tofubeats、4年ぶりのアルバムと初の書籍を語る「耳が聞こえなくなった時に、鏡が気になるなって」
音楽
インタビュー
tofubeats Photo:森好弘
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アルバム単位で言えば実に4年ぶりとなるtofubeatsの新作『REFLECTION』が素晴らしい。全16曲、1曲ごとの個性とメッセージを持ちながらも全体の連続性が大きなひとつの物語となって迫ってくる。
制作期間にコロナの日々も内包したこの作品は、まさに彼が日々考え、思い巡らせていたことが音楽として描かれている。そこには、同時期に彼が日記を書き続けたということも大きく関係しているのだと言う。
アルバムと同日、5月18日(水) に発売となる『トーフビーツの難聴日記』の記述にも基づきながら、5枚目のアルバムの中身についてtofubeatsに話を聞いた。
〈鏡 / 反射〉というテーマを掘り下げた最新作
――今回のアルバム『REFLECTION』のテーマとなっている〈鏡 / 反射〉というのは、日記の記述によると2019年3月時点からあるものなんですよね。
そうですね。
――最初は無意識なものとして、それがだんだん定着していく過程がこの3年間だったと思うのですが、振り返れば〈鏡 / 反射〉というテーマはどのようなものとしてあり続けたのでしょうか?
そもそも耳が聞こえなくなった時に、鏡が気になるなって思ったこと自体に意味があるなって感じたんですよね。じゃあなんで自分が鏡に意味があると感じたのかっていうこと自体をアルバムのテーマにしようと思ったんです。
だからどっちかって言うと鏡をイメージして曲を作るぞっていうよりも、なんで自分が鏡をイメージしたのかを見つけようっていう感覚でした。それは終始一貫して変わらずあって、できてくる曲やアートワークを見て、そこから“なるほどな”って思う部分や謎のままの部分もあったりして、おじさんの自由研究みたいな感じでした(笑)。
――ああ、なるほど。じゃあ鏡というもの自体が入り口となって様々なものに派生していったという感じだったんですか?
と言うよりも、鏡というものにそれまでほとんど興味がなかったのに無意識でもそれが気になるっていう事実自体は動かないものとしてあり続けたので、その違和感に対する探究をゴールに考えようということにブレはなかったですね。
――結果ここまでひとつのテーマが長くあり続けたというのはどうしてだと思いますか?
それはもうラッキーな部分があって、だいたいこういう自分の試みって失敗するんですけど(笑)。今回に関してはコロナもあって、まあ怪我の功名じゃないですけど、いい意味でこのテーマを増幅させる出来事が多くて、自分なりに飽きずに続けられたというのはありましたね。
――ジャケットのアートワークが2019年3月に福岡のビジネスホテルで自撮りしたものが元になっています。なんだか見れば見るほど不思議な絵に感じます。
しかもなんでインカメで撮ってるのかが謎なんですよね。いかに動揺していない風を装って本当は動揺してたかっていう(笑)。
――1曲目の「Mirror」はまさに反射というテーマに沿って、増幅、増殖といったイメージの曲ですが、《オーケーです》という機械音は駐車場のサンプリングなんですよね。
都心のとある駐車場で録音しました。駐車場の機械がぶっ壊れてて、作業員の方たちが5、6人で原因を調べたりしてたんです。朝だったんで客は僕だけで、誰も気にしてないのでレコーダーを回しました。
――それを採集できたことで一気に曲のイメージが見えた?
そうですね。なんで見えたのか?と言われたらそれをなんと説明したらいいか難しいんですけど、ただ全然オーケーな状況じゃないのに《オーケーです》って延々繰り返してるのがとても面白くて、ひとりでツボに入ってたんですよ。
――「Mirror」の歌詞の中に《自分の知らない自分》という言葉があるのですが、〈鏡 / 反射〉というテーマには自分自身を見つめることが含まれると思います。tofubeatsさんにはDJ、サウンドプロデューサー、そしてアーティストといった顔がありますが、特にこの2年間で言うとDJの比率はグッと下がりましたよね。そこが今回のアルバムに影響した部分というのはありますか?
それはすごくあると思いますね。DJの現場をあまり意識せず制作したので、ライブっぽい曲が少ないなあって改めて感じてます。大勢の前でかけるということを全然想定していなかったというか、そういう変化は如実に全編にわたってありますね。
――いい意味でそこが作用したという側面もありますよね?
そうですね。このアルバムでやったようなことを思いっきりやれる時代が今から先にあるのかなって考えたら、老後とか、あとは本当に耳がダメになった後とかになるんだろうなって思ったりしたので。今の年齢でこういうテイストの作品を1枚作れたということは貴重だし、置いておく意味があるなと思ったんですよね。もちろん一生懸命クラブっぽいものを作ることも可能だったんですけど、逆にせっかくこの状況だしっていう感じも結構あったと思います。
――もうひとつ大きな変化で言うと、生活の拠点を神戸から東京に移されましたよね。『REFLECTION』全編を通して感じるのは、平坦な都市の中を散歩しているようなイメージなんですけど、この拠点の変化は作品に影響を与えましたか?
いやそれが、スタジオができたとかっていうツール的な変化は感じるんですけど、地理的な変化をあまり感じなかったっていうのが正直なところなんですよ。
だからフィールドレコーディングとかで自分の中で強引に東京と結びつけようとしているというのは感じるなぁっていうのは出来上がったアルバムを自分で聴いて思うことですね。
神戸にいる頃は、自分は神戸にいるんだっていう気持ちでどんどん作って、それが神戸のものとして世に出されて、という感じでぐるぐる回っていたんです。
だけど東京というのは自分のルーツがそこにあるわけじゃないし、東京に来たメリットとして想定していた横のつながりだとか、DJがめっちゃできるとか、そういうのがコロナで一切なくなって。自分の思っていたメリットがほぼなくなった状態で東京にいるので、逆にそこがもしかしたら変化として現れているということなのかもしれないですね。
フィールドレコーディングなんかで無理やりくっつけたら何か出てくるものがあるんじゃないかとか、そういう意識はもしかしたら作品に影響しているかもしれません。
――全体的に漂うそこはかとない都市感というのはそこから出てきたものだと思いますか?
ドライな感じはありますよね。やっぱり他人と関わっている量が極端に少ないというか、今回コラボしている人で言うと中村(佳穂)さんくらいしかお会いしていないですし、Neibissもアルバムができてからはちょっと会ったんですけど作っている間は一切会ってなくて。
――Zoomなどでやり取りして共作されたんですか?
基本はそうですね。でもNeibissに至ってはZoomすらやってないんじゃないですかね(笑)。今回は人と直接密にやり取りすることがあまりなかったので、そのあたりが全体の雰囲気に出ているのかもしれませんね。
今ちょうどいいテンションとは?
――曲と曲とのつながりが今回のアルバムでは重要な部分にもなっていると思いますが、ここにはどういう意図があるんですか?
前回のミニアルバム『TBEP』(2020年)はフィジカルで出なかったんですよ。結構フィジカルで出すというのも難しくなってきたなって思ってたところに、今回のアルバムはCDで出せるということになって。
そうなったらやっぱりCDっぽい仕掛けは入れたいし、サブスクで聴くにしてもアルバムっぽい仕掛けを入れたいなって思ったんです。それにはやっぱり単曲で聴いた時とアルバムで聴いた時に全然違って聴こえるっていうことが一番大事だと思ったので、例えば制作段階で1曲として作っていた2曲目と3曲目を別トラックとして区切ってみたりとか、アルバムとして聴く面白さを伝える為の仕掛けをしっかり入れ込みました。
あとはアルバムの中の曲を別の曲でサンプリングし直す入れ子構造みたいなのも、これまでもやっていたんですけど今回は特に意識してやっていますね。
――2曲目「PEAK TIME」はあらゆる感覚が引き延ばされていくような不思議な感じになる曲ですが、この曲ができたことによって今回のアルバムにおいて目指すべき方向性が見えたとおっしゃっていますよね。
コロナ禍に入って、今の自分たちがやりたいテンションってどんな感じなのかな?ってマネージャーと毎日喋ってたりしていて、なんとなくわかってるんですけど曲としてできないんですね〜って言ってるところにこの曲ができたんです。「あ、これこれ。こういうテンション、これをリファレンスにやっていきましょう」ってなった曲ですね。
――「PEAK TIME」もそうですし、5曲目の「SMILE」もご自身で歌唱する曲の歌詞に関しては、情報量が少なくて、繰り返されるフレーズというのが特徴としてあるのですが、そこは意識してやったトライですか?
そうですね。長い時間を埋めるために言わないでもいいこととか言いたくもないこととかをただおしゃれな言葉で歌うのが年々ちょっと苦手になってきてて(笑)。だったら同じことを2回繰り返した方がいいし、そもそも歌わないでいいって思うんですよね。
もともと僕はメジャーフィールドにおいては珍しくインストの曲を意識して出しているタイプのアーティストだと思うんです。せっかくそれができるんであれば歌とインストどっちかに振り切れた方を出す必要はないというか、間のバランス感覚があってもいいと思っているんですよね。昔からトライしていて、1stアルバムくらいから意識はあるんですけど、ここへきてようやく技術が追いついてきたというか(笑)。適切なバランスが見えてきたなっていうのをここ1、2年は感じますね。
――今回の共演陣、中村佳穂さん、Neibiss、UG Noodleさん、小鉄昇一郎さんと、親密な関係性が垣間見られる方々ですよね。
通称「闇の瀬戸内軍団」と呼んでいます(笑)。ま、別に闇ってこともないんですけど(笑)。
――みんな西の人たちですね。
完全なる瀬戸内界隈に今回はなっていますね。NeibissとUG Noodleさんが神戸、小鉄さんは香川、中村さんも瀬戸内近辺なんで。
――比較的近いつながりの共演陣にしたというのは何か理由があるんですか?
今回は大風呂敷を広げる感じではないなっていうのは最初からあって。これまでは客演をする人を決めてから曲を当て書きするっていうのが多かったんですけど、今回は曲ありきでちょっとエッセンスを足してほしいなっていうところにお願いしていったっていう感じなんです。
6曲目「don't like u feat.Neibiss」や7曲目「恋とミサイル feat.UG Noodle」、10曲目「VIBRATION feat. Kotets Shoichiro」、15曲目「REFLECTION feat. 中村佳穂」も全部出来上がっている曲にNeibissだったらラップを乗せてくれ、UGさんだったら歌詞と歌をお願いします、小鉄さんだったら1ヴァースだけお願いしますとか、そういう感じで、本当の意味での客演というか、補強していただいたっていう印象ですね。「REFLECTION feat. 中村佳穂」も歌もオケも完全に出来上がったものがあって、それを歌っていただいたっていう感じでした。
――じゃあ楽曲を作ってからどうしようかなって考えた?
そうですね。この人に歌わせるために曲を作ろう、ではない、本来みんながやっている客演に近い形のものを今回はやってみたって感じです。あとは隙間みたいなものがちょっとほしかったっていうのがあって。「don't like u」も「恋とミサイル」も作詞を全部投げちゃってるんですよね。Neibissはラッパーなんで当たり前なんですけど、UG Noodleさんの曲も歌メロだけこっちで作って歌詞は全部書いてもらいました。
レールは引きつつも、上がってきたものに対して全く一語も直してないんです。このアルバムには〈反射〉というテーマもあるし、思いがけないパートというか、自分的にも全く整理しない部分をあえて作ることができたのは作品の魅力のひとつになりましたね。
――アルバムの中でも「恋とミサイル」が唯一生っぽい手触りのある曲ですね。
UG Noodleさんまわりのバンドの方たちにトラックを生演奏で全部吹き替えていただきました。こちらとしては作曲家みたいな感じで関わった曲で、簡単な歌メロと演奏が入ったデモを送って、全部生演奏してもらったものをもらってこっちでミックスダウンしてっていう制作方法を取りました。これまでやったことのない作り方だったので面白かったですね。
――小鉄さんと共演した「VIBRATION」、ここからアルバム全体のギアが一段階変わっていく感じがしますね。言うなれば昼から夜になるような。
カラ元気感というか(笑)。1番と3番が既にできていて、2番を誰にするか、みたいなところで小鉄さんがいいかなと思ってお願いしました。この方は著述家であり、ミュージシャン/ラッパーでもあるんですけど、文章の方でもラップの方でももっと評価されてほしいなっていうのがあって、前々からお声がけしたかったっていうのはありますね。
――日記によると、前半の流れは割合すぐに決まったんだけど、後半の流れがちょっと悩ましかったとありますね。
5曲目くらいまでの流れはすぐに固定されたんですけど、そこから先の曲順だったり、どう持っていくかっていうパズルは結構難しかったですね。
――曲順はいつもよりもこだわった感じはありましたか?
これまでの作品は制作に2年かけたと言っても結局は最後の半年に集中してやるって感じでした。ただ今回は延期、延期ということが続いて、半年後に出るかもなって思いながら作業している時間が長かったんですよ。なのでラッキーなことに細部にわたって調整する時間が長かったんです。そんなこともあって曲順に関しても時間をかけて入れ替えたり試行錯誤できたって感じですね。
――全体の流れが本当に素晴らしくて、僕の感じ方ですけど、散歩していてそのまま車に乗って夜の街を走っていくようなひとつながりの心地よさがあります。
ありがとうございます。そういう感じは意識しましたね。
――「CITY 2 CITY」のモダンな感じから、「SOMEBODY TORE MY P」でまたギアが変わる感じもたまらなくいいんですが、この「SOMEBODY TORE MY P」めちゃくちゃ好きです。
僕も多分これが一番好きですね(笑)。
――MVもかなりいいですし。
うちの事務所の裏の壁で撮ったやつです。
――そうなんですか!
予算は全くなかったんですけどビデオだけ撮りたいなって思って、Fixの画でカメラを5分くらい放置しておいて、それをデジタルズームでアップしてっていうだけのものなんですけどね。
――実に雄弁というか、とてつもない情報が隠されているんじゃないかってどんどん疑ってしまうようなところが最高です。
日記にも書いているのですが、あの曲はある絵を見て作った曲で、元の絵がめちゃくちゃカッコ良くて。
――国吉康雄の《誰かが私のポスターを破った》ですよね。あの絵も不思議な感覚になりますね。
国吉康雄という画家が本当に面白くて、今回アルバムを作る中では元気をもらえた作品のひとつというか。ああ、頑張ってた人がいるんだな、みたいな(笑)。
――どこでご覧になったんですか?
東京国立近代美術館の常設展でした。そもそも美術批評家の椹木野衣さんが画家の山下菊二《あけぼの村物語》を紹介している文章に触発されてそれを観に行ったんですけど、その近くに国吉の絵があって、そのあたり一帯がすごくいい雰囲気を放っていたんですよね。そこでかなりの元気が出ました。
――国吉康雄はアメリカにわたって創作活動を続けて、向こうでも認められるんですけど結局アメリカ国籍は取れずに外国人としてアメリカで病没するという、すごく今回のアルバムのテーマにも通底するものがありますよね。
期せずして、みたいな感じでリンクしていますね。
――めちゃくちゃ深読みしますけど、DJという職業の成り立ちというんですかね、人の曲をかけて自分を表現するというそこのねじれにどこか共通するものがあるのかなと思いました。
そうですね。国吉の生き方を見ていると本場じゃないところで本場のものを愛するという難しさみたいなことの極北じゃないですか。日本人だけど日本人じゃないし、アメリカで絵画のキャリアをスタートさせたのにアメリカ人とは思われてないっていう。わかりやすくパラドックスというかジレンマみたいなものが人生全体を覆っている人ですよね。
――2020年にリリースされたミニアルバム『TBEP』にも「SOMEBODY TORE MY P」は収録されていますが、言わばクラブでのプレイを意識して作ったこのミニアルバムというのは、今どのようなものとしてありますか?
実はあの作品に関して言うと、不完全燃焼だったんですよ。本来1曲目にするはずだった曲ともう1曲がクリアランス(※サンプリングで使用する音源に関する原盤権の権利処理)の関係で入れられないってなって。しかもクラブで一度も披露できていないんですよ。
でも後から見たら逆に象徴的というか、行くはずだった空白みたいなものが点線で見えるという感じがあって、そこが『REFLECTION』のようなアルバムを作るモチベーションになったかなっていう感じがしましたね。
『REFLECTION』のその先
――14曲目「Okay!」からの流れがまた素晴らしいのですが、「Okay!」でいつも泣いてます、私。
そんな曲じゃないですよ(笑)。
――1曲目「Mirror」との関連性も濃厚な曲ですが、アルバム制作の時系列で言うと最後の方にできた曲になるんですかね?
最後にアイデアが出たのがこの曲ですね。もともと「REFLECTION feat. 中村佳穂」につなぐ用のR&Bみたいな曲があって、そこからオルガンのフレーズをはさんで「REFLECTION feat. 中村佳穂」に向かう想定でした。ただこの流れだと「REFLECTION feat. 中村佳穂」の前に全体のテンションが下がってしまう。それが自分的にちょっと承服しかねるなと思って四つ打ちのこの曲を作ったって感じですね。
「Okay!」は最後にラフなアイデアで階段を歩く音を入れていたり、いい意味で雑なところが僕は気に入ってて。結果的にうまく「REFLECTION feat. 中村佳穂」に繋がってくれたと思います。あとひとつ小ネタみたいなところで言えば、1曲目「Mirror」に入っている《オーケーです》は駐車場で録った音なんですけど、14曲目の「Okay!」で使っている《オーケーです》は駐車場のものではないんですよ。シンセサイザーに喋らせてる音なんです。パッと聴き同じなんですけど、なんかそういう『REFLECTION』おもしろ小ネタみたいな感じで入れています。思いついたことをとりあえずやってみたっていう曲ですね。
――なんだか泣けちゃうんですよねぇ(笑)。
逆にその雑な感じがいいんじゃないですかね。今回はあんまりきっちりやらないっていうのを結構意識したんですよ。検聴盤ができて、工場に行く前のマスタリング音源なんですけど、ワーナーの人がチェックしてくれて「ノイズがちょっと多いです」って書いてくれてたんです。
普段だったらノイズを綺麗にするんですけど、携帯で録った音をそのまま使ってみたり、いい意味で行き届きすぎないところを行き届かせるみたいなのがテーマだったので、特に『Okay!』はそのへんを意識しましたね。これまでだったらとことんやっちゃうけど、もうこれでいいんだ、みたいな。見ないようにするのも今の年齢になったからできるようになったことかもしれないですね。
――そして15曲目が「REFLECTION feat. 中村佳穂」。中村佳穂さんに歌唱してもらうというのはすぐに思いついたんですか?
この曲はスタッフ全員で客演は誰がいいかっていうのをバーっと書き出したりしたんですよ。やっぱりちゃんとストライクを狙いに行くべきだなって思った時に中村さんにお願いするのがいいだろうということで、最終的に依頼させていただきました。
――言うまでもなくですが、素晴らしい歌唱ですね。アルバム全体の流れにあって、圧倒的に前に進んでいく感じもしますし。
そうですよね。中村さんの歌唱ってちょっとフリーキーなところに注目が行きがちだと思うんですけど、やっぱりうますぎるからこそ、レールみたいなものを引いた曲を歌ったときに逆に魅力がすごく出るなと思ってて。歌詞まで決まっている客演だからこそ出せる良さってあるじゃないですか。そこは自分的にも中村さんのいいところを見せられたかもなと思っています。
――最後に収録されているのが「Mirai」で、まさに大団円的な雰囲気のある曲ですね。
毎回アルバム最後の曲をがんばるという。当たり前なんですけど(笑)。今回、このアルバムにつながる流れの中で結構大事な曲で「Keep on Lovin' You」(2019年)っていう曲があって、もともと5枚目のアルバムのシーズンはこの曲から始まってたんですけど、ちょっとタイアップ度が高すぎるというのがあって、今回は入れないでおこうってなったんです。
けど、「Keep on Lovin' You」のジャケットも鏡にしてもらったし、もともと5枚目のアルバムに入る一発目の曲として書いたんですよ。なのでその曲の要素をサンプリングして入れ込んだりとか、そういうやり残したことを最後の曲に詰め込みました。
あとは、その前に入っている「REFLECTION feat. 中村佳穂」の中村さんのコーラスをループしてたりだとか、おっしゃったように大団円というか、5枚目の区切りをここできちんと入れることができましたね。
――「REFLECTION feat. 中村佳穂」の《押し寄せる未来》というフレーズがループとして用いられていますが、ここを使用した理由は?
正直なところを言えば、〈Mirror〉と〈未来〉って似てるなって思って、「REFLECTION feat. 中村佳穂」の中で未来って言っているフレーズを使ったっていう思いつきに近い感じですね。ただ、この曲の最後に付け足しみたいなラップがあるんですけど、ここはずっと空けてて、アルバム制作の最後に画龍点睛みたいな感じで、この日って決めて録りました。
――確かに、一筆書き的な力強さがありますよね。
さっきから言っている、いい意味で適当にやるというか、やり込まないというか、そういう感じを意識した曲がアルバムの後半に行けば行くほどありますね。
――その、いい意味でやり込まない雑な感じのままでオーケーとするというのは、これまであまりなかったんですか?単に雑、というのとは全然違うというのはアルバムを聴いていたらわかるんですけど。
聴いてやり直して、また聴いてやり直してってできるのがDTMのメリットのひとつだと思うので、それが良さだと思ってやっていた部分はあったんです。ただ緩急のつけ方として「REFLECTION feat. 中村佳穂」のようにギッチギチに細かいところまで直している楽曲があるとすると、その前後の曲はそうではない曲の方が際立ってくるし、いい意味でスリリングな感じというか、ライブでいろんな人に聴いてもらうということを意識しないでいいというか、そういう危うさみたな感じを表現できたと思います。
そういうことで言うと例えば1曲目の「Mirror」のボーカルは普通に歌っているもののように思われるかもしれないんですが、歌ったものを録った後にピッチを半音下げているので厳密に言えば本当の僕の声じゃないんですよ。
そういうことってライブでやることを想定していたらできないじゃないですか。単なる雑さじゃなく、編集の仕方とかもハード機材を通して戻れなくするというか。そういう不可逆性の高い作業だったりとか、本来であれば自分が手を入れなかったところも手を入れる。
逆に今まで入れていたところに入れないというか、そんな感じの変化をつけようっていうのが全体的にあったかもしれないですね。
――その“不可逆性”というのは精神的なところと結びついているんでしょうか?
どうなんですかね?でもやっぱり(制作期間が)長かった分前進している感じっていうのは結構ほしかったというのはありますね。日記をつけていたというのも大きくて。最初は意味なく書いていたんですけど、途中から「本になるかも」って前進して行く感じが出てきたんですよね。
音楽だけ作っててもあんまりその感じって出ないんですけど、日記が合わさると流動性がすごく上がるというか。曲って何日かに1回直す程度なんですけど、日記って毎日つけるんで、そうすると進行の区切りがより細かくなるので、音楽の作り方もそれに寄ってきたっていうのもあったかもしれないですね。
――最後に「Mirai」があることによってこのアルバムのさらにその先を感じられるような気がします。
ああ、そこはかなり意識しましたね。やっぱり「REFLECTION feat. 中村佳穂」じゃ終われないなっていう感覚は正直ありました。だから、その先を感じてもらえるというのはすごくうれしいですね。
Text:谷岡正浩 Photo:森好弘
<リリース情報>
tofubeats 5thアルバム『REFLECTION』
2022年5月18日(水) リリース
●初回限定盤:4,180円(税込)
※tofubeats歴代アートワークを12枚のポストカードにまとめたスペシャルパッケージ
●通常盤:3,080円(税込)
【収録曲】
01. Mirror
02. PEAK TIME
03. Let Me Be
04. Emotional Bias
05. SMILE
06. don’t like u feat. Neibiss
07. 恋とミサイル feat. UG Noodle
08. Afterimage
09. Solitaire
10. VIBRATION feat. Kotetsu Shoichiro
11. Not for you
12. CITY2CITY
13. SOMEBODY TORE MY P
14. Okay!
15. REFLECTION feat. 中村佳穂
16. Mirai
tofubeats「SMILE」MV
tofubeats「CITY2CITY」MV
tofubeats「REFLECTION feat. 中村佳穂」MV
tofubeats「PEAK TIME」MV
tofubeats「don’t like u feat. Neibiss」MV
アルバム予約リンク:
https://tofubeats.lnk.to/REFLECTION
<書籍情報>
『トーフビーツの難聴日記』
2022年5月18日(水) 発売
価格:1,870円(税込)
詳細はこちら:
https://book.pia.co.jp/book/b602114.html
<ライブ情報>
『d KOBE MELLOW CRUISE』
5月28日(土) 神戸メリケンパーク特設会場
開場10:00 / 開演11:00
『森、道、市場 2022』
5月29日(日) 愛知蒲郡市ラグーナビーチ&遊園地ラグナシア
開場10:00
プロフィール
tofubeats
1990年生まれ神戸出身。中学時代から音楽活動を開始し、高校3年生の時に国内最大のテクノイベントWIREに史上最年少で出演する。その後、「水星feat.オノマトペ大臣」がiTunes Storeシングル総合チャートで1位を獲得。メジャーデビュー以降は、森高千里、の子(神聖かまってちゃん)、藤井隆ら人気アーティストと数々のコラボレーションや、ドラマ「電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-」、カンヌ映画祭のコンペティション部門に出品された映画『寝ても覚めても』の主題歌・劇伴を担当するなど活動の幅を拡げ活躍している。2022年5月18日に5thアルバム『REFLECTION』と書籍「トーフビーツの難聴日記」を同時リリースする。
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