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渡辺直美が主人公トレイシーを一層リアルに体現! 完璧なキャスティングに大満足の『ヘアスプレー』日本版初演

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ミュージカル『ヘアスプレー』より、渡辺直美と三浦宏規  写真提供:東宝演劇部

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2002~09年のブロードウェイ公演。2007・09年の来日公演。2007年の映画版や、2016年の生放送ミュージカル版。折に触れて観てきた作品だが、『ヘアスプレー』が心をつかんで動かす爆発的な力は、常に想定を上回る。楽しくてメッセージ性のある素晴らしいミュージカルであることは十二分に認識しているはずなのに、目の前であの歌とダンスと物語を繰り広げられると、ここまでだったとは! と体がびっくりして涙があふれてしまうのだ。

とはいえ、その“『ヘアスプレー』の法則”が日本版でも成り立つ保証があったわけではない。日本オリジナル演出(山田和也)による初演であり、主演は役のイメージにこそぴったりだが、ミュージカル経験のほとんどない渡辺直美である。だがこの日本版、それはそれは見事に“法則”を踏襲してきた。とにかく、キャスティングが完璧なのだ。

渡辺は、踊ることが大好きなプラスサイズの女の子という点だけでなく、揺るぎない個性とパワーと発信力、それに無類の愛され力で社会を動かしていくという点まで含めてトレイシーそのもの。ゆえにふとした瞬間の表情に渡辺自身が垣間見えても、それが役として存在する上で邪魔になることが一切なく、むしろトレイシーにより一層のリアルさを宿らせる。

リンク役の三浦宏規は、その振り切った格好のつけ方が、役の表現として機能すると同時に笑いも生むという、まるでストラックアウトの2枚抜きのような名演技。平間壮一は、体を関節から動かしてリズムを裏拍で刻むような踊りで、黒人のシーウィード役をメイクなどに頼ることなく文字通り“体現”していく。コミカルにデフォルメした演技を少しの嫌味もなく成り立たせたペニー役の清水くるみも、意地悪なアンバー役を圧倒的に可愛く演じ、センター曲「♪バイ菌」を歴史的名場面レベルに仕上げて見せた田村芽実も最高の一言だ。

出てきただけで面白く、一声発するごとに愛情深い母エドナ役の山口祐一郎、ソウルフルかつ温かみあふれる歌声で劇場を包み込んだメイベル役のエリアンナら、大人たちも漏れなくハマリ役。そんな愛すべきキャラクターたちが一堂に会し、踊り狂いながら「♪ビートは止められない」と歌うラストシーンがもたらす快楽は、とても言葉で表せるものではない。

そしてそれは、ややこしい社会問題を一瞬忘れさせてくれる類の快楽とは全く違うもの。見た目も肌の色も関係なく、みんなで歌って踊ればこんなにも楽しいという事実そのものが、差別などないほうがいいに決まっていると理屈抜きで体感させてくれる、ミュージカルでしか味わえない快楽なのだ。何度でも、何なら毎日でも観たい、紛うことなき傑作だ。

ミュージカル『ヘアスプレー』初日カーテンコールより

取材・文=町田麻子

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