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角野隼斗が愛する「ピアノ協奏曲」と「ゲーム」への思い『BBC Proms JAPAN』インタビュー

クラシック

インタビュー

ぴあ

角野隼斗 撮影:吉澤健太

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 1895年から120年以上続く『BBC Proms』は、英国が誇る世界最大級のクラシックの音楽フェスティバル。この秋、3年ぶりに東京と大阪で『BBC Proms JAPAN 』が開催される。東京では6日間の公演があり、4日目となるProm4『Game & Cinema Prom』に注目のピアニスト、角野隼斗の出演が決定。日本人の作曲家によるゲーム・映画・アニメ音楽をオーケストラ曲、あるいはピアノ協奏曲として再構築した曲による挑戦的なコンサートとなる予定だ。

 クラシックのピアニストとしての演奏活動も行いつつ、YouTuberとして100万人超のチャンネル登録者数を持つ角野。先日は『フジロックフェスティバル'22』に出演、即興演奏やオリジナル作品を交えつつもクラシック楽曲をトラディショナルなスタイルで弾く姿が大きな話題となった。伝統に敬意を払いつつも、新たな風を吹き込むしなやかなスタンスは各方面から共感を呼んでいる。コンサートに向けて、ピアノ協奏曲とゲーム音楽を軸に、思いを語ってもらった。

ゲームとバンド活動に燃えた中学高校時代

――11月4日の『Game & Cinema Prom』は、ご自身にとって愛着のあるゲーム音楽とピアノ協奏曲、どちらの要素も含まれるコンサートですね。開成中学・高校に通っていた頃は、ゲームに熱中していたそうですが。

角野 太鼓の達人をはじめとする音ゲー(音楽ゲーム)が好きでゲームセンターによく通っていました。中でもjubeatというパッドが光るタイプの音ゲーが好きで、高校1年から3年までKAC(コナミアーケードチャンピオンシップ)という公式の全国大会に出るくらいハマっていました。



 僕はピアノをやっていたのもあって、上達がものすごく速かった。それで楽しくなっちゃって、まんまとハマっていきました。音ゲー以外にも中学の頃にはたくさんプレイしました。ファイナルファンタジーは1から7までクリアしたり、モンスターハンターが当時ものすごく流行っていたので放課後に友達とみんなでプレイしたり。懐かしい思い出です。

――角野さんによるファイナルファンタジーの名曲「ザナルカンドにて」の演奏動画はYouTubeにも公開されています。ゲーム音楽への愛着はありますか?

角野 思春期をゲーム音楽と共に過ごしたので、非常に思い入れはあります。クラシックに幼い頃から触れていて中学から他の音楽に興味を持ち始めた自分にとって、ゲーム音楽というのはそのどちらの要素も含んでいるので簡単にのめりこむことができた。音楽的にも面白いなあと思うのは、例えばファミコンのBGMは同時発音数が3音までらしいのですが、その強い制約の中であらゆるアイデアやクリエイティビティを炸裂させているので、仕組みを知ると本当に感動します。



――中学受験のあと、しばらく塾などには行っていなかったんですか?

角野 中学受験がしんどかったのでしばらく塾には行きたくなくて、行き始めたのは高1からでした。それまでは、プレイステーションやニンテンドーDSをやったり、ゲームセンターに行ったり、とにかくゲームに熱中していました。遊ぶ場所といえば友達とゲームセンター、そしてサイゼリヤに行って少し何か食べて、またゲーセンに行って、カラオケに行って、そんな感じでしたね。

 スタジオに行ってバンドで演奏もしていました。いちおう部活は軽音楽部だったんですが、学校に部室がないので、結局みんな外で練習するわけです。学校の中でバンドを組んで、他の学校で対バンしたりして。パートはドラムでした。

誰もが通るピアノの練習曲には距離があった

――中学生の頃は、ピアノのコンクールにはほとんど出ていなかったそうですが、ピアノは続けていたんですか?

角野 開成では、音楽室に全員分の電子ピアノがずらっと並んでいて、全員ピアノを練習するんです。授業で与えられる課題は皆のレベルに合わせてあるので、経験者にとってはつまらないものでした。そしたら先生が『これ、やれよ』とショパンのエチュード(練習曲)の楽譜を渡してくれて。開いたら『作品10の1』だったから譜読みをはじめて、それからは音楽の授業は一人でショパンエチュードを練習する時間でした。ジャズやロックに興味を持っていた時期だったのでクラシックピアノに没頭していたわけではないですが、それでも中学3年生の時に「ショパンコンクール in Asia」に出場したり、日々の練習はしていました。

――ショパンエチュード『作品10の1』は、『胎動(New Birth) 』という形で角野さんのオリジナル曲に発展しています。『10の1』は、ショパン「エチュード」全曲の中でも指折りの難曲ですよね。角野さんのピアノには軽やかさや心地よい切れ味、繊細な音色の美しさなど、圧倒的なテクニックのバリエーションをいつも感じます。真面目に練習曲などに取り組むタイプだったんでしょうか。

角野 練習曲はもちろんやりましたが、そんなに多くの量をこなしたわけではありません。チェルニーの練習曲を40番の途中まででやめてしまったし、バイエルやブルグミュラーといった定番もどういうわけか通りませんでした。ただ師匠の金子勝子先生が考案した「指セット」という基礎練習は練習、レッスンを始める前に必ず行っていて、これは僕にとってとても効果があったと思っています。ピアニストにとって4の指(薬指)が弱いのは共通の課題ですけれど、金子先生の「指セット」でウォーミングアップすると、例えばショパンエチュードの『10-1』のような曲を弾くときの音の粒揃い具合が全然変わるんですよ。

ピアノ協奏曲を意識したのは「のだめ」

――今回、BBC Proms JAPANのステージではピアノコンチェルト(ピアノ協奏曲)の形でオーケストラとの共演が予定されています(曲目は現在調整中)。ご自分がピアノコンチェルトというジャンルについて最初に意識したのはいつごろですか?

角野:漫画の『のだめカンタービレ』に出てきた、ラフマニノフのピアノコンチェルトですかね。小学生5年ぐらいの頃。漫画が家にあって、千秋先輩カッケー…と思いながら、テレビを見てた記憶があります。『ラプソディ・イン・ブルー』を知ったのもそのころですね。あっ…それも、『のだめ』? 鍵盤ハーモニカを使ってるのも、『のだめ』の影響なのかな。えっ、これまで意識したことなかったな…。

――ピアノコンチェルトは大好きなジャンルだそうですね。

角野 ピアノコンチェルトを演奏するときは、人生で最も楽しい瞬間の一つです。オーケストラの音を特等席で聴ける喜びと、スケールの大きい音楽を一緒に創り上げる高揚感は何事にも変えがたいものがあります。

――コンチェルトをオーケストラと実際に演奏したのは、いつ頃からですか?

角野 大学2年のとき、ショパンのピアノ協奏曲第1番を弾いて「ピティナ・ピアノコンペティション」(全日本ピアノ指導者協会主催のコンクール)のコンチェルト部門に挑戦したんです。そのときの入賞者コンサートでオーケストラと共演したのが、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番1楽章でした。その数ヶ月後に、ルーマニアでラフマニノフの2番全楽章を弾く機会があり、それが初めてコンチェルトを全楽章弾いた経験です。

 その次にオーケストラと共演したのは「ピティナ・ピアノコンペティション」の特級ファイナル(全国大会最終審査)ですね。今年はラヴェルのピアノ協奏曲 ト長調や、バルトークの3番もドイツで弾いたし、ガーシュウィンの『へ調のコンチェルト』や『ラプソディ・イン・ブルー』も弾いて、「コンチェルトイヤー」状態でした。ありがたいと思いながら、必死に取り組んできました。

 ラヴェルってほとんどジャズだから、自分がやってきたいろいろなことが生かせるんです。バルトークに挑戦できたのも嬉しかった。トーマス・アデス(英国の現代作曲家)もそういうところがあって、現代的なビートを感じることがある。ジャズやロックで培ったビート感をクラシックの作品に活かせるか、ということは僕の中の一つの大きなテーマなので、そういうところに取り組めるのはすごく嬉しいし、積極的にやっていきたいと思っています。

――オーケストラのスコアも読み込んで準備されるのですか?

角野 そうですね。ジャズピアニストの小曽根真さんが、ピアノコンチェルトを準備するときにオーケストラの全パートをパソコンで打ち込んで音源を作っているとおっしゃっていて、僕も「やらなきゃだめだ」と思い、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」は、全パートを打ち込みました。オーケストレーションも学びたいと思うので、スコアの部分は丹念に読み込んでいます。

憧れとシンパシーを感じる『BBC Proms』

――これまでクラシック以外のジブリやポピュラー曲もたくさん演奏されています。そこから角野さんのファンになり、角野さんをきっかけに、クラシックに触れる人もいますね。

角野 僕はYouTubeとクラシックのコンサートの両方にかかわっている人間だから、そこは意識しますよね。もちろんジブリは好きだから弾いているのであって、クラシックファンを増やすために弾いているわけでは、もちろんないんです。結果論として、たまたま聴く人の音楽の幅を広げるきっかけになっていれば、それは嬉しいことです。

 いま、秋に演奏するトーマス・アデスの『ピアノと管弦楽のための協奏曲』(日本初演)には6分の2拍子という見たことのないリズムが出てきたりします。ビートがあるので現代音楽としては比較的とっかかりやすくて格好いい。それでも普通のクラシックよりはとっつきにくい。でも、僕をきっかけにアデスの音楽にたどり着いた人がいたら、少しでも楽しんでもらいたい。今回のProm4『Game & Cinema Prom』のプログラムも、ゲーム音楽と純音楽をボーダレスにつなげることによって、聴いた人にとっての、何かしらの「きっかけ」になれたら嬉しいなという思いがあります。

――現代音楽のほかに、クラシックと電子音楽を融合させたポストクラシカルなども最近注目されていますが、興味はありますか。角野さんが即興しているとき、ポストクラシカルも好き?…と、思い浮かぶことがあります。

角野 めちゃくちゃ興味あって、実際にポストクラシカルの音楽性、精神性からはたくさんの影響を受けています。やりたいなと思ってアナログシンセも買ったんですけれど、まだまだシンセサイザーのことは勉強中です。

 ニルス・フラーム(ポストクラシカルの代表的なアーティスト)のようなサウンドを作ってみたい、そこに自分のクラシックの表現力を組み合わせたら、もしかしたら何か新しいものが生まれるかも、などと思ったりはしているのですが、実現はいつになるかはわかりません。

――今回はリーディング・ナビゲーターとして、自分が演奏しない日にも「プロム・プレトーク」のなかで、出演アーティストとの開演前のトークイベントも予定されています。リーディング・ナビゲーターとして、BBC Proms JAPANに向けた抱負を教えてください。

角野 「最上の音楽をより多くの人に届ける」というBBC Promsの理念や、イベント自体には、憧れとシンパシーを感じます。BBC Promsには、ロックの夏フェスのような雰囲気もあって、クラシックのカジュアルな楽しみ方も提案しつつ、新たなプログラムも開拓していて、貴重な場になっている。理想的ですよね。その日本バージョンのリーディング・ナビゲーターに選んでもらえたのは、恐縮ですが、嬉しい。僕にできることは頑張りたいです。

取材・文:山本美芽 撮影:吉澤健太
ヘア&メイク:MAIMI 撮影協力:Steinway&Sons 東京
コーディネート:竹本義就



<プロフィール>
角野隼斗(すみの・はやと)
1995年生まれ。東京大学大学院在学中にピティナピアノコンペティション特級グランプリを受賞。国内外でコンサートを行うかたわら、"Cateen"名義でYoutubeにてクラシック曲や自ら作編曲した演奏を配信。チャンネル登録者100万人超、総再生回数は1億回を超える。国内外のオーケストラとの共演、ジャズやポップスのアーティストとのコラボも行う。



<公演情報>
BBC Proms JAPAN 2022
2022年10月29日(土)~2022年11月6日(日)
会場:Bunkamura オーチャードホール(東京)、ザ・シンフォニーホール(大阪)

Prom4『Game & Cinema Prom』
2022年11月4日(金) 19:00開演
会場:Bunkamura オーチャードホール(東京)
出演:角野隼斗(ピアノ)/東京21世紀管弦楽団

BBC Proms JAPAN 公式サイト: https://www.bbcproms.jp/

チケット発売日程
ぴあ先行(先着):8/8(月) 10:00 ~ 8/19(金) 23:59
一般発売:8/20(土) 10:00
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2206881

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