カーチュン・ウォンが日本フィル首席指揮者就任、目指す音作りは「昭和のプリン」
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すべて見る日本フィルハーモニー交響楽団が5月18日、都内で記者会見を行い、シンガポール出身の指揮者カーチュン・ウォン(現・首席客演指揮者)が首席指揮者に就任すると発表した。任期は2023年9月より5年を予定。会見を前に寄せたメッセージでは「“昭和のプリン”のような音作りを目指していきたい」と抱負を明かしている。
また、会見当日には、男の赤ちゃんが誕生するという吉報もあり、ウォン氏は「今日という日は忘れられない日になりました。喜ばしい発表ができたのはもちろん、息子の誕生日であり、グスタフ・マーラーの命日でもあるのですから」と喜びを胸に、首席指揮者としての決意を新たにしていた。
日本フィルハーモニー交響楽団の魅力は「独自で素晴らしい“音”を持っていること」だと語り、「世界中に素晴らしいオーケストラが存在しますが、どうしても同じ音になりがちな傾向があります。そういう意味で、日本フィルが持つ独自な音を守りつつ、かつ成長させていきたい。そのポテンシャルは十分感じていますし、この5年間で音作りを確立させたい。どう成長するか、楽しみです」と強い意気込みを明かした。
また、日本独自の文化的特徴として「伝統を守りながら、現代性も取り入れている姿勢」を挙げて、「クラシックに、技術面も含めた新しいものを取り入れ、どんな形で音楽を残していくか。長い旅路は始まったばかりですが、そのプロセスで何ができるのか一緒に歩んでいきたい」と話していた。
会見にはウォン氏をはじめ、理事長の平井俊邦氏、事務次長/企画・制作部部長の益滿行裕氏が同席した。平井理事長は今後、年3回のサントリーホールでの東京定期演奏会(年間12公演予定)をはじめ、九州公演や全国ツアー、加えて、日本フィルが足を運んでいないアジア諸国への楽旅も目指していると明かした他、日本フィルの大きな特徴でもある社会貢献、教育活動と地域活動、東北地方で行っている「被災地へ音楽を」の活動にも意欲を見せていた。
<カーチュン・ウォン メッセージ>
日本フィルハーモニー交響楽団の皆様とこれまで以上に深く、密接に関わることが出来ることに、光栄であると同時に身の引き締まる思いです。私はいつもどの演奏会もそれが地球上で最後の演奏会だと思うように指揮をしています。ですから、作曲家が紡いだ一音一音を逃すことなくホールに響かせたい。そして、日本フィルハーモニー交響楽団とは、この想いを共にし、叶えることが出来ると強く信じています。
私のレパートリーには、マーラー、バルトーク、シベリウス、細川、武満、伊福部などの作品の数々、そして、ベートーヴェン、ブラームス、ワーグナー、ラフマニノフなど、私の好きな作曲家の作品があります。また、あまり知られていないカリンニコフやミャスコフスキーの作品にもとても心惹かれています。もちろん、どの作曲家にもそれぞれの音のカラーがあります。しかし、敢えて申し上げるならば、私の理想とするオーケストラの音は、「昭和のプリン」の様な、とても豊かで甘美で、甘すぎず、どこか大人っぽい苦味があり、どこかカタイ音でなければならないと思っています。柔らかすぎると、音の輪郭や構成がはっきりしなくなる。ジェラートのようにクリーミーであったり、レアチーズケーキのようにふわふわであってはならない。日本フィルハーモニー交響楽団の皆様とは、この様な「昭和のプリン」のような音作りを目指していきたいと思っています。
日本フィルハーモニー交響楽団の皆様が私に寄せてくれている信頼に感謝をし、今まで以上に濃密な音楽づくりに励みたいと思います。
<今後の演奏会>
■第740回東京定期演奏会
2022年5月27日(金)、28日(土)サントリーホール
ピアノ:務川慧悟*
ソプラノ:三宅理恵**
伊福部昭:ピアノと管絃楽のための《リトミカ・オスティナータ》*
マーラー:交響曲第4 番ト長調**
■第135回さいたま定期演奏会
2023年1月14日(土)埼玉会館
■第399回名曲コンサート
2023年1月15日(日)サントリーホール
ギター:村治佳織
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》
■第747回東京定期演奏会
2023年1月20日(金)、 21日(土)サントリーホール
伊福部昭:シンフォニア・タプカーラ
バルトーク:管弦楽のための協奏曲
■第384回横浜定期演奏会
2023年1月28日(土)横浜みなとみらいホール
■第244回芸劇シリーズ
2023年1月29日(日)東京芸術劇場
ピアノ:小菅優
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番
ラフマニノフ:交響曲第2番
■第750回東京定期演奏会
2023年5月12日(金)、13日(土)サントリーホール
チェロ:佐藤晴真
ミャスコフスキー:交響曲第21番《交響幻想曲》
芥川也寸志:チェロとオーケストラのためのコンチェルト・オスティナート
ヤナーチェク:シンフォニエッタ
取材・文・写真=内田涼
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