#MeTooに火をつけた、『SHE SAID』で描かれる“衝撃の告発”が世界中に与えた影響とは
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『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(C)Universal Studios. All Rights Reserved.
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すべて見るハリウッドの絶対的権力者、ハーヴェイ・ワインスタインの何十年にもわたる性的暴行を報道した女性記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターの実話を描く『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』。ふたりの記事は #MeToo運動を爆発させるきっかけにもなったが、その現象は今日に至るまで世界中に影響を与え続けている。
今から約5年前にニューヨーク・タイムズの「ハーヴェイ・ワインスタインが数十年にわたりセクハラ告発者を買収」というタイトルの記事によって明らかになった、超大物プロデューサーの性加害の数々。『ロード・オブ・ザ・リング』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『英国王のスピーチ』など数々の名作を手掛け、ハリウッドで“神”と呼ばれた映画プロデューサーの数十年に及ぶ性的暴行事件を告発したその記事は、翌年ジャーナリズムの権威であるピューリッツァー賞を受賞、さらに映画業界や国を超えて世界中の性犯罪、セクシャル・ハラスメントの被害の声を促すことに。
ハリウッドに強大な影響力をもつ権力者を名指しした前代未聞の告発は、それまで風評被害やキャリアを失うことを恐れ、沈黙を守っていた幾千のサバイバー(被害にあった女性たち)たちを勇気づけ、立ち上がらせた。
本作のメガホンをとったマリア・シュラーダー監督は、その非常に大きな意義について「このスクープ記事とそれに続く動きが与えた影響は、非常に大きいものだった。おそらく大きな変化は男女ともにセクハラや虐待のような個人的な体験を考え直しているところにある。この変化は甚大よ。私たちは自分の経験をより自由に共有できるようになった。まるで光が差し込んできたように感じられ、みんなそれに合わせて順応している。私たちは皆、自分自身の行動と周囲の人々の行動をよりよく見極めることができるようになったと思う。このことは、私たちの子供たちやその先の世代にも受け継がれていくと信じている」と語っている。
また、この調査報道が露呈させたのは映画業界に蔓延る性犯罪、セクシャル・ハラスメントや性加害の問題だけではない。権力や影響力などのパワー下におけるジェンダー格差やパワーハラスメント、ジェンダーステレオタイプ(性別に対する固定化された思い込み)にも焦点があたり、世界各国で問題提起が行われた。
2018年に開催された第71回カンヌ国際映画祭のレッドカーペットでは審査員長のケイト・ブランシェットやレア・セドゥ、この翌年に他界した映画監督のアニエス・ヴァルダら映画業界で働く女性たち82名が集結しデモを実施。この人数は1946年に第1回カンヌ国際映画祭が開催されてからこの年までにコンペティション部門に選出されレッドカーペットを歩いた女性監督の数を表しており、同じ期間に歩いた男性監督1,688名との圧倒的な格差を訴え、その問題の根深さと進歩の必要性を訴えた。
日本でも映画業界において新たな性加害の告発が相次いだ今年、是枝裕和監督や深田晃司監督ら「映画監督有志の会」(後の「action4cinema 日本版CNC設立を求める会」)は3月に“私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。”というタイトルの声明を発表。さらに4月には一般社団法人 日本映画製作者連盟に対し労働環境保全・ハラスメント防止についての提言書を提出し、世界的にも第一線で活躍する監督たちが現在の映画・映像業界の体制に警鐘を鳴らすと共に、その姿勢を示し、安全に働くことができる日本映画界へと変革するための力強く大きな一歩を踏み出した。
調査報道以降、映画・映像業界に導入された新たな試みとして、肌の露出や身体接触、疑似性行為などのセンシティブなシーンを撮影する際にキャストと演出側の間に入って調整する専門家「インティマシー・コーディネーター 」の参加が挙げられる。キャストの身体的、精神的な安全を守りながら制作側の演出意図を最大限実現できるようにサポートするスタッフで、台本などに記載されたセンシティブなシーンについて監督・プロデューサー・キャストとの事前の打ち合わせを行い、全員が同じ認識のもと納得して作品作りが進められるように調整する重要な役割を担っている。
2018年にアメリカの放送局HBOが取り入れたのが始まりと言われており、日本ではNetflix映画『彼女』(2021)にて水原希子の提案により初めて導入された。日本にはインティマシー・コーディネーターはまだ2名しかいないものの、Netflixドラマ『金魚妻』、ドラマ『サワコ 〜それは、果てなき復讐』(BS-TBS/2022)、ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(CX/放送中)などわずか2年で国内の導入作品も急速に増え、今年の流行語大賞にもノミネートされたほど。参加したキャストからは「安心感があった」「信頼関係を築いた中でデリケートなシーンの撮影に臨むことが出来た」などその効果について絶賛の声が寄せられており、キャストが「NO」と言える環境を作り安心して撮影に臨める体制の要となるインティマシー・コーディネーター の導入は映画業界における本調査報道の最大の功績といっても過言ではない。
「映画監督有志の会」が提出した提言書の中でもハラスメント防止・キャスト保護の為にインティマシー・コーディネーターなどの新しい取り組みの導入の必要性が記載されており、既に制作現場に必要不可欠な存在となりつつある。
映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』では、事件の関係者に熱心な取材を行う、女性記者ふたりをアカデミー賞に2度ノミネートされたキャリー・マリガンとゾーイ・カザンが熱演。アカデミー賞常連のプランBが製作し、早くも本年度の賞レースの目玉となっている。
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
2023年1月13日(金)公開
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