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国宝級の名品の数々が里帰り 『ボストン美術館展 芸術×力』東京都美術館で開幕 

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第5章展示風景より 増山雪斎《孔雀図》1801年 ボストン美術館蔵

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東京都美術館で7月23日(金)より『ボストン美術館展 芸術×力』が開幕、10月2日(日)まで開催されている。芸術を自らの力を示すため利用してきた、古今東西の権力者たち。「力」とともにあった芸術の歴史を約60点で振り返る。新型コロナウイルス感染拡大の影響により2020年に中止となっていた展覧会だが、このたびようやく開催の運びとなった。

第1章展示風景より 左:アンソニー・ヴァン・ダイク《メアリー王女、チャールズ1世の娘》1637年頃 右:ロベール・ルフェーヴェルと工房による《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》1812年
第1章展示風景より、左:長船長光《太刀 銘長光》13-14世紀 右:来国俊《短刀 銘来国俊》13世紀後半
第5章展示風景より 狩野山雪《老子・西王母図屏風》17世紀前半

ボストン美術館は50万点以上もの作品を有する世界有数の美術館。同展では、約10万点と膨大なコレクション数をほこる日本美術のほか、エジプトやヨーロッパ、インド、中国など世界各地の作品から「芸術と力」をテーマに約60点をセレクトし展示。その半数以上が日本初公開の作品となる。

ロベール・ルフェーヴェルと工房 《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》1812年 ボストン美術館蔵

展覧会は5章構成。第1章「姿を見せる、力を示す」では、権力者の力を誇示するために制作された作品が展示される。《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》は、マントを羽織い、月桂樹の冠をかぶるナポレオンを描いた肖像画。その身にまとった服やポーズ、周囲に描かれた調度品など、すべてが権威を示す物だ。

《ホルス神のレリーフ》 紀元前1971-紀元前1926年 ボストン美術館蔵

権威を示す手法は地域や時代によって大きく異る。ホルス神はエジプトの最も重要な神のひとりで、ハヤブサやハヤブサの頭部を持った男性の姿で表される。そして、現世に生きるエジプト王はホルスの化身とされていた。《ホルス神のレリーフ》はカイロから50キロほどはなれた場所にあるピラミッド複合体で見つかったものだ。

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》部分  13世紀後半 ボストン美術館蔵
 
《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》部分  13世紀後半 ボストン美術館蔵

同展のハイライトともいえる二大絵巻のひとつが《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》。平安時代末期、上皇と天皇の対立から巻き起こった「平治の乱」を描いた本作は、日本に残されていれば国宝に指定されていただろうと考えられている。注目点は、この動乱で重要な役割を担う後白河院が画面には一切登場せず、牛車でその存在を暗示するにとどまっていることだ。権力者の姿を威風堂々と描くヨーロッパとは異なり、天皇を描かない日本ならではの慣習によるものといえる。

地上の統治者たちは、しばしば「神の代理人」としての役割を果たした。また、宗教的な儀式を行うことや、その地の宗教の支援を行う事もあった。第2章の「聖なる世界」では、権力者たちと宗教美術とのかかわりを扱う。

ブオナッコルソの《玉座の聖母子と聖司教、洗礼者聖ヨハネ、四天使》は、金箔をふんだん
に使い、照度を落とした展示室でも光り輝く祭壇画だ。

ニッコロ・ディ・ブオナッコルソ《玉座の聖母子と聖司教、洗礼者聖ヨハネ、四天使》1380年頃 ボストン美術館蔵

エル・グレコの《祈る聖ドミニクス》はドミニコ会を創設した修道士聖ドミニクスを描いた作品。聖ドミニクスの敬虔さがドラマティックな構図で描かれている。

エル・グレコ《祈る聖ドミニクス》1605年頃 ボストン美術館蔵

《大日如来坐像》は平安時代に制作されたもの。当時、権力者たちに広く受け入れられていた仏師、定朝の様式を踏襲して作られている。様式は、権威を表す機能も果たしていたのだ。

《大日如来坐像》1105年 ボストン美術館蔵

続く第3章「宮廷の暮らし」では、統治者たちの暮らしぶりが垣間見える絵画や宝飾品などを紹介する。

《灰色の枢機卿》は、現在もパレ=ロワイヤルとして現存するパリの宮殿の大階段が舞台の作品。カラフルな服を身にまとい、うやうやしくお辞儀をする貴族たちを、修道士は気にもとめず読書をしている様子が描かれている。修道士は、当時フランスの大権力者であったリシュリュー枢機卿のブレーンの一人。フランス王国の力関係がドラマティックな構図で描かれている。

ジャン=レオン・ジェローム《灰色の枢機卿》1873年 ボストン美術館蔵

《モンスーンを楽しむマハーラージャ、サングラーム・シング》は、統治者であるサングラーム・シングが郊外の宮殿を訪れたときの様子が描かれている。サングラーム・シングは画面上部と下部に描かれており、上部の屋上から妻とともに広大な領土を眺める様子や、下部の侍女を従えながら宮殿に入っていく描写から、その絶大な権威を見てとることができる。

《モンスーンを楽しむマハーラージャ、サングラーム・シング》1720-1725年頃 ボストン美術館蔵

第4章「「貢ぐ、与える」、第5章「たしなむ、はぐくむ」へ

統治者は、ときに他の統治者や家臣に贈り物をすることもある。第4章「貢ぐ、与える」では、権力者たちによる贈答品、あるいは権力者への貢物などを紹介していく。

狩野永徳によるものと伝わる《韃靼人朝貢図屏風》は、韃靼人(モンゴル系騎馬民族)の一行が、位の高い人物に謁見するために、貢物を持って向かう様子が描かれている。この画題は中国の皇帝に謁見するために様々な民族が貢物を持って向かう「王会図」という画題に傚ったものだ。

伝狩野永徳《韃靼人朝貢図屏風》16世紀後半 ボストン美術館蔵

《銀の水差しと水盤》はイングランドの女王、エリザベス1世への贈り物、あるいは女王からの贈り物であったと考えられている。水差しと水盤の両方に歴代国王の略系図が彫り込まれ、水差しにはさら旧約聖書の物語も表されている。

《銀の水差しと水盤》1567−68年 ボストン美術館蔵

そして、クライマックスとなる第5章「たしなむ、はぐくむ」では、芸術家のパトロンとしての権力者に焦点を当てる。同展で里帰りを果たした二大絵巻のひとつ、《吉備大臣入唐絵巻》は、全期を通して4巻揃って展示。奈良時代を代表する学者で官僚、遣唐使だった吉備真備と、唐で亡くなり、鬼となって現れた阿倍仲麻呂との物語が描かれる。現代の感覚ではかわいらしくユーモラスにも感じる内容だ。

《吉備大臣入唐絵巻》展示風景
《吉備大臣入唐絵巻》(部分)12世紀末 ボストン美術館蔵
《吉備大臣入唐絵巻》(部分)12世紀末 ボストン美術館蔵

展覧会の最後を飾るのは、同展のために修復が施され初の里帰りを果たした増山雪斎の《孔雀図》。雪斎は江戸時代に伊勢長島藩を治めた大名でありながら、画技にも秀でた文人大名だった。修復を経て色鮮やかに蘇った精緻な表現をじっくりと鑑賞して欲しい。

増山雪斎《孔雀図》1801年 ボストン美術館蔵

はるか昔から密接に関わり合ってきた「芸術」と「力」。時代や国によって異なるさまざまな「力」の表現に注目しながら、権力とは何か、ということについて改めて考える機会ともなりそうだ。



構成・文:浦島茂世



【開催情報】
『ボストン美術館展 芸術×力』
7月23日(土)~10月2日(日)、東京都美術館にて開催
https://www.ntv.co.jp/boston2022/
※日時指定予約制

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