宝塚雪組トップスター・彩風咲奈、『蒼穹の昴』舞台化に「絶対いい作品にしたい」
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彩風咲奈
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すべて見る浅田次郎の大ベストセラー小説『蒼穹の昴』が、宝塚歌劇で舞台化。19世紀末、清朝末期の中国・紫禁城を舞台に繰り広げられる壮大な歴史ドラマに、トップスター・彩風咲奈率いる雪組が一丸となって挑む。トップ就任後、大劇場公演としては3作目となる今回。「絶対いい作品にしたいという思いでいっぱい」と稽古を重ねる彩風に、本作に向けての思いを聞いた。
心、背中、表情から滲み出るものを
落日の清国。その分割を狙い、列強の西洋諸国が虎視眈々と迫る中、紫禁城に渦巻く権力への野望と憂国の熱き思いに翻弄される者たち――。激動する時代の流れの中で懸命に、運命に抗い力強く生きる人間たちの勇気や希望をドラマチックに描いた、超大作歴史ミュージカル。今作で彩風が演じるのは、地主の次男・梁文秀(リァン・ウェンシウ)。韃靼の老占い師から「汝は学問を磨き知を広め、帝を扶翼し奉る重き宿命を負うておる」と予言を受け、科挙の試験に首席で合格。清国の政治の中枢に身を置き、光緒帝に仕えることになる。「さまざまな苦しさや辛さを乗り越えて生きている人物。私が今まで演じてきた中で、一番、辛抱を強いられるお役かなと思います。耐えて耐えて耐え抜く中で、心や背中、表情から滲み出るものをお見せできれば」と、文秀について語る彩風。
大事にしたいのは、原作にある、科挙の最中に楊喜楨から助言を与えられるところだという。「今回のお芝居の中にはないのですが、楊喜楨から“本来の自分を出しなさい”と言っていただくことで、文秀は自分の皮が剥がれた気がするんです。私も宝塚の男役として、彩風咲奈としてずっと作り上げてきたものにプラスして、今までの自分の人生での経験とか、いろんな思いを出していいんだよと言ってもらえたような気持ちになりました。その言葉が、二幕の政治の場面でも、文秀の内にあるものに影響していくと思いますので、そこを根底に持ちながら演じたいと思います」。
優秀な人物を演じるうえでの難しさは多い。文秀は心情を吐露する場面がほとんどなく、身振り手振りも控えた芝居になる。「周りの人たちが文秀はこういう人だと言うことが多いので、それをヒントに作っていきたい。ともするとエリートの役は人間的ではなくなってしまいますが、文秀はいろんな人から思いを寄せられる魅力のある人物。破天荒な面もあるといろんな人たちから言われていますので、前半ではその破天荒さを大きめに表現しつつ、後半の政治の部分ではしっかりと話を引き締めたいと思います。女性に人気がある人物ということで、見た目や立ち姿にもこだわり、カッコよくお見せしたいです」。
どんな時代でも、運命や宿命は変えられる
かつて文秀と義兄弟の契りを交わしながらも、敵味方に分かれることになる李春児(リィ・チュンル)との関係にも注目だ。春児は「その手にあまねく財宝を手にするだろう」という老占い師の言葉に夢を託し、妹・玲玲(リンリン)を故郷に残し、都へ上る。やがて宦官となった春児は、紫禁城に君臨する西太后の側近へと昇りつめる。春児を演じるのは朝美絢。稽古場ではぶつかり稽古のように、本気の兄弟喧嘩に挑んでいるという。「文秀と春児は本当の兄弟ではないのですが、兄弟以上の絆があります。朝美とは、本気でぶつかり合おうと言っていて、お稽古が終わった後も、ふたりで本気で喧嘩をしてみたり。後半は運命が分かれて敵同士になってしまいますが、心はずっとつながっているというのを、ぎゅっと凝縮したお芝居の中でお届けできたらと思います」。
トップ就任時からともにコンビを組んできた娘役・朝月希和は、本公演が退団公演となる。「最後まで、最高のコンビで作品を作っていきましょう」とふたりで話したという彩風。文秀と、朝月演じる玲玲とは恋仲ではないが、最後には「ふたりの未来を感じるもの」があり、朝月の退団とも重なると話す。「“これで物語が終わり”ではなく、ふたりがこの先どうなるのかという終わり方をするのがすごく好きで。私も、朝月が卒業しても、彼女の生きていく道をずっと応援していますし、この作品がふたりのコンビの最後になったことはすごく運命的だと感じています。千秋楽まで一緒に雪組の最高の舞台をお見せしたいです」。
彩風が感じる本作の魅力は「運命や宿命を変えていける人間の力」が描かれているところ。どんな時代でも、通じるものがあるという。「すごく壮大な作品で、私には浅田先生が描こうとされていることの本当に少ししか感じられていないのかもしれない、と思いながら本を読み返していますが、どんな時代においても、人間の力がいろんなものを動かしていると思うんです。文秀も春児も、お告げの通りに生きて進んでいきますが、それ以上に、どんな時代でも、自分がこうしたいという思い、心を込めて熱く行動すれば、自分の運命だって宿命だって変えられるんだなということをお伝えしたいと思います」。
取材・文:黒石悦子
<公演情報>
宝塚歌劇団雪組
グランド・ミュージカル『蒼穹の昴』
~浅田次郎作「蒼穹の昴」(講談社文庫)より~
【兵庫公演】
2022年10月1日(土) ~2022年11月7日(月)
会場:宝塚大劇場
【東京公演】
2022年11月26日(土) ~12月25日(月)
会場:東京宝塚劇場
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