早乙女太一×倉科カナ対談“二人三脚”で夫婦役に挑む『蜘蛛巣城』
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インタビュー
早乙女太一×倉科カナ 撮影:源賀津己
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すべて見る黒澤明監督の傑作映画『蜘蛛巣城』を原作とした舞台が、KAAT神奈川芸術劇場にて2月25日に開幕する。シェイクスピア作『マクベス』を日本の戦国時代に置き換えて翻案、貧しい身分から成り上がった武将、鷲津武時とその妻、浅茅が、自らの欲望に翻弄され、破滅していく様を描いたものだ。上演台本と演出を担う赤堀雅秋の指揮のもと、早乙女太一と倉科カナ、人気と実力を兼ね備えた華やかなふたりが夫婦役で初タッグ。「二人三脚」(by 早乙女)の言葉もぴったり、鉄壁のコンビネーションで舞台へ挑む情熱対談をどうぞ!
濃密な稽古で堕ちていく夫婦の感情を模索
――稽古が始まって、まずは今の率直な感触をお話しいただけますか?
早乙女 まだ始まって間もないのに、もう中盤から後半くらいの煮詰め具合だなと感じていますね。
倉科 そう、二日目にはもう立ちながら読む感じで。進みがすごく早いですよね?
早乙女 早いですね。僕は結構、想像して……というか覚悟をして稽古に入ったんですけど、こんな序盤からしっかり密にやっていると、この作品が持つエネルギーの強さとか、感情の振り幅の激しさを今、実際に体感していて……一瞬、気が遠くなっています。(一同笑)
倉科 私も二日目くらいで心が折れて。(一同笑)(テレビや映画など)映像は1、2回のテイクで完璧なものを提出しなくちゃいけない、そんな瞬発力を必要とするけど、舞台は失敗したり遠回りして、少しずつ構築していくところがいいなと思っているんですね。ダメなところをたくさん見せていける、その良さがあると。でも本当に二日目にして喝を入れられて、本読みで固まっていたものを壊された感じがしました。それはいいことですよね。時代劇だからこうっていう固定概念じゃなく、一言一言を大切に、そこにその人の生きざまが現れるんだなって思い知らされたというか。二日目に衝撃を受けたことが逆に良かったのか、今はちょっと楽しめています。ごめんなさい、遠回りしちゃって。(一同笑)
――演出の赤堀雅秋さんが、2001年に舞台化した際の上演台本(脚本・斎藤雅文)を改訂されました。今回の台本の印象はいかがですか。
早乙女 シェイクスピアの『マクベス』を下敷きにした物語ですが、ものすごく展開が早くて、短くシャープにまとめられている印象です。言葉もだいぶ削られて、感情のアップダウンがジェットコースターのように激しくて。でもその中にちゃんと赤堀さんらしさが、勢いだけに飲まれない繊細な部分が要所要所に盛り込まれているんですね。僕の役、鷲津武時としては、激しい世界観のなかで、浅茅との夫婦の感情であったり、親友である三木義明(中島歩)との友情、そういったところを大事に出来たらいいなと思っています。
倉科 そうですね、武時と浅茅の関係性をとても丁寧に構築してくださっているなと感じます。私は赤堀さんの稽古場が初めてで、入る前は怖いのかなってドキドキしていたんですけど、すごく役者に寄り添ってくださって。浅茅のキャラクターにしても、最初の登場から心穏やかではない状態なんですね。その出発点を一緒に模索してくださっていて、新しい発見が毎日あって楽しいです。
――時代物の所作などはおふたりともに心得ていらして盤石かなと。ただ早乙女さんはセリフ量が膨大なようですね。
倉科 早乙女さん、セリフはすでに完璧です! だから周りは大変です(笑)。
早乙女 いや、完璧じゃないよ〜。なんとか途中までは覚えようとしたんですけど、やっぱり量が多くて。赤堀さんはたぶん稽古の序盤から、しっかりと感情のお芝居を作っていかれるだろうと想像していたんです。そこでセリフを覚えていないとどうにも出来なくてストレスになっちゃうと思ったので、なるべくそれに対応出来るようにしておこうと思ったんだけどね。
倉科 完璧ですよ〜。私はゆっくりタイプですから。よく言われますもん、「すごい滑り込みで仕上げるよね」って。(一同笑)
早乙女 そこがいいんですよ。こっちはいっぱいいっぱいだけど、しっかりとペースを保ってくれる人が隣にいるので、すごく助かっています(笑)。
殺陣の稽古を先導する姿は「殿そのもの」
――おふたりが演じる鷲津武時、その妻の浅茅について、どんな人物として立ち上げようとされていますか?
早乙女 今は振り幅多く、試しています。昨日やってみたものとは真逆のキャラクターを今日やってみたり。極端にいろいろと試してみて、そこから赤堀さんと自分たちで見つけていこうと。武時はもともと身分が低くて、出世も遅かった。そんな自分に寄り添ってくれた浅茅のことを唯一無二の存在と思っているんですね。その人を幸せにしたい、だからこそ出世もしたいと考えている。あとはライバルとして、友達として近くにいてくれた義明の存在。このふたりが武時にとってのキーマンで、このふたりのために何を選ぶか、どう守るかということになって来る。なので、武時にとっては自分の欲望というよりも、隣にいる人の影響が大きいのだなと思っています。
倉科 私も同じく、今はいろいろな方向から試している最中で。最初は静かな女性としてやってみたんですけど、それも違うのかなと思い始めて。いろんなアプローチを試して、赤堀さんに「こっちがいいね」って言われたら、その方向で作ってみたり。浅茅は武時のことをとても愛している、それは台本から感じ取れることですが、プラスアルファで、何を、誰を信じたらいいのかとか翻弄されていく度合いがどんどん高まるのを、立ち稽古をしながらすごく体感していて。浅茅は親も捨てて武時に嫁いで来て、見返してやりたいという気持ちもあったり。殿(武時)への愛情だけじゃなく、そういった不安や見栄、欲というのも心の中で強く渦巻いていたんだなと、今の段階では感じていますね。
――早乙女さんは『世界』(2017年上演)以来、二度目となる赤堀さんとの舞台作りですね。今回は赤堀さん自身の書き下ろしではない作品を演出されていて、以前の稽古場との違いを感じますか?
早乙女 前回とはまったく違いますね。やっぱり赤堀さんにとってもチャレンジの詰まった作品で、妥協せずに模索し、挑戦しているなと。『世界』の稽古場では、赤堀さんの中でしっかりと向かうべきところが決まっていて、そこに向けて細かく進めていた印象だったんですけど、今回は本当に、僕らと一緒に探しながら進んでいっている感じです。
倉科 そうなんですね……。赤堀さん、すごく優しいですよね。いつもですか?
早乙女 いやいや、優しくない!(一同笑)優しくないって言ったらアレですけど、僕の中ではもっとピリピリしている印象が強いから。
倉科 え〜、これからそうなっちゃうのかな(笑)。
――また、毎日殺陣の稽古を早乙女さんが先導していらっしゃると伺っています。
早乙女 今回、そんなに殺陣の場面があるわけではないんですけど、殺陣が初めての方が多いので、一緒に基礎的なところを稽古しています。殺陣師の方がいらっしゃらない時は、僕が前に立ってやらせてもらっていて。
倉科 すごくカッコいいですよ! 男性群を従えて稽古をつけていらっしゃる姿が、本当に殿そのもので。周りの方々も「殿について行く」という感じが出ていて、殺陣の稽古にも芝居へのいい影響が感じられます。あと、武時と三木義明って幼い頃から切磋琢磨してきた間柄じゃないですか。早乙女さんと中島さんが殺陣の稽古をしていると、その場所がキラキラ輝いて見えるんですよ!(一同笑)
さまざまな立場、さまざまな守りたい形
――早乙女さんと倉科さんが、稽古の中でどのようにお互いを信頼されているのかもお聞きしたいです。
早乙女 僕自身が夫婦という間柄を演じることが初めてですし、これまでも誰かと共に生きていく、そういった芝居の経験が少ないんです。わりと孤独な役柄を与えられて来たので(笑)。今回は本当に“妻と二人三脚”のような、武時が目を逸らしているところを浅茅がしっかり見ていてくれたり、そんな空気がとても新鮮ですし、ひとりじゃないという感覚が嬉しかったです。芝居としても、普段の稽古場の居方からしても、僕はわりとせっかちに変えちゃうほうだけど、倉科さんは隣でペースを保って、ドーンといてくれるんですね。それだけで僕は落ち着けるというか、すごく助かっていると感じます。
倉科 私はお稽古を拝見していて、殺陣もそうですけど、一つひとつの動きをとても大切にされているなと。剣を横に振るだけでも繊細に筋肉を使っていらっしゃるのが見てとれて。お芝居もそうなんですよ。早乙女さん、一挙手一投足に意味を込めて大切に紡いでいらっしゃるんだなと感じます。私もこういうところを真似したいなと思える、尊敬出来る俳優さんですね。
早乙女 やったあ〜。(一同笑)
――結束の固さが感じ取れますね。戦国の世を生きる若い夫婦がドラマチックに堕ちていく様をしっかり見届けたいと思います。
早乙女 物語の軸は武時と浅茅の夫婦ですけど、その周りにいる人々の生きざまも、今の時代の我々にも通じるものがあって感情移入できるんじゃないかなと思います。どの時代にもさまざまな立場の人がいて、さまざまに守りたい形があるんだなと。僕はこの作品の世界観に数日身を置いてみたことで、普段の小さな幸せをすごく感じるようになったんです。ほんの小さな幸せが、すごく大事なことなんだなと実感するようになって。エネルギーが溢れている舞台なので観るほうも疲れるかもしれませんが(笑)、そういう日々の些細な幸せに気づくきっかけになればいいなと思っています。
倉科 早乙女さんがおっしゃったように、すべての登場人物が懸命に生きていて、生きるってこういうことか! と感じていただけるんじゃないかなと。一人ひとりの懸命に生きる姿は、本当に今に重なると思います。切ないお話ですけど、どこか美しくもあって、観終わった後には何とも言えない感情になるんじゃないかな、きっとそれぞれの思いに浸って、楽しんでいただけると信じて、今、お稽古頑張ってます(笑)。
息抜きはパン屋さん巡りに爆音でダンス
――最後にオマケ質問を。稽古中の息抜きに楽しんでいることなどありますか?
早乙女 僕は本当に、稽古場と家を往復するだけの生活じゃ耐えられないから、夜ご飯を食べに行ったり。今日は朝から散歩して、パン屋さんを巡ったり。芝居の世界とは全然違う、ものすごいゆっくりした日常を送ってます。
倉科 充実してる〜!
早乙女 だって、この芝居のことばかりやってたら、とてもじゃないけど耐えられない(笑)。
倉科 私は家と稽古場を行ったり来たり、だけですね。でも道中に見える景色がすごく好きで、海だったり、天気のいい日は富士山が見えたりもして。そんな中音楽を爆音で聴き、踊れもしない踊りを踊って~。
早乙女 あ〜いいですね。
倉科 そのまま陽気に稽古場に入るのが、私の今のルーティンです(笑)。
取材・文:上野紀子 撮影:源賀津己
ヘアメイク=(早乙女)奥山信次(barrel)/ (倉科)草場妙子
スタイリスト=(早乙女)八尾崇文、(倉科)道端亜未
衣裳協力=(早乙女)NaNo Art (シャツ¥28,600税込、パンツ¥38,500税込)
<公演情報>
『蜘蛛巣城』
2023年2月25日(土)~2023年3月12日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
神奈川公演終了後、全国ツアー公演(兵庫・大阪・山形)あり
チケット情報はこちら:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2235981
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