Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 「発明したものを、実用化したい」上田誠が語る『あんなに優しかったゴーレム』再演

「発明したものを、実用化したい」上田誠が語る『あんなに優しかったゴーレム』再演

ステージ

インタビュー

ぴあ

上田誠 撮影:源賀津己

続きを読む

フォトギャラリー(5件)

すべて見る

2008年にヨーロッパ企画第26回公演として初演された『あんなに優しかったゴーレム』が、14年ぶりに再演される。

本作は、ある投手の取材で彼の地元を訪れたテレビクルーが、投手がよくキャッチボールしていたというゴーレム(編注:自力で動く土や泥の人形のこと。一般にはモンスターとして知られている)に出会う、“愛と郷愁のサイココメディ”。今回の上演にあたりリメイクするという本作について、脚本・演出を手掛ける上田誠に話を聞いた。

いま僕らがやるのにふさわしい作品

――2008年に上演された『あんなに優しかったゴーレム』を、今回なぜ再演することにされたのですか?

僕らは「再演をしよう!」と思わなければ、新作をやってしまう集団なのですが、『あんなに優しかったゴーレム』はずっと再演したいなと思っていました。この作品は、割とヨーロッパ企画の原点に近いような、ストレートなコメディ作品だと思っているんですね。群像でワーッと会話をして、言ってしまえば漫才をやっているような、掛け合い、掛け合い、の丁々発止が楽しい僕らの得意技で。前作の『九十九龍城』('21年12月~'22年2月)ともまた違うタイプの作品なので、今やりたいなと思いました。

――ずっと再演したかったのはこの作品だけなのですか?

いや、ものは言いようなんですけど(笑)、どれも再演したいんですよ、本当に。時間が許せば全部再演したいし、全部つくりなおしたい。だけど新作もつくりたいからなっていう。その中でも、いま僕らがやるのにふさわしい作品かと思います。

ヨーロッパ企画第41回公演『あんなに優しかったゴーレム』メインビジュアル

――ということは、「再演」とはいえ「そのままやりたい」ということではないのですよね?

そうですね。「新作」「再演」と言っても、例えば『九十九龍城』は新作ですが、半分は『Windows5000』('06年)で培ったものを踏襲しながらやりました。逆に『あんなに優しかったゴーレム』は再演ですが、キャストはふたり増やして、リメイクをするような気持ちでつくります。僕にとっては両者の間にそんなに違いはないんです。劇団としてもそれなりに年月を重ねて、「今までつくってきたものをうまく使って、次に活かしていく」ということをだんだん意識しだしたってことですね。

――経験を重ねてきたからこそのものに、ということですね。

僕がヨーロッパ企画の作品を「企画性コメディ」と言い始めた頃は、毎回「新発明」みたいな感じでやっていました。そのせっかく発明してきたものをもうちょっと実用化したい、みたいな気持ちです。そうやって『九十九龍城』をつくったら、やっぱり自分の中では良かった。だから『あんなに優しかったゴーレム』も、「これを今やったらすごくおもしろいんじゃないかな」という思いです。

初演時からいかに密度をあげられるか

――どんなふうにリメイクされる予定でしょうか?

これね、言い方が難しいんですけど、例えば『サマータイムマシン・ブルース』を再演したときは、『サマータイムマシン・ワンスモア』という新作も一緒につくったし(’18年の劇団20周年に2作品を交互上演した)、ボリュームがあったんです。そういう意味では今回はこの一作でいくので、ある意味キュッとしている。でも「キュッとしてる」とか言うと、お客さんが楽しみにできないかなと思って……。

――いや、素直に楽しみですよ(笑)。キュッとさせたままつくるということですね。

この作品は、当時の自分たちのスケール感最大でつくったものですが、あれから14年経って、劇団に力がついてきているから、作品にいろんなことを加えて、もっと大作に仕上げていくこともできなくはないです。だけど先日ちょっとだけ稽古をしてみたら、改めてプリミティブなコメディだと思いました。舞台があって、そこでヨーロッパ企画の人たちが、ひとつの出来事についてあれこれ喋ったり、ぶつかりあったり、つかみあったりしている。それをはたから見ると、とても滑稽に見える。そういうコメディの原形質のような作品だなって。だから今回は「シンプルにつくっていく」というものになりそうです。でも「シンプルにつくるんです」っていうのは………大丈夫ですかね?

――え、なんでですか(笑)。

僕はずっと盛ってきた人間なので。いま緊張してるんですよ。『九十九龍城』とか『ギョエー! 旧校舎の77不思議』(‘19年)とかは、盛ることによって孔雀のように大きく見せてきたし……。

――(笑)

「シンプルにいくんですよ」と言うのが非常に怖いんですけど。でもやっぱりそこに面白さが濃縮している作品なので、今回はそれを徹底的にやるっていうところですね。

――シンプルと言うのが怖い理由に興味があります。

これは自分で気を付けていることなのですが、僕は放っておくと、すごくシンプルなというか、コンセプチュアルなものをつくりがちなんです。上田誠個人は、記号的だったり本質的だったりするものが好きだから。でもヨーロッパ企画はそれをエンタテインメント化する集団なので、いつも盛ったりデコッたりしてつくってきました。それは非常に楽しいですし、捨てるつもりはないです。でも今作は、シンプルに信頼のおける役者たちの掛け合いが……話していて「そういうものをつくるんだな」という感じがしてきましたが(笑)、それで十分面白いんですよね。

――その「シンプルにやる」という考えのもとでのリメイクってどんなやり方になるのですか?

僕は「いかに密度を上げられるか」が大事だと思っています。初演から十数年も経つと、「当時はこういうお弁当の詰め方をしていたけど、このおかずは斜めに入れられるし、そしたらもっと入るな」とかそういうことがわかってくる。今の僕なら上演時間を40分くらい短くできるかもしれないので、じゃあその40分ぶん何を足そうかな、みたいな感じです。自分の書いたものに大鉈を振るうのは、そんなに嫌じゃないほうですし。

「京都で培ってきたもの」を流通させる

――初演から続投の皆さんの配役は同じになるのですか?

新しい役もつくるので、何人かは入れ替えます。でも基本的にはあまり変わらないです。

――客演の金丸慎太郎さん、亀島一徳さんは、これまでもヨーロッパ企画の公演に出演されていますね。

安心と信頼の金丸さんと亀島さんって感じです。今回はコメディの度合いが強いから、そこで楽しくやれそうなふたりでもあります。金丸さんはヨーロッパ企画の先輩たちをうまく転がしてくれますし、亀島さんはうまく転がされてくれます(笑)。

――お稽古はどんなふうになりそうですか?

劇によっては世界観や背景を背負うのが面白いつくりの話もあって、例えば『出てこようとしてるトロンプルイユ』('17年)だったら、1930年くらいのパリの画壇の雰囲気だったり。その時はみんなでいろんな絵を見て、思いを馳せて、パリの身体になっていって、それを背負って舞台に立つ、ということをしました。でも今作はそういうところというよりは、格闘技のようにコメディをやるっていう、瞬間勝負みたいなものです。じっくり時間をかけてつくるというよりは、稽古場でもみんな身体あっためて「次、エチュード呼ばれるの俺かな」「俺は誰と戦う!?」みたいな(笑)。そういうつくり方になると思います。

――『あんなに優しかったゴーレム』は10周年の公演ですが、14年経って、劇団として発見したことはありますか?

僕らは「京都で培ってきたもの」を、東京をはじめ各地に持って行って流通させているような意識があるんですね。そしてそれは「その場所でしか生まれないもの」を持っていくから面白いんだと思っています。今ではメンバーもそうですが、僕もほとんどの仕事は東京です。でもやっぱり京都で脚本を書いている。京都のタイムスケールじゃないと盛り込めないものってあるんですよ。

――京都のタイムスケールですか。

今もヨーロッパ企画の公演の稽古は、京都で一か月間やっています。僕らは、15年目くらいまでは誰も東京に引っ越していなかったし、長年、京都ののんびりした時間の流れの中で培ってきた、なんというか「毛穴の開き方」みたいなものがある。それは絶対そのほうが珍しいと思うんですよ。そういう意味で、10年前は今よりもっと「土がついた野菜」みたいな感じだったんですね。今でも、東京で受ける取材と、京都で受ける取材の答え方は全然変わりますし。

――私自身が地方出身なのでわかる気がします。

だけど東京には東京のいいところがある。例えば俳優なら「今期はあのドラマにキャスティングされた。来期はどのドラマにキャスティングされるのか」とか「もっといい役を」というような戦いは、絶対に俳優を強くします。作品をよりメジャーにするにはどうすればいいか、という考え方を僕らはもう知っているし、それは知って“しまって”いるとも言える。だから今は、その「いいとこどり」ができたらいいなと思ってます。京都に一か月集まって稽古するのも贅沢な話ですが、京都にいることで自分たちの中のタイムスケールも変わってきますから。

――上田さんご自身も変化されましたか?

したと思いますよ。全然違うかも。脚本が書けなかったですからね、当時は。書き方がまだあまり分かっていなかったし。苦しみながら、みんなに助けてもらいながら、なんとかかんとか仕上げていました。毎回そんなでしたから、いまはちょっと大人になりました(笑)。

――へえ!

『あんなに優しかったゴーレム』なんて開幕ギリギリまで書いていましたからね……。そういう意味でこれは一番やばい作品でした(笑)。それもあっての(?)今回のリメイクです!

取材・文:中川實穗 撮影:源賀津己

<公演情報>
ヨーロッパ企画『あんなに優しかったゴーレム』 2022年9月10日(土) 栗東芸術文化会館さきら 中ホールでの栗東プレビュー公演を皮切りに、京都、東京、新潟、さいたま、横浜、名古屋、大阪にて巡演

チケット情報はこちら:
http://w.pia.jp/t/europe-k/

フォトギャラリー(5件)

すべて見る