宮城県石巻市を舞台に開催されている「Reborn-Art Festival 2021-22 後期」をレポート 新作を中心に注目作品を紹介
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川俣正《石巻タワー》2022年
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すべて見る宮城県石巻市を中心に展開するアートと音楽、そして食の総合芸術祭「Reborn-Art Festival 2021-22 後期」が8月20日(土)に開幕、10月2日(日)まで開催されている。
2017年にスタートしたReborn-Art Festival(リボーンアートフェスティバル、通称RAF)は、宮城県石巻市を中心に、2年に1度の頻度で行われる総合芸術祭。3回目の開催となる今回は、21年夏に前期日程が開催され、そして今春に後期日程が開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、後期の開催は延期され、この時期の開催となった。
今回のテーマは「利他と流動性」。ワタリウム美術館館長・和多利恵津子と同館代表・和多利浩一の姉弟がキュレーターを務め、石巻市街地と牡鹿半島の合計5つのエリアに26の作品が展示されている。このレポートでは今期の新作が展示される石巻市街地の3エリアおよび牡鹿半島の桃浦・荻浜を紹介する。
■石巻中心市街地エリア
石巻駅や市役所、商店や飲食店が立ち並ぶ石巻中心市街地エリアは、2017年のRAFスタート以来、新しいアートスペースが続々と誕生している。今期はこのエリアにかつてあったサウナや鮮魚店、いまも人々があつまるスケートリンクを舞台に作品が展示される。
石巻駅前に現れた山内祥太による巨大なゴリラの映像作品は、設営時から地元市民の注目を集めている作品。ユーモラスに踊り回る巨大なゴリラはあたらしい石巻のアイドルになりそうだ。
今年、石巻市民に惜しまれつつ閉店した鮮魚店「プロショップまるか」の跡地には、小説家・朝吹真理子とアーティスト・弓指寛治の共同制作による《スウィミング・タウン》が展示されている。東日本大震災を起点に、石巻の記憶や自身に関することを直接街の人々に聞き取り、絵や言葉、インスタレーションに構成した作品。建物内のあちこちに絵や言葉が散りばめてあり、さまざまな物語を重層的に体感できる。時間をかけて鑑賞したい作品だ。
旧つるの湯の笹岡由梨子の作品《パンジー》は家族をテーマとしたビデオ・インスタレーション。画面に映る巨大な顔たちは、ゆらめきながら高らかに合唱している。また、旧つるの湯階上にある旧サウナ石巻には、プロダクション・ゾミアのキュレーションにより、アジアの作家6組の映像作品が展示されている。
ボウリング場プレナミヤギに付属するスケートリンクは、現在も冬場は石巻の人々が集まる人気スポット。シーズンオフの期間を利用して設置された渡邊慎二郎《FRESH》は、石巻に自生する植物の音を使用したインスタレーションだ。石巻の工事現場で使用されるシートなどを作品に取り込み、土地の環境を体感できるようにもなっている。
■渡波エリア
牡鹿半島の付け根にある渡波(わたのは)は、景勝地と知られている地域。震災がきっかけとなり、現在は家具工房やゲストハウスなどあたらしい場が生まれつつあるエリアでもある。こちらでは、水産加工工場跡地を舞台に小谷元彦と保良雄の作品を展示している。
保良雄《fruiting body》は、岩塩や海水、炭化した鯨の骨などを使用したインスタレーション。天井から吊るされた紐からは海水がゆっくりと落ち、周囲に徐々に岩塩が形成されていくという。
小谷元彦《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》は、高さ6メートルという巨大な彫刻作品で、今回のRAFのポスターに使用されるなどキービジュアルの役割も担っている。天使に着想を得ており、サモトラケのニケやタイタニック、翼、そして震災当時に支援のために石巻にやってきた人々などのさまざまなイメージや要素が混ざり合い、神々しさを感じる作品となっている。
復興祈念公園エリアには川俣正、風間サチコらの作品が
■復興祈念公園周辺エリア
震災で大きな被害が生じた石巻市の南浜地区を整備し、2021年3月に誕生した石巻南浜津波復興祈念公園。面積は38万8000平方メートルという広大な公園で、近くには、被災した門脇小学校の校舎が震災遺構として2022年4月より一般公開されている。このエリアにも多くの作品が展示されている。
風間サチコは、展示会場となった阿部家の石蔵が、野蒜(東松島市)で産出される「野蒜石」を使ったものであることに着想を得て、石巻や宮城をテーマにした新作を発表。「新しい山水」をテーマに、かつての石巻と現在の石巻を同時に俯瞰できる作品が石蔵内に複数展示されている。
石巻南浜津波復興祈念公園のそばには、川俣正の《石巻タワー》と、渡波エリアでも作品を展示している保良雄の《This ground is still alive》が隣り合わせに設置されている。保良は、痩せた土地を開墾し、牡鹿半島の微生物や堆肥、腐葉土などを用いて約40種類の野菜を育てている。整いすぎて生命感が感じられない復興祈念公園とのギャップに驚かされる作品だ。
川俣正《石巻タワー》は高さ7メートルにも及ぶ巨大な塔。地元企業の提供による板材や芯材で作られたこのタワーは、このエリアならびに今期のRAFを象徴するものだ。本作品は夜になると街の方向に光を灯し、灯台のような存在になる。
アーティストユニットSIDE COREは、被災地の海にそびえる防潮堤の「音」をテーマにした作品を発表。《タワリング・バカンシー》は、日本各地で集めた音を、さまざまな形のスピーカーから流した作品。この音を聞きつつ、作品の先にある防潮堤を登ると、青い海と空、それまで防潮堤のブロックにより全く聞こえなかった潮の音が耳に流れ込んでくるというもの。自然の音を存分に聞いたあとに作品までもどり、再びスピーカーから流れる音を聴いたとき、その印象は大きく異なっているはずだ。
■桃浦・荻浜エリア
桃浦・荻浜エリアは、RAFの象徴的作品である名和晃平の《White Deer (Oshika)》が常設展示されていることで知られている。
会期中は、この作品に加え、藤本壮介の《Cloud pavilion(雲のパビリオン)》や小林武史によるサウンド・インスタレーション《CIRCLE of MUSIC in the LIFE #2》なども展示される。青い空や海と、白い鹿や雲、音との対比を楽しめるエリアだ。他のエリアから若干距離はあるものの、ぜひ訪れよう。
RAFは芸術の展示のほか、ライブイベント、食イベントなどバラエティに富んだ企画も用意されている。日帰りも可能ではあるものの、可能であれば何日か滞在し石巻そのものもしっかりと満喫するのがおすすめだ。
取材・文:浦島茂世
【開催情報】
「Reborn-Art Festival 2021-22 後期」
8月20日(土)~10月2日(日)、宮城県 石巻市街地(石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波)、牡鹿半島(桃浦・荻浜、鮎川)にて開催
https://www.reborn-art-fes.jp/
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