スイッチ&Wキャスト両方楽しんで、朗読舞踊劇『阿国』瀬戸かずや×綾凰華×花柳幸舞音インタビュー
ステージ
インタビュー
左から)綾凰華、花柳幸舞音、瀬戸かずや 撮影:AYATO.
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すべて見る日本古典の名作を、朗読と日本舞踊のコラボレーションで届ける「朗読舞踊劇 Tales of Love『阿国-かぶく恋、夢の果て-』。シリーズ第2弾となる今回は、歌舞伎の始祖といわれる出雲阿国と希代の“かぶき者”として知られる名古屋山三、阿国を支えた女形・三十郎による恋模様が、与田想の上演台本、中屋敷法仁(柿喰う客)の演出によって濃密に描かれる。
ぴあアプリ編集部は、主人公・阿国と三十郎を回替わりでスイッチしながらWキャストで演じる元宝塚歌劇団の瀬戸かずやと綾凰華、そしてコラボレーションの要である日本舞踊家の花柳幸舞音(はなやぎ・さちまいね)にインタビューを敢行。稽古に入る前の想いを語ってもらった。
スイッチ&Wキャストの朗読劇は宝塚出身者にとって新たな挑戦
──瀬戸さんと綾さんは朗読劇に初めての挑戦されるとお聞きしました。宝塚歌劇で培った歌とダンスという武器をあえて封じる作品へのチャレンジをどのように受け止めていらっしゃいますか?
瀬戸 歌って踊って芝居して、という宝塚の中でキャリアを重ねて来たので、新たな挑戦を楽しみにオファーをお引き受けしました。言葉ひとつでステージ上を取り巻く世界を変え、観客の皆さんを劇世界へいざなうことができる。そんな可能性を秘めた朗読劇で、かぶき踊りを生み出した阿国と弟子の三十郎を演じます。在団中はずっと男役でしたので、女性の阿国を演じることに不安もありましたが、彼女も男装しながら舞い踊っていたんですよね。自分との共通項を感じつつ、チャレンジにもなる演目だと感じています。
綾 衣装も小道具も舞台美術のセットもないシンプルな朗読劇は、私たち演者のパフォーマンスがお客さまのイメージを掻き立てる重要なファクター。ですので、声と立ち姿だけで表現することに向き合うよい機会を与えていただいたと思っています。演出を手がける中屋敷さん、共演の皆さんと積極的にコミュニケーションを図り、もっと繊細に細かく深くお芝居を追求したいです。宝塚を退団して初めて取り組む作品ですので緊張していますが、新しい挑戦に胸が高鳴っています。
──花柳さんはシリーズ第1弾で「八百屋お七」として舞踊を繰り広げていらっしゃいました。大空ゆうひさんの朗読と日本舞踊のコラボレーションを経験することで、花柳さんの芸にどんな影響がありましたか?
花柳 読み手のゆうひさんと一体化したお七を演じるために、ゆうひさんがどんな風に作品や役に入っていくのか、本読みからお稽古までずっと拝見してました。感情の揺れ動きや山場にしているポイントが自分と重なっているところもあれば、異なる点にフォーカスしていらっしゃるところもあって新鮮でしたね。多様な解釈や切り口で役人物を捉えるきっかけになったと思います。
──では今回も瀬戸さんと綾さんがどのように阿国と三十郎を演じるのかご覧になったうえで、ご自身の振付を考えるのでしょうか?
花柳 ぜひお稽古をじっくりと拝見したいですね! しかも今回はおふたりが回替わりでスイッチしながら、Wキャストで阿国と三十郎になってくださるわけでしょう? お稽古を重ねると、きっと役の捉え方や山三に対する向き合い方が瀬戸さんと綾さんで異なってくると思うので、その違いに合わせた踊りを心がけたいですね。どんな風に入れ替わるのか楽しみにしながら、おふたりを観察させていただきます(笑)
瀬戸・綾 じっくり見られちゃいますね!(笑)
──おふたりがどんな風に人物像を立ち上げていくか、まさにその違いを聞きたいと思っていたところでした!
阿国の人物像にどうやって迫るか、三者三様のアプローチ
──芸の世界で身を立てていらっしゃる皆さんにとって、伝統芸能や歌舞伎の始祖といわれている阿国はどんな人物に映っていらっしゃいますか?
瀬戸 生きていくために踊らざるを得なかった側面が阿国にはあると思いますが、同輩の浮かれ女に「踊りの神様が天から降りてきて、うちの踊りを見ててくれてる気がすんねん」と打ち明けるセリフから、ほとばしる情熱が伝わります。強い信念のもと、懸命にまっすぐ踊りに向き合っている人ですよね。
綾 400年前って、生きることだけで精一杯な厳しい時代だったと思うんです。信長・秀吉・家康が活躍した戦乱の世にあれだけの情熱をもって芸事に打ち込んでいた方がいらっしゃった。同じ舞台人として励まされます。ご覧になるお客さまにも共感していただけるよう、彼女の気持ちを掘り下げながら朗読したいですね。
花柳 阿国の人物像に迫りたくて、いま芸能史研究家の小笠原恭子さんが書かれた『出雲のおくに その時代と芸能』という本を読んでいます。乱世を巧みに乗り切って、権力者と大衆の両方に愛される新しい踊りを生み出す才覚に惹かれました。阿国を取り巻く時代の空気もお客様に届けられたら。
──瀬戸さんも綾さんも、宝塚時代に歴史上の人物を演じたご経験がおありですよね。今回はどうやって阿国にアプローチしていこうと考えていらっしゃいますか?
瀬戸 私の場合、映画やドラマといった映像からヒントを得ています。そこから受け取ったエッセンスを取捨選択しながら、自分の取り組んでいる役にしのばせていました。ただ今回は台本にしっかり向き合い、「阿国を踊りに突き動かすものって何だったんだろう?」という視点で阿国像を探っていきたいです。
綾 私も、歴史上に実在した人物を演じるときはリサーチから始めますね。その方が生きた時代・風景・歩んだ道を勉強させてもらいながら、同時に作品としてお客さまに何を伝えたいのか追求する。今回は「阿国をリスペクトする気持ち」をベースに役人物を深掘りできたら、と考えています。
──花柳さんは、前作『お七』の関連インタビューで「登場人物の心を重視して踊っています」とおっしゃっていました。今回は阿国のどんな心を踊りに込めようとしていらっしゃいますか?
花柳 前半は、芸に対してまっすぐに向き合っている心を表現したいと思っています。本作での阿国は容姿端麗なルックスがフォーカスされがちで、若いころは自分の踊りを正当に評価してもらえなかった人だと思うんですね。「自分の踊りを人の心に焼きつけたい」と切実に願い、自分の心の中にいる踊りの神様を支えにしながらも「誰も私のことなんてわかってくれない」と嘆く一面もありますが、のちに名古屋山三と出会い、恋をすることで頑なに閉ざしていた心の殻が破れる。本当の自分を理解してくれた人に出会えたことで優しさやかわいらしさが顔を出すんですよね。後半はその変化を、身体の動きと心の持ち方で表現したいと考えています。
綾「瀬戸さんの阿国、すごい芯が強くてカッコいいんだろうなぁ」
──瀬戸さんと綾さんが捉える阿国と三十郎には、どんな違いが現れそうですか?
綾 (瀬戸に向き直って笑顔を見せながら)それが……台本を読んでいると、自分の阿国像よりも瀬戸さんが演じている阿国のイメージがどんどん浮かんでいくんです(笑)
瀬戸 ホント? なんでだろう?(笑)
綾 「すごい芯が強くてカッコいい阿国なんだろうなぁ……」って悶えています(笑)。頭の中で瀬戸さんの阿国像が勝手に完成されて、彼女を支える三十郎役を演じるときの「阿国さまにしっかり寄り添わなきゃ!」「人生を一緒に歩んでいきたい!」という思いばかりが募るんです(笑)
──瀬戸さんを応援するファンの視線ですね(笑)。綾さんは、ご自身で膨らませた瀬戸さんの阿国像から離れようとするのか寄り添おうとするのか、どちらをお考えですか?
綾 ふたりで同じ役をさせていただくからこそ、お客さまには異なる阿国像・三十郎像をお楽しみいただきたいですよね。だからこそ、離れようとするのだと思います。キャスト・スタッフの皆さんとたくさん対話を重ねながら、私なりの阿国像を確立していきたいですね。
──瀬戸さん、「芯が強くてカッコいい阿国像になりそう」という綾さん予想がなされていますが。
瀬戸 綾さん予想、あながち離れていないんですよね(笑)。芯が強い女性として演じたいとは思っていたので。加えて阿国ってもっと多面的なのかな、と。自分の踊りに確固たる自信があるけれど、同時に繊細で脆い一面も備えているような気がするんです。山三の身に起きたことを受け止めきれず、うまく理解できない様子も描かれていますよね。だからこそ副題(かぶく恋、夢の果て)にもあるように、夢の中に生きてしまったり。
──あのシーンは胸に迫ります。
瀬戸 これまでそういう境地にたどり着いた人物を演じたことがなかったので、おそらく試行錯誤すると思います。阿国・山三・三十郎それぞれの気持ちに共感しすぎて、初読では涙が出ました。まだ稽古に入っていないにもかかわらず、感情が掻き立てられて。そんな風に湧き上がる想いを一つひとつ大切にしていきたいですね。
花柳 このインタビューでおふたりの考えていることをお聞きするだけでも期待が膨らみ、どんな振付をしようかとても楽しみです。おふたりが稽古場でキャッチボールするからこそ生まれる違いを目撃しに、お客さまにはぜひ両方のバージョンをご覧いただきたいですね。単なるWキャストでない、互いにスイッチしながら共演するという本作の醍醐味をご堪能ください!
取材・文:岡山朋代 撮影:AYATO.、源賀津己(舞台写真)
<公演情報>
朗読舞踊劇 Tales of Love 『阿国-かぶく恋、夢の果て-』
2022年9月28日(水)~10月2日(日)
会場:東京・サンシャイン劇場
チケット情報はこちら:
https://w.pia.jp/t/tales-of-love/
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