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上田久美子、宝塚歌劇団退団後初の舞台演出「不可視なものをちゃんと描いていきたい」

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全国共同制作オペラ 東京芸術劇場シアターオペラVol.16 レオンカヴァッロ/歌劇『道化師』 マスカーニ/歌劇『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』記者会見より、出演者と上田久美子(最前列左から2番目) Photo by 2/FaithCompany

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宝塚歌劇団で数々の話題作を手がけた演出家、上田久美子が退団後初の舞台演出に取り組む。12月6日に実施された全国共同制作オペラ レオンカヴァッロ:歌劇『道化師』マスカーニ:歌劇『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』の記者会見に登場した上田が、初挑戦となるオペラ演出の構想を語った。

会見の場には、上田とともに、日本のオペラ界の第一線で活躍する歌手のみならず、独創的な表現活動を重ねて注目されるダンサーたちもずらりと並んだ。上田は開口一番、「こうして多彩な歌手の方、ダンサーの方とコラボレーションできることをとても楽しみにしています。このヴェリズモ・オペラはイタリアの過去の話ではありますが、いまの日本の方たちのためのオペラにしたい」と凜とした表情で語る。

歌劇『道化師』より、前列左から)柴田紗貴子(ソプラノ)、上田久美子(演出)、前列右・蘭乃はな(ダンサー)
後列左から川村美紀子(ダンサー、『田舎騎士道』にも出演)、三井聡(ダンサー)、村岡友憲(ダンサー)、森川次朗(ダンサー)、高橋洋介(バリトン)、小浦一優(芋洗坂係長/ダンサー)、清水勇磨(バリトン)、やまだしげき(ダンサー、『田舎騎士道』にも出演) Photo by 2/FaithCompany

今回上演される2作品はいずれも、19世紀末にイタリアに生まれたヴェリズモ・オペラを代表する傑作。上演機会も多い作品だが、「ヴェリズモという言葉は真実、本物という意味ですが、この社会の本物を、しかもオペラを観に来た人たちが多分知らない世界を見せて驚かせようという意気込みがあったのではないかと感じます。それを、いまの日本でオペラを観る主に日本人のお客さまに対して、どうすれば当時作曲家の人たちが意図したことを提供できるかと思ったとき、今の日本の社会の中で私たちが普段見ていないもの、不可視なものをちゃんと描いていきたいと思いました」という上田。さらには、「初演当時の貧富の差が拡大していたイタリアの社会と、いまの日本の、社会全体が貧しくなっている状況は被るものがあると感じる。普段オペラではなかなか観ることのない、現在の日本社会の現実というものを、このオペラの中で重ねて見せることができないかと考えました」とも。

オペラという枠組みの中で、そうした思いをより明確に表現するために彼女が着目したのは、語りと三味線の演奏、人形の動きによってドラマを伝える文楽のスタイルだ。「イタリアのゲストの歌手の方たちには、イタリアのその当時に描かれたキャラクターたちの魂、その心情をイタリア語で歌ってもらい、ダンサーたちは現在の日本人を、ごく日常的な格好で、決して良い服をまとってはいない人々として動きで表現していく。昔のイタリアといまの日本が重ね合わさったような重ね絵のようなものをつくりたい」。

蘭乃はな、念願叶って上田演出作品に出演「とても嬉しい」

斬新な手法で宝塚の舞台に新風を吹き込んできた上田だが、ひとつの役柄をふたりの人間が演じる大胆な演出プランには出演者たちも驚きを隠せなかったようだ。ダンサーのひとり、「道化師」のヒロイン、ネッダ(寧々)を歌手の柴田紗貴子と対になって演じる元宝塚歌劇団花組トップ娘役の蘭乃はなは、「劇団時代は上田さんの作品に出演することはなかったのですが、念願叶って今回ご一緒させていただくことになり、とても嬉しい。上田さんの作品は私たちが日頃もやもやしていたり蓋をしていたりするものを、むりやり蓋をこじ開けて、“こういうことでしょ”と突きつけてくるヒリヒリ感みたいなものがある。かなりこだわりの強いタイプの演出家さんなので、皆さん一緒に頑張りましょう!」と、上田を賞賛。

歌劇『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』より、前列左から)鳥木弥生(メゾソプラノ)、上田久美子(演出)、森山京子(メゾソプラノ)
中列左から)川村美紀子(ダンサー)、髙原伸子(ダンサー)、三東瑠璃(ダンサー)、ケイタケイ(ダンサー)、やまだしげき(ダンサー)
後列左から)宮河愛一郎(ダンサー)、三戸大久(バス)、柳本雅寛(ダンサー) Photo by 2/FaithCompany

『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』でアルフィオ(日野)役を歌う三戸大久は、これまで本プロジェクトで映画監督の河瀨直美、振付家の森山開次、劇作家・演出家の岡田利規による舞台に参加してきたが、「宝塚出身の上田さんが一番オペラに近い方という印象でしたが、一番遠い感じがします(笑)。が、腑に落ちるところがたくさんある。 “貞節”という言葉が出てくるのですが、上田さんの台本においては上田さんの抉った言葉がとても印象的。ぜひ、舞台で観ていただきたい」とコメントした。

Photo by 2/FaithCompany

出演者たちに渡されている台本というのは、上田が自ら現代の日本に翻案したセリフによる台本。舞台では、イタリア語の歌詞の翻訳字幕とともに出す予定だという。「お客さまは、おそらく舞台の中に出ている関西弁で書かれた字幕を見ることになる」と上田はいうが、「30秒くらいで伝わることが、オペラでは5分ほどの歌になっていることも。いまの時代の人たちは速いスピードで情報が入ってくるのに慣れていて、早く次の話を聞きたくなってしまう。その時間を、背景でいろんな情景をダンサーたちが展開することにより、興味を途切れさせずに観ていられるようにしたい。山場に来たときにちゃんと音楽を感情移入して味わってもらうための実験、という感じです。

見知らぬ街に貼られた落書きされたオペラのポスターという設定でデザインされたメインビジュアルには、「みんなさみしいねん」の文字。大衆演劇の世界に生きる人たちが「うちにくるお客さんはみんなさみしいからね」と言ったというエピソードを紹介する上田の、その思いが詰まった、刺激的かつ深みある舞台が期待される。

Photo by 2/FaithCompany

指揮者のアッシャー・フィッシュと、『道化師』のカニオ役および『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』のトゥリッドゥ役を歌うアントネッロ・パロンビ、『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』のサントゥッツァを歌うテレサ・ロマーノは1月中旬に来日して合流、2023年2月3日(金)、5日(日) に東京芸術劇場 コンサートホール、3月3日(金)、5日(日) に愛知・愛知県芸術劇場 大ホールでの公演に向けてリハーサルを重ねる。

取材・文:加藤智子

<公演情報>
全国共同制作オペラ 東京芸術劇場シアターオペラVol.16
レオンカヴァッロ/歌劇『道化師』 マスカーニ/歌劇『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』

指揮:アッシャー・フィッシュ 演出:上田久美子

『道化師』
カニオ [加美男]:アントネッロ・パロンビ/三井聡*
ネッダ [寧々]:柴田紗貴子/蘭乃はな*
トニオ [富男]:清水勇磨/小浦一優(芋洗坂係長)*
ペッペ [ペーペー]:中井亮一/村岡友憲*
シルヴィオ [知男]:高橋洋介/森川次朗*

『田舎騎士道』(カヴァレリア・ルスティカーナ)
トゥリッドゥ [護男]:アントネッロ・パロンビ/柳本雅寛*
サントゥッツァ [聖子]:テレサ・ロマーノ/三東瑠璃*
ローラ [葉子]:鳥木弥生/髙原伸子*
アルフィオ [日野] :三戸大久/宮河愛一郎*
ルチア [光江] :森山京子/ケイタケイ*

(両演目出演)
やまだしげき*/川村美紀子*

*ダンス出演

管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:ザ・オペラ・クワイア
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団

【東京公演】
2023年年2月3日(金) 18:30・5日(日) 14:00
会場:東京芸術劇場 コンサートホール

【愛知公演】
2023年3月3日(金) 18:00・5日(日) 14:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール

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