに溢れた牧歌的な風景を描き続けたアンドレ・ボーシャンと藤田龍児。ふたりは生まれた国も、活躍した時代も異なるものの、過酷な状況のなかで絵を描いたなど、いくつかの共通点も持っている。東京ステーションギャラリーで4月16日(土)より7月10日(日)まで開催されている『牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児』は、彼らの代表作が並ぶ展覧会。コロナ禍の影響により、予定していた展覧会の日程が大きく変わった影響で生まれたものだ。
フランスで活躍した画家アンドレ・ボーシャン(1873-1958)と藤田龍児(1928-2002)。新しい展覧会を立ち上げるため、学芸員それぞれが個人的に温めていた素材を持ち寄り、並べて検討していたときに、両者の作品が響き合っているように感じられたことから、時間をかけて今回の実現の運びになった。企画を進めていくうちに、全く異なる境遇、時代に生まれたふたりの画家であるものの、重なり合う部分が少なくないことがわかっという。
展覧会は藤田龍児のパートから始まる。藤田は1928年に京都で生まれ、大阪を拠点に20代から活動していた画家。もともとは幻想的で抽象性の高い作品を描くことで知られていた。
しかし、48歳のときに藤田は脳血栓で倒れ右半身不随となってしまう。利き腕の右腕が使えなくなり、一時は画業を諦めた藤田だったがが、懸命なリハビリを行い、左手で絵を描くようになる。再起後の初個展は53歳のとき、彼が発表した作品は画風が一転、のどかな風景を描くようになっていた。
大きく作風を変貌させた藤田だが、いくつかのモチーフは病前から描き続けていた。《啓蟄》で描かれているエノコログサは、病前から好んで描いていたモチーフだ。丹念に描かれたエノコログサに強い生命力を感じることができる。
エノコログサのほかにも、藤田は白い犬やとんがり帽子の女の子などを繰り返し描いている。そのモチーフを探しながら作品を鑑賞するのもまた楽しい。
アンドレ・ボーシャンは1873年生まれのフランス人。父の営んでいた園芸農園を継いだ苗木職人であったものの、41歳で第一次世界大戦徴兵中に農園は破産、その心労で妻は精神に異常をきたしてしまう。
従軍中に測量部隊に配属され、そこで学んだ測地術をきっかけに絵画のおもしろさに興味を持っていたボーシャンは、46歳で除隊。その後は病気の妻を連れて深い森の中に隠遁、絵画制作に励みながら自給自足の生活を始めた。その後、1921年、48歳のときに、サロン・ドートンヌに作品を16点出品し、うち9点が入選。注目を集め始める。
ボーシャンが生涯に描いた2000点の作品の大半が、自然の風景や、幼い頃から慣れ親しんでいた植物がモチーフ。その作品のなかには神話や歴史の登場人物が時折まぎれこみ、大胆な構図のなかに幻想的な雰囲気を作り出している。
そして、展覧会の締めくくりとして2人の作家の作品をあわせて展示する。時代や状況が違えど、さまざまな苦難を乗り越えた画家たちのノスタルジックな作品からは、優しい希望を感じることができるはずだ。
アンドレ・ボーシャンと藤田龍児、二人の作家の作品をゆったりと鑑賞できる、心温まる展覧会だ。
【開催情報】
『牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児』
4月16日(土) ~7月10日(日)、東京ステーションギャラリーにて開催
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202204_andre_fujita.html
取材・文:浦島茂世
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