『犬王』、「アヌシー国際アニメーション映画祭 2022」で大熱狂の上映 湯浅政明監督登壇イベントほか現地の様子をレポート
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「アヌシー国際アニメーション映画祭 2022」
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すべて見る現在公開中のミュージカル・アニメーション『犬王』が6月13日から18日(現地時間)に開催された「アヌシー国際アニメーション映画祭2022」で、オフィシャルセレクションとして上映された。また、湯浅政明監督がさまざまなイベントに登壇。大熱狂の現地の様子をレポートする。
本作は監督・湯浅政明×脚本・野木亜紀子×キャラクター原案・松本大洋×音楽・大友良英という豪華クリエイターが集結し、室町の知られざるポップスター「犬王」から生まれた物語を、変幻自在のイマジネーションで描く“狂騒のミュージカル・アニメーション”。『平家物語 犬王の巻』(古川日出男著 / 河出文庫刊)を原作に、カリスマ性と歌唱力、そして野心を抱く主人公・犬王を人気バンド・女王蜂のボーカル担当・アヴちゃんが演じ、その相棒となる琵琶法師・友魚(ともな)を実力派俳優・森山未來が演じる。
世界最大規模のアニメーション映画祭である「アヌシー国際アニメーション映画祭」は、これまでにも『夜明け告げるルーのうた』が長編部門最高賞であるクリスタル賞を受賞、『日本沈没2020』がテレビシリーズ部門審査員賞を受賞するなど、湯浅監督にとっても縁深い映画祭のひとつ。アヌシーの観客が、湯浅監督の現時点での集大成となる『犬王』の上映をいかに待望していたか、その並みならぬ熱気は連日のイベントからもうかがえた。

湯浅監督の登壇は30名限定のサイン会からスタート。激戦のサイン枠を勝ち取った来場者ひとりひとりからキャラクターのリクエストを聞き、会話も交わしながらイラストを添えたサインを描いていく。続いてのイベントでは、ミッシェル・オスロ監督(『キリクと魔女』)、ギレルモ・デル・トロ監督(『シェイプ・オブ・ウォーター』)、ジョー・ダンテ監督(『グレムリン』)、ジェニファー・リー監督(『アナと雪の女王』)、ジョルジュ・シュヴィッツゲベル監督(『ロマンス』)といった、世界の名だたるクリエイターとともに湯浅監督の姿が。実は、アヌシーにもハリウッドさながらの名声の歩道(Walk of Fame)の設置が決まり、そこに手形が設置される最初のクリエイター6人のうちの1人に選出されたのだ。野外の会場では和やかな雰囲気で石膏の手形が取られ、名監督らもにこやかな姿を見せた。

さらに湯浅監督は、映画業界を代表する監督が、若手アニメーターや学生向けに行う「MIFAキャンパスマスタークラス」の講義を担当するゴッドファーザーとして登場。湯浅監督がアニメーションを志したきっかけに始まり、『マインド・ゲーム』、『ピンポン』、『夜明け告げるルーのうた』、『犬王』などの作品で使われている手法について、実際の映像を見せながら解説した。
学生から「監督、脚本、絵コンテなどさまざまな領域を手掛けているが、一番得意なのは?」と問われると、監督は「それぞれの行程はそれぞれに楽しいので難しいが……。全体を切り盛りする調整が得意なのかもしれない。たとえば脚本で『こうしたい』と言ったことがさまざまな理由で実現できない場合、後の工程でどうそれを実現するか。脚本を書いている人、絵を描いている人、各パートに『何でこうなるんだ』と思う部分がある。それをどうにかする。ピンチを逆手にとって、寧ろより良い作品に繋げていくのがディレクターの仕事だと思っています」と回答。「今日は優秀な学生が集まっているが、国際的なコラボなどの可能性はあるか?」と聞かれたのに対し、「言葉がそんなにできないハードルはあるが、できるだけいろんな人と仕事がしたい、力のある人と仕事がしたいと思っています」と答え、会場を沸かせた。
続く質疑応答のコーナーでは、2D・3D問わず各ジャンルから参加した若手クリエイターから多くの質問が寄せられた。「立体や実写に対する憧れは持っているので、いいなとなった部分は取り込むし、自分が今後立体や実写を撮ることもあると思います。逆に2Dのときは2Dにしかできないことを意識しています。『認識』って実は皆違うのに、同じだと思っている人が多いので、クリエイターは周りからいろいろ言われても、人の言うことは気にしない方がいい」、「作品を作るときはまず根源的なことを考えます。たとえば『アニメーション映画』は、『皆が暗いところに集まって、絵が描いてあるものを見て、何かを感じるものである』という風に。マンガを読む、読書をする、映画を見る、それぞれの行為の中で、見た人の中で何が起きているか?どの媒体にも長所と短所があるので、できるだけ長所を生かして短所をなくす作り方をしようと思っています」、「テーマがないとストーリーができない。自分がやっているテーマは、『解放されたい、自由になりたい』ということなのかもしれない。自分の考える『自由』を作品にしています」といった監督の言葉に、勇気づけられたクリエイターも多かったようだ。

そしてフェスティバルの最終日には、朝からボンリューのメインシアターで『犬王』が上映された。前日に約300席の会場で行われた上映に加え、約1,000席あるメインシアターのチケットも発売とほぼ同時にソールドアウト。上映前に監督がステージに登壇すると、運よくプラチナチケットを手に入れた観客たちが万雷の拍手と歓声、指笛で迎える。
監督が「ボンジュール!コマンサヴァ?」とフランス語で挨拶すると、「ウィーーー!サヴァ!」と、会場中に響く大合唱で返事が。ロックコンサートのような熱気の中、「またアヌシーに新作を持ってくることができて嬉しい。毎年楽しみな映画祭で、今年もいい時間を過ごしています」、「『犬王』は600年前の話だけど、ふたりの若い男性のミュージシャンがのし上がっていく話。一人は琵琶を弾いてバンドを組んでいく。もう一人は能を踊り、霊となって昔の人の逸話を語る。バンドで宣伝して、そのあと犬王が踊るという構成になっていて、それだけ理解していれば大丈夫!後半の音楽はノって楽しんで!」と挨拶した。上映中は「腕塚」などのライブシーンから手拍子が上がり始め、中盤のハイライトである「鯨」では会場中が「ドンドン・パン!」のリズムに乗り、作中の室町の観客と一体となった。エンドロールが始まった瞬間に拍手と喝采がわき、あわせて10分ほどのスタンディング・オベーションに。湯浅監督の「ホーム」であることを強く印象付け、今年のアヌシーを締め括った。

『犬王』
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