生田斗真が『湯道』に託した思い「日常に散りばめられた小さな幸せを、大切にしたい」
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インタビュー
映画『湯道』より (C)2023 映画「湯道」製作委員会
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すべて見る「高級フレンチを食べなくても、遊園地に行かなくても、日常のなかに幸せって溢れてるんですよね」――そう語るのは、誰もが認める実力派俳優・生田斗真だ。数々のドラマや映画に出演し、2021年には歌舞伎にも挑戦。輝かしいキャリアをたどる彼が、しみじみと“小さな幸せ”の大切さを噛み締める姿に、親近感を覚える。
そんな生田斗真が主演を務める映画『湯道』は、2月23日に公開。放送作家・脚本家の小山薫堂が、実際に提唱している「湯道」をテーマに据えた作品である。生田斗真は、この映画にどんな思いを託したのか。
『湯道』は「人と人が輪になる映画」
映画『湯道』の企画・脚本を務めた小山薫堂は、2015年から独自に「湯道」を提唱している。主演を務めた生田に、湯道の存在について訊ねてみると「この映画のお話をいただいてから、初めて知りました」と前置きし、こう話してくれた。
「小山薫堂さん自身も、最初はミニシアター規模の映画を作るつもりで始めたらしいんです。まさか、こんな大作になるとは思ってなかったみたいで(笑)。そのギャップもまた、面白いですよね。ぜひ海外の方にもご覧になっていただいて、お風呂に浸かる日本の文化が広がっていけばいいな、と思います」
生田の言うように、キャスト陣からして錚々たる顔ぶれが揃った大作映画となった。生田が演じる三浦史朗の弟・悟朗役に濱田岳、彼が父から受け継いだ「まるきん温泉」に住み込みでバイトをしている、秋山いづみ役に橋本環奈。
そのほか、まるきん温泉に通う常連客の名を挙げるだけでも、小日向文世、天童よしみ、戸田恵子、寺島進、笹野高史、柄本明など、大御所が名を連ねている。「久々に、セリフを言うのも緊張した」そうだが、どのように主人公・史朗の役柄を練っていったのだろうか。
「濱田岳くん演じる弟・悟朗との対比を意識したかもしれません。地元に残って家業を立て直そうとする弟と、そこから逃げて、東京で建築家として一花咲かせようとするけど、夢に敗れてすごすごと帰ってくる、都会の空気感を忘れられない兄。でも、根っこにある“憎めなさ”も感じてもらえるように演じました」
生田斗真といえば、映画『土竜の唄』シリーズ(2014〜2021)や『彼らが本気で編むときは、』(2017)など、そこはかとなく人間臭さを感じる役柄が似合う。自身が演じた史朗、そして映画『湯道』に対しては「お湯を通して人と人が繋がり、輪になっていく話。人のあたたかさに触れながら変化していく男の物語でもあるんだと思います」と評した。
濱田岳との喧嘩シーンは「セット自慢」?
過去にも何度か共演している濱田岳とは、兄弟役を演じている。「独特な空気感を持っている俳優さんですよね。自分にないものをたくさん持っているので、羨ましいなと感じることがたくさんある」そうだ。もっとも印象に残っているのは、喧嘩のシーン。
「前日にふたりで稽古をしてから撮影に臨みました。あのシーンは、言ってしまえば“セット自慢”なんですよ。この映画の主な舞台となった銭湯「まるきん温泉」は、実際に京都の撮影所に建てられた豪華なセット。ちゃんと蛇口からお湯も出るし、そのまま銭湯として営業できる完成度なんです。ボイラー室から史朗と悟朗の喧嘩がはじまって、男湯、番台、女湯を通り、また男湯に戻ってくる。いわば、セットを自慢したいがためのシーンなんですよね」
まるきん温泉は、長崎にある銭湯がモチーフになっているなど、小山が見てきたさまざまな銭湯の特色が詰まっている。この映画で見られる、ど真ん中に浴槽が据え付けられている銭湯は、関西圏に多い形で、浴槽が端に寄っている銭湯は、関東圏に多い形なのだとか。「いろいろな文化が混ざった、まさに夢のワンダーランドみたいな銭湯です」と生田は顔を綻ばせる。
「濱田岳くんとは、ふたりで一緒に湯船に浸かるシーンも多かったので、セットチェンジをしている間は浸かりながら話をすることも多かったです。ひとつの湯に一緒に入るのは、人との繋がりを濃くするなとあらためて思いました」
プレッシャーの高い現場でも、柔軟に
生田にとって、今作の撮影は特別だったよう。キャストやスタッフと、巨大なセットを建て、京都で寝泊まりしながら映画をつくる体験は、昨今だと珍しいのでは。「まるきん温泉だけじゃなく、前の道路や向かいにあるお店も、全部セットで建ててます。凄すぎて、ほかの撮影班も見にくるくらいでした。かなりテンションの上がる現場でしたね」と笑顔で語る様子にこそ、この映画の唯一無二な魅力が表れているように思える。
多くの大御所たちと共演している点も、外せないポイントだ。
「先ほども言ったように、久々にセリフを言うのに緊張しましたよ。ベテランたちが一堂に会して、ひとり一言ずつセリフを口にし、僕が最後に締めるシーンがあったんですけど。早く誰か噛んでくれ! って思ってました(笑)。あんなに緊張することって、なかなかないですよ。だって、まさか天童よしみさんと共演する日がくるなんて、思ってなかったですから」
数々の映画やドラマに出演し、キャリアを積んできた生田でも、緊張を隠せなかったようだ。そんな彼が、今作の撮影合間によく話していたのは、やはり共演シーンの多い濱田岳と橋本環奈だったという。
「一緒に食事に行くこともありましたね。僕がいちばん年上なので、気を遣ってパッと切り上げようとするんですけど、他のふたりは「もう帰るんですか? 次、予約しましょうよ!」って。いやいや、明日も撮影があるからさ……って言っても、全然聞いてくれなかったです(笑)。基本的に、3人でいることが多かったかもしれないですね」
大御所たちとのシーンに緊張し、共演シーンの多いキャストとは気兼ねない距離感を保つ。プレッシャーの高い現場も柔軟に乗り越える生田の様子に、これまでの蓄積された経験が感じられる。
『湯道』を観た帰りには、ぜひ銭湯へ
映画のテーマにちなみ、入浴に対するこだわりについて訊くと、「1日2回は入りますね」とのこと。
「仕事に行く前と、終わったあと。なんなら撮影の合間でも、4〜5時間ほど空いたら一旦帰宅してお風呂に入るときもあります。頭に整髪料がついている状態がイヤで……。朝風呂も気持ちいいんですよね」
幼少期、祖父に連れられた銭湯での思い出も語ってくれた。当時の生田にとって、銭湯は「子どもひとりじゃ行けない、大人の社交場」。そんな、ちょっと特別な場所である銭湯で、風呂上がりにコーヒー牛乳を飲んだり、ポカポカとあたたまった身体を冷ましながら帰路につくのは「とても楽しい思い出」だという。
「お湯の温度は41度くらいがベスト。秋から冬にかけては寒くなってくるので、42度くらいでもいいかな」と、熱めがお好みのようだ。
「この映画を通して、あらためて、お風呂って“日常にある小さな幸せ”だなと感じました。どうしてもルーティン作業のひとつになってしまいがちだけど、一日の疲れを癒してくれる、すべてを洗い流してくれる場所でもある。そういう、日常に紛れてしまいがちな幸せを、いかに見つけ出してハッピーな人生を送っていくか。わざわざ高級フレンチを食べなくても、遊園地に遊びに行かなくても、探せば日々のなかにあるんですよね。この映画をとおして、そんなメッセージが伝われば嬉しいです。観に行った帰りに銭湯に寄ってくれれば、もう最高なんじゃないでしょうか」
取材・文:北村有
<作品情報>
『湯道』
2023年2月23日(木・祝) 全国東宝系にて公開
公式サイト:
https://yudo-movie.jp/
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