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劇団四季創作ミュージカルのひとつの到達点 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た、劇団四季『バケモノの子』

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劇団四季ミュージカル『バケモノの子』より   撮影:阿部章仁

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劇団四季による創作ミュージカルのひとつの到達点、と思えたのが『バケモノの子』だった。主題、美術、舞台転換、俳優のメイキャップ、そして映像……。つまり、総合力で楽しませるエンタテインメント作品だ。

とにかく対立、対比、対照化が徹底している。舞台はバケモノが棲む世界の渋天街と東京の渋谷。どちらも現代である。その対比。第1幕は渋天街でバケモノたちを束ねる宗師の演説から始まる。ふたつの世界を行きつ戻りつして進むのだが、主に、装置が時計回りになると渋谷、その反対回りでは渋天街に変わる。転換がスピーディでスムーズなので飽きさせない。

100年に一度、宗師が交代するため後継者を選ぶ。候補の熊徹と猪王山も対照的だ。9歳から始まる主人公・蓮が弟子入りして九太と名付けられるが、その父親代わりが熊徹、対する猪王山にはふたりの男児がおり、長男・一郎彦が第2幕で明らかになる出生の秘密があった。子供世代がともに「自分とは何か?」と問い掛けている。「自分を発見する」「共に成長する」という作品の主題が対照化によって明確になった。

一番の見せ場であり驚きが対決場面だ。第1幕では熊徹と猪王山の激闘アクション。剣を振る中でライオンに似た顔、龍のような胴体のパペット2体と一緒に闘う。赤が熊徹、黄が猪王山。ともに3人遣いなのはまるで文楽の人形遣いではないか。

撮影:阿部章仁

第2幕では巨大な白鯨が宙を飛ぶ。こちらは6人遣い。色々な形に分裂し、また元の形になる。よく訓練された俳優たちの操作は、『キャッツ』で人気の夜行列車の場面や『美女と野獣』といった一連のミュージカル作品で蓄積された劇団のお家芸と言えよう。

第1幕が物語世界の解説といった要素が濃く、第2幕が俄然、面白くなった。蓮(九太)の成長、一郎彦の謎解き、宗師の後継者の決着。「信じよう、心の声を」。17歳になった蓮が歌う姿は胸が熱くなった。

高橋知伽江の脚本・歌詞、青木豪の演出による多彩・多様で映像が重なるスピーディな新作ミュージカルは、上演を重ねる中で、より密度を増すだろう。そしてー。地球という星には人間世界だけではなく、様々な生き物の世界が存在するのだ、と再認識するのである。

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

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