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【おとな向け映画ガイド】“推し”ができたら、人生は一変!『ドリーム・ホース』。

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イラストレーション:高松啓二

今週末(12月23日〜24日)の公開映画数は21本。全国100館以上で拡大公開される作品が『仮面ライダーギーツ×リバイス MOVIEバトルロワイヤル』『ブラックナイトパレード​​』『かがみの孤城』『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』の4本、中規模公開・ミニシアター系が17本です。今回は、新年1月6日公開の感動ドラマ『ドリーム・ホース』をご紹介します。

『ドリーム・ホース』

お金持ちでもなく、有名人でもない、もう若くはない、ごくフツーの庶民的なおとな。それが、なにげない日常のふとしたきっかけから奮起して、仲間たちと出会い、夢の実現に邁進するという、イギリス映画では『フル・モンティ』とか『ブラス!』のようなちょっといい話の系譜。ワルい人はでてこない。平凡な主婦が思い立って競走馬の共同馬主になり、愛する馬に夢を託す──人生には“推し”は必要だよ、って映画です。

ワールドカップ・サッカーに4チームが出場するイギリス。実は4つの国がある。そのうちの南西部に位置するレッドドラゴンの国旗とエンブレムがかっこいいウェールズが舞台。かつては石炭で栄えたものの、いまや炭鉱は閉鎖され、人口も減り、失業者も多い、というのが現実のようだ。

主人公はそのウェールズの小さな村で暮らす主婦、ジャン。少し年上の夫と二人暮らしだが、夫の体調が悪く、ひとりで生活を支えている。朝は早くから清掃の仕事をこなし、昼はスーパーのレジ打ち、夜はパブのバーテン。実家の年老いた両親も気がかりだ。そんな彼女が、パブの客が酒飲み話にしていた“競争馬の共同馬主”に、なぜか心惹かれた。子どもの頃、動物を育てるのが好きで、ドッグレースや鳩レースで勝った思い出が気持ちをくすぐったのかもしれない。気付けば、レジ打ち中も「馬主」のことで頭がいっぱい。ついには、貯金の300ポンドをはたいて、血統はよいけれどレースで勝利経験皆無の安い牝馬を見つけ出し購入、市民農園の中に小さな馬小屋を作って飼い始めてしまうのだ。

夢中になっていく、とはこういうことなんだなと思う。そこからの、素人だったジャンのがんばりがすごい。なんたって、愛する競走馬を育てるためには資金がいる。「2年間毎週10ポンドの出資で夢を買おう」とパブの客、スーパーの客、いつも買う地元の肉屋さん……今まで馴染にしていた村の人たちに馬主組合への参加を呼びかける。堂々たるオルガナイザーだ。

牝馬は種付けに成功。期待に応え元気な仔馬を産む。その仔馬は組合員の投票で、ドリーム・アライアンス(夢の同盟)と名付けられる。市民農園育ちの仔馬は成長し、ジャンの粘り腰の交渉で国内最高の調教師に預けられることになり、国内レースにデビュー……。

2001年産まれのこのドリーム・アライアンス号の活躍と、ジャン夫妻、馬主組合の話はニュースで報じられ、『Dark Horse』というドキュメンタリーになった。同作はサンダンス映画祭の観客賞を受賞し、話題をよんだ。この成功を足がかりに、ドキュメンタリー制作に出資した英国の映画会社フィルム4が劇映画化を実現させたのだ。

脚本はTVシリーズで定評のあるニール・マッケイが担当。TV映画で英国アカデミー賞受賞歴のあるユーロス・リンが監督に起用された。ジャン役はカルト的人気のホラー映画『ヘレディタリー/継承』に主演したことのあるトニ・コレット。夫ブライアン役は人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に出ているオーウェン・ティール。馬主組合のひとり、ハワード役を演じたのはダミアン・ルイス。スタッフ、キャストともに手堅い、ツボを心得たプロフェッショナルばかり。職人ならではの映画作りをみせてくれる。

緑の多い自然、古い町並み、派手ではないが風情のある競馬場……ウェールズらしさがそこここにでてくる。「歌の国」といわれるそうで、みんなが集まるパブでエールを片手に大合唱する光景も気持ちが高揚してくる。ラスト近くで歌うトム・ジョーンズの『デライラ』なんて、観終わったあとずっと耳に残る。そういえば彼もウェールズ出身だ。

馬主組合に参加したメンバーは、お金もうけがしたくって集まったわけではない。ほしいのは「胸の高鳴り」。ウェールズ語では「ホウィル」というそうだ。変化のない日常でワクワクさせてくれること。観ているとそれがじんわりと伝わってきて、楽しい気分になる。なんか希望がもてそうな、年明けにふさわしい映画です。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

高松啓二さん(イラストレーター)
「……物語は定石的な展開だが、素直な演出に心が和む。まるで山田洋次監督の人情劇を思わせる。しかも実話なのにびっくり!……」

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