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【おとな向け映画ガイド】『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』、演じるのは不条理劇『ゴドーを待ちながら』!

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イラストレーション:高松啓二

今週(7/22〜23) の公開映画数は18本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『ゴーストブック おばけずかん』『劇場版 仮面ライダーリバイス バトルファミリア/暴太郎戦隊ドンブラザーズ THE MOVIE 新・初恋ヒーロー』。中規模公開、ミニシアター系が16本です。今回は次週29日公開のフランス映画『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』をご紹介します。

『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』

演劇好きには強力にオススメ、ウェルメイドなドラマを観たい方にもぜひ、という作品。なんとも予想を超えた展開に発展していくストーリーの妙がすばらしく、宣伝文句の「ラスト20分。感動で、あなたはもう席を立てない!」が大袈裟と思う人も、「ラスト20分。なるほどそうきたか!」とうれしくなることまちがいなし。おとな向けエンタテインメントの大傑作です。

福利厚生というか、更正教育を目的として、囚人がお芝居を学ぶワークショップを行っているフランスの刑務所が舞台。指導係に雇われたのは、売れない崖っぷち俳優エチエンヌ(カド・メラッド)。彼とワケありクセありの囚人たちが、どう折り合って舞台で拍手をもらうまでになるか……、というのがアウトライン。しかし、この映画は、それだけの感動サクセスストーリーでは終わらない。

ちなみに、日本の刑務所のなかでは、スポーツやコーラス、カラオケあたりは許されていると思うが、お芝居はどうだろう。ヨーロッパではよくあるようで。そういえば、タヴィアーニ兄弟監督の『塀の中のジュリアス・シーザー』という作品でも、囚人がイタリアの刑務所で『ジュリアス・シーザー』を演じていた。

クセの強すぎる囚人たちが意外に芸達者で、可能性を感じたエチエンヌは、所長たちを説得し、まず刑務所内で一公演行うことを目標とする。選んだ演目は、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』。演劇のプロでも解釈の難しい不条理劇の代表作だ。このセレクションがまた、たまらなくおかしい。

「田舎道。一本の木。夕暮れ。エストラゴンとヴラジーミルという二人組のホームレスが、救済者・ゴドーを待ちながら、ひまつぶしに興じている──」(新書版戯曲解説から)。ゴドーは来るのか来ないのか、ふたりは哲学的な(つまり訳のわからない)セリフをつぶやきつづける、という舞台。ストーリーやキャラクターがわかりやすい演目だと、妙な感情移入やアレンジが入ってしまうと考えての選択かもしれないが、こんな不条理劇を囚人たちが演じることになった不条理は、なかなか奥が深い。

囚人たちの犯罪歴がどうであるか、指導役のエチエンヌには(もちろん映画の観客にも)知らされない。たぶん殺人犯もいれば、コソ泥もいる。観ていて、なんとなく留置場のヒエラルヒーがわかるようなところで十分だ。そんな彼らが次第にお芝居という同じ目標に熱中し、独房で哲学的なセリフをブツブツ稽古する姿は、とてもシュールで笑ってしまい、なんだか涙が出てくる。

刑務所内の試演は大成功。では次は外の劇場で。その話題が話題を呼び、ついについに、フランス演劇界の晴れ舞台、パリ・オデオン座からオファーが届き……。

監督・脚本はエマニュエル・クールコル。2021年にコロナ禍のフランスで公開し、初登場で興行ランキング2位のヒットとなった。エチエンヌを演じたカド・メラッドは、『マイ・ファミリー/遠い絆』(日本ではビデオ発売のみ)でセザール賞主演男優賞を受賞した国民的名優。囚人役も演技派ぞろいだ。

実はこの映画、スウェーデンの俳優ヤン・ヨンソンが1985年に体験した実話をベースにしている。当時は、『ゴドー…』の作者ベケットも存命で、その話をきくと「それは私が書いた戯曲の中で最高の出来事だ」と大笑いしたという。

【ぴあ水先案内から】

夏目深雪さん(フリー編集者)
「……エチエンヌを演じたカド・メラッドがとにかくサイコーである……」

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(C)2020 - AGAT Films & Cie - Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms - Photo (C)Carole Bethuel/(C)2020 - AGAT Films & Cie - Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms