宝塚花組トップスター・柚香光、“ピアノの魔術師”に挑む
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すべて見るピアノの魔術師と称され、19世紀初頭のヨーロッパで絶大な人気を博したピアニスト、フランツ・リスト。若き日の彼の姿を描いたミュージカル『巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~』が、スタイリッシュなショー『Fashionable Empire』との二本立てで、宝塚歌劇団花組で上演される。今作に向けて「初めて挑戦することが盛りだくさんです」と語るトップスター・柚香光(ゆずか・れい)に話を聞いた。
華やかな部分と内に秘めた繊細さ、人間味をもって表現したい
超絶技巧に彩られた情熱的な演奏と、女性たちを虜にしてやまない類まれな美貌でパリのサロンを席巻し、瞬く間に時代の寵児となったフランツ・リスト。彼の生き様を通して、自分らしく生きるとは何か?を問いかけるミュージカルだ。幼少期から入団するまでピアノを習っていたという柚香は「芸術家、ピアニストという役をいただくのがとてもうれしいと同時に身の引き締まる思い」と気持ちを込める。
リストに対しては「上級のピアニストしか手を出すことのできない楽曲を生み出す人というイメージがありました」と話すが、日本で残されている文献は少ない。今作では、作・演出の生田大和が描くリストを掘り下げて作り上げていく。「他の有名なピアニストとはまた印象が違って、エンターテイナーの要素が強かったり、ピアニスト界のアイドルとも言われる方。彼の自己プロデュース力ゆえの、そして人へのパフォーマンス精神、サービス精神ゆえの、独自の華やかさや輝きというものを、人間味をもってお芝居できたらと思います。また、その華やかな部分と内に秘めた芸術家らしい奥ゆかしさ、繊細さ、葛藤、悩みなども深く表現していきたいです」。
トップスターとして、そして自身も“芸”に携わる身として、通じるものがあるという。「芸術、音楽を愛するがゆえに自己否定をするとか、お客様の喜んでくださるお顔を見るために、すべてを投げうって没頭してしまうエネルギーにも共感します。それによってリストは苦難の道を選ぶこともありますし、物語が動いていくきっかけとなる感情でもあるのですが、そういった彼の心の動きというのは、同じ芸に携わる者として、ずしんと胸に響くものがあります」。
改めてリストの楽曲に触れることで、新たな発見もあったという。「『巡礼の年』シリーズは、“こんな曲も遺されていたんだ”と思うくらいに本当に美しい曲がたくさんあって。『ラ・カンパネラ』などの若い頃に出した楽曲は、音の数がすさまじく多くて、この人は“間”や空白を恐れているのかなと思ってしまうくらいですが、往年の楽曲になると、余韻や余白があり、相手に対して想像を与えるような音の重ね方が印象的。どちらも本当に素敵ですが、リストの人生を勉強してから改めて聴くと、彼の楽曲への印象が全然違ってきました」。
“こういうの見たかった!”と思っていただけるショーを
今作では「挑戦することが盛りだくさん」と話す柚香。弾き語りにも初挑戦する。「特技はピアノと公表していますが、中学生の頃に合唱曲で伴奏していたくらいで…。今回はジャズっぽい大人な雰囲気の、色気のある曲を初めて弾き語りさせていただくので、すごくうれしいです」。歌劇団での13年間を経たことで、ピアノへの向き合い方も変わった。「習っていた当時は受け身の姿勢でしたが、今、再びピアノに向かうと、音符の見え方が全然違いますし、“自分はこうしたい”という姿勢に明らかに変わっていました。このタイミングでこのお役をいただき、改めてピアノに向き合わせていただけたのはすごく自分にとっても財産になりますし、宝塚での13年間の生活も、より大事にしたいと思いました」。
多くの女性たちを虜にしたリストのさまざまな愛の表現も見どころのひとつ。トップ娘役・星風まどか演じるマリー・ダグー伯爵夫人、永久輝(とわき)せあ演じるジョルジュ・サンド、音くり寿演じるラプリュナレド伯爵夫人との関係が描かれる。「冒頭のジョルジュとのシーンは、11時公演大丈夫かなって思うくらい濃いです(笑)。マリーとは、純粋な愛の結びつきが描かれます。星風と歌うデュエット曲もとても美しく、素敵なシーンになるのではと思います。ラプリュナレド伯爵夫人は、パトロンであり愛人。ラブシーンというよりも、彼女からは支配や抑圧を受けていて、それに抗おうとしてぶつかり合うような関係性が描かれます」。
第2幕のショー『Fashionable Empire』は、稲葉太地が作・演出を手掛ける。時代や流行の先端を行く洒落者たちが集う“Empire(帝国)”を舞台に、スタイリッシュなショーを展開する。「下級生に至るまで、こんな素敵なパフォーマンスをする人がいたんだと、お客様に何度も新鮮に思っていただけるんじゃないかなと思うくらい、みんなが活躍しています。プロローグから若いエネルギーが炸裂していますし、フィナーレは重いビートが響くような楽曲で、男役も娘役もみんな同じロングコートで踊ります。“こういうの見たかった!”と思っていただけるものになるのではと思います」。
ショーでは個々の魅力にも注目だが、集団で魅せる美しさにも期待したい。「みんなで一緒にリフトをする場面があって。結構同時にやるのが何度もあるので、みんなで揃えていく新鮮さを感じながらお稽古しています。あとは、美風(舞良)さんと音のふたりの歌声が共鳴する中、娘役さんたちを私と水美(舞斗)で取り合う場面も初めての雰囲気。楽しみにしていただきたいです」。
今年3月から4月にかけてはミュージカル『TOP HAT』に挑んだ柚香。ダンスと音楽で綴る本作に出演したことで「歌と踊りとお芝居の隔たりがなくなった」と話す。「以前はもっと別物に感じていたかもしれませんが、全部が一本のレール上にあるというか、シフトチェンジする感覚がなくなったような気がします。踊りに対しては積み重ねで変わっていくことが大きいと思います。長年応援してくださっている方にもハッと思っていただけるところは目指したいと思っています」。
今作で飛龍つかさや音らが退団する。「退団される方に対してはいつも、寂しいと思う気持ちもありつつ、一番の根底には感謝があります。どうなるか分からない道の中での公演になるので、一回一回を真摯に、感謝を持って大切に務めたいと思います」。
取材・文:黒石悦子
宝塚歌劇団花組
『巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~』/ショー グルーヴ『Fashionable Empire』
【兵庫公演】
2022年6月4日(土)~7月11日(月)
会場:宝塚大劇場
【東京公演】
2022年7月30日(土)~9月4日(日)
会場:東京宝塚劇場
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