【阪元裕吾監督×伊能昌幸】が語る映画『グリーンバレット』撮影裏話。ミスマガジンは「めっちゃええ子たち」
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左:阪元裕吾監督、右:伊能昌行
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すべて見る2021年にはガールズアクションの大傑作『ベイビーわるきゅーれ』、アクションホラーコメディ『黄龍の村』、殺し屋の日常を描いたモキュメンタリー『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』と3本の監督作が公開され、注目度が右肩上がりの若手監督、阪元裕吾。最新作の『グリーンバレット』では、ミスマガジン2021の6人を主演に迎えたアイドル映画であり、『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』の続編でもあるというまさかのハイブリッドで勝負をかける。
阪元監督と、『殺し屋伝説国岡』の主演俳優で、自主映画時代から阪元作品の常連でもある伊能昌幸という今勢いに乗っているコンビに話を聞いた。
『ザ・スーサイド・スクワッド』みたいに後味が悪くない爽やかさを
――ミスマガジン2021の6人の主演でアクション映画を撮るという今回の企画は、どのように始まったんでしょうか?
阪元 去年の夏に『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』のポスター写真を撮ったんですが、そのときに(ミスマガジンで)映画を撮ろうみたいな話をキングレコードさんと講談社さんからいただきました。で、国岡も出すなら、みたいなことを言ったら、意外といいですね、みたいな話なったんです。『国岡』まだ公開もされてなかったのに、なんか分からないけど「いける」って思ってくださったみたいで。
伊能 なんか分からないけどって(笑)。
阪元 当初の予定ではもうちょっと、6人がメインだと思ってたと思うんですけど、いつのまにか国岡がポスターでもど真ん中にいるくらいになっちゃいました。すごいですよね。まあ、そういうような流れで。

――『グリーンバレット』は『最強殺し屋伝説国岡』の続編という扱いですか? それともスピンオフ?
阪元 まあもう普通に続編ですよね。今後もこの作品がシリーズに関わってくるでしょうし、完全に続編です!
――一時は『ミスマガジン、全員殺し屋』というプロジェクト名でも発表されていましたが、具体的にはどんな発注だったんですか?
阪元 どんなでしたっけ? 『ベイビーわるきゅーれ』がちょっとバズり出した頃だったんですけど、最初に言ってたのはタランティーノの『ヘイトフル・エイト』とか、あと『賭ケグルイ』みたいな感じで、女子同士が騙し合って、それぞれに裏があって、「生き残るのは誰だ?」みたいな話をしてました。ただその後に『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』を観ちゃって、“スースク”みたいにしたいと言ってみたらそれも意外と通ったんです(笑)。後味が胸糞悪い系じゃない、爽やかな青春ムービーにしようという気持ちでしたね。
――確かに序盤は「誰が生き残るのか?」みたいな匂いはあるんですけど、全然違う方向に行きますよね。
阪元 だからノリをつかもうと『ピッチ・パーフェクト』とかを観返しましたね。あとボブスレーの映画……。
伊能 『クール・ランニング』?
阪元 そうそう。みんなで力を合わせて、最後感動するみたいな。

――伊能さんにはどういう風にオファーされたんですか?
阪元 伊能さんには「なんか撮るでぇ」くらいの(笑)。教官役だってことは言いました。
伊能 僕も、最初にやりましょうっていう話が出た真っ最中からそこにいたので、普通に知ってはいましたけど。方針が『ザ・スーサイド・スクワッド』になるまでは早かったですよね。
阪元 うん、わりと1週間くらい。
伊能 僕も『ザ・スーサイド・スクワッド』はめちゃくちゃ好きで、阪元とも良かったよなって話はしてたので、去年の夏に企画が固まるのであればこうなるのは必然だろうなというのはありました。
――直近で観たものがそのまま反映されるんですね(笑)。
伊能 まあ最短でしょうね。あれから1年も経たずにこのポスターができてますからね。
――確かに完全に“スースク”を意識したデザインで、国岡がイドリス・エルバのポジションですね。
伊能 はい。そのつもりの顔をしてます。でも最初は『国岡』の続編という空気でもなかったというか。
阪元 そうですね。ミスマガジンの6人が主役で、国岡はカメオ出演くらいかなと思ってたんですけど、意外とガッツリと出ることになりました。
まるで“寅さん”な恋展開にも注目
――伊能さん演じる国岡というキャラクターは、そもそもどうやって生まれたんですか?
阪元 最初のイメージは、アディダスの靴箱に銃を入れて運んでる殺し屋みたいな。
伊能 バッグじゃなくて、アディダスの青い袋を持って、ジャージにデニムにキャップとか被ってる殺し屋って、マンガでは見るんですけど、実写となると洋画では観ても邦画ではまったく観たことがなくて。僕は邦画に出てくる殺し屋が全員重たいのがイヤだったんです。
阪元 革ジャン系。
伊能 それも真っ黒だったりするのが僕はちょっとズレてるなと思ってたんで。一番最初の自主映画でやった国岡ってキャラは本当に脇役で、武器商人という設定だったんですけど、それを殺し屋でやろうと。
――そのアイデアは阪元さんからですか、伊能さんからですか?
阪元 まあ、国岡の服装はみんな伊能さんの私服だし、伊能の部分が大きいですね。『国岡』に出てくる部屋も実際に伊能さんの家だったし。
伊能 普段の僕といえば、普段の僕ですよね。

――伊能さんは自主映画時代からアクションをされている印象があるんですが、アクション俳優を目指していたんでしょうか?
伊能 いや、格闘技が好きで趣味でボクシングとかをやっていただけですね。
――ではアクションに引き込んだのは阪元監督?
阪元 引き込んだのは自分ですね。同じ大学で、どっちも映画制作の側でした。
伊能 出る方になるとはまったく思ってなかったです。今もどこか他人事なんだなって思う瞬間は結構あります。このポスターとかを見てもピンとこないっていうか、まだ目が覚めてないのかなと思うことはあります。
阪元 『国岡』のときは、伊能が普段から言ってるようなことを撮って、編集のときに、たまにこれは(国岡としては)違うんちゃうかなと違和感があったところだけ切ってました。今回の『グリーンバレット』はほぼ脚本どおりですけど。
――『国岡』のときはほぼアドリブだったんですか?
阪元 7割くらいはアドリブですね。
伊能 だいたい大筋があって、ざっくり「こんな内容を喋ってくれ」みたいに言われるんですよ。
阪元 殺しを依頼してきた親子とケンカする、っていう設定だけを伝えて、そのまま「ヨーイスタートです、バトってください」っていうような演出をしてました(笑)。
伊能 実際になにかでモメてるわけじゃないんで、向こうも適当なことを言い出すから、僕も適当なことを言ってウソの上塗りをしていく。ありもないことを延々とお互いに言い続けるみたいな現場でしたね。
――冷めているでも熱いわけでもない国岡の絶妙なテンションは、演技なんですか、素なんですか?
伊能 一応イメージはあったんです。当時の僕はニートだかフリーターだかでまったく役者じゃなかったので、僕にできそうなのがアレだったっていうのは理由のひとつではあります。あんまり感情を出しすぎてもスベるし、冷淡にしすぎても僕の嫌いな感じになる。一番僕にできそうで、やってみたいちょうどいいラインが、あの淡々とした感じだったのかなと思います。
――前作では国岡に恋愛エピソードがありましたが、今回もちゃんと恋展開ありますね。
阪元 もう“寅さん”ですよね(笑)。それは毎回やるべきなのかもしれないですね。007とかだと女性をたぶらかすじゃないですか。殺し屋だけどそうじゃないっていうのも斬新ですよね。必ず片想いで終わるっていう。
伊能 味わい深い(笑)。そういうのもスカしてない感じでやりたいですね。殺し屋の役なんて、よほどしっかりやれない限り、余計なことを考え過ぎるほどスベると思うんです。あれくらいのテンションで、ただ喋って歯磨きしてご飯食べてくらいで正解だったなと、今となっては思いますね。
この作品をキッカケに、演技を頑張ろうとか思ってもらえたら
――ミスマガジンの6人に演技やアクションの経験はあったんでしょうか?
阪元 ほとんどなかったと思います。でも『ベイビーわるきゅーれ』の伊澤彩織さんも演技はやったことがなかったし、『国岡』の伊能も最初はそうでしたから、演技やったことない系の人とは慣れてはいるんです。あと、芸歴長い系の人に自分のお芝居に寄せちゃったりされるのも嫌かなとか思ってたんですけど、若い人たちは柔軟じゃないですか。実際にそうだったし、彼女たちを演出するのは楽しかったですね。
あと、映画監督ってだいたい1回はアイドル映画を経験するじゃないですか。三池崇史監督とか山下敦弘監督とか。そういうのもやっとくべきかなというか、アイドルで、かつジャンル映画をやろうって考えてました。
――キャラクターは6人に合わせて当て書きしたんでしょうか?
阪元 キャラクターは事前になんとなく考えて、その後で面談して誰が誰かなと当てはめて決めました。でも最初5人って聞いていたのにいきなり6人になったときはオエッってなりましたね(笑)。最初は金髪ギャルとかも考えたんですけど、ひとりだけ金髪にしたらいかにもアイドルグループみたいになるなと思ってやめました。演じる6人のパーソナルな部分を反映させたのは3割くらいですかね。

――今回はアクション監督として坂口茉琴さんが参加されていますが、阪元監督とも同世代の方ですよね。
阪元 アクション監督は大勢いらっしゃるんですけど、今回は泣かれちゃって「もうアクションなんてやりたくない」みたいに思われるのが一番嫌だったんです。まだ初めてで、これからの人たちなんで。
きっと迷ってる方もいらっしゃる中で、17歳、18歳、19歳って、この作品をキッカケにもうちょっとアクション勉強しようかなとか、演技をもっと頑張ろうとか思ってもらえる過渡期だと思うんです。とにかく詰めていこうみたいな時代でもないと思うし。坂口さんはだいぶベテランですけど、とにかく6人と近い目線でやってくれるかなと思ったんです。
――アクションのための準備期間はどのくらい?
阪元 3カ月くらいはアクションの練習をする時間はありました。撮影は7日間。6日間は合宿をやって撮って、大変でしたね。
伊能 でも撮影現場って基本過酷なんで、特別過酷だったという記憶ではないですね。暑い、寒い、長いとかは、いつもみんなが全然やってることなんですけど、過酷だったのはWi-Fiが繋がらなかったこと。あれが一番苦痛でした(笑)。
ミスマガジンは毎日3時間くらい反省会してたらしい
――伊能さんは、6人のアイドルとの共演はいかがでしたか?
伊能 アイドルっていうことよりも、6つ、7つ、9つ歳の離れた女の子とどう接すればいいのかっていう不安だけが頭にありました。毎回そんな感じなんですけど、心配なのはコミュニケーション面でしたね。
阪元 最初は会話が難しかったよな(笑)。でもみんなめっちゃええ子たちで、意外とすぐに話せるようになりました。
伊能 初日の夕方くらいからはもうペラペラ喋るようになってたかな? 2日目はもう完全にあったまってましたね。みんな喋りやすいし、元気いいし。朝から晩まで寒い山の中で、一番疲れやすい環境なのに、誰も元気じゃない人がいなかったっていうのが、いまだに空恐ろしいです。僕らがくたびれてても「あ、キューテンのセール終わっちゃう、ヤバイヤバイ!」って大騒ぎしてるのが信じられなかったです。
阪元 キューテンってなに?
伊能 アパレルのサイト。帰りのバスでも誰がシャワーに最初に入るかとかでずっと元気に喋ってたし。
阪元 毎日、3時間くらい反省会していたらしいよね。同じロッジに6人で泊まってたんですけど。

――伊能さんは当初はどういうプランで6人の心を開こうとしてたんですか?
伊能 そこまで固まってなかったんですけど、たぶん現場が始まればカットの合間とかに喋ることになるだろうし、3日目くらいからは仲良くなれていくかなと思ってたんです。でも6人が異様にフレンドリーで、おかげでプランを忘れるくらい仲良くなれました。「マカロニえんぴつとか聴くん?」みたいな話題も一切出してないですね。
阪元 10代のイメージはマカロニえんぴつなんだ(笑)。
伊能 10代の解像度が低いから、そのくらいしか出てこない。まあ5歳違うと別の生き物だと思ってますからね。違う時代を生きてるんで。
阪元 分かる。そりゃ人見知りしちゃうよ。
――阪元監督独自の殺し屋の世界観についてはちゃんと説明したりしましたか?
阪元 そこは事前に『ベイビーわるきゅーれ』と『国岡』を観てもらってたんで、もう分かるやろって感じではありました。さすがに撮影初日は、どこに立っていいかとか、フレームアウトっていう言葉の意味も分からなかったりとか、慣れてなくてこれは大変やなと思ったことはありました。でも2日目からバチっと人が変わったくらい仕上がってきたんです。
最終的には大坂(健太)くんの本筋とは関係ないくだりを結構残したんですけど、ああいうのって本来なら6人が目立たなくなるという理由で切られちゃうところなんです。でも、6人としてちゃんと成立してるから、大坂くんのくだりも残せたんだと思います。
彼女たちが頑張ってくれて、こういう意味分からんヤツラに対して食らいついてくれたから、僕も完成した映画を観て「最後は泣けるしええやん!」って思えたんです。いやあ、オモロイなあ、作ってよかったなあって(笑)。
取材・文:村山章
撮影:源賀津己
『グリーンバレット』
8月26日(金)公開
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