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【ライブレポート】ドラムセット、パーカッションで即興演奏 シシド・カフカ主宰新感覚リズムイベント『el tempo』2/10duo MUSIC EXCHANGE公演

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el tempo Photo:TOSHIYUKI KONO

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基本的に打楽器は楽曲のテンポをキープするためのものであって、メロディや伴奏を規律性のある流れに乗せるのが仕事。みたいなイメージで打楽器を捉えている人は少なくないだろう。けれどel tempoが生み出す“リズム”の意味を知れば、それがいかに安直な考えだったかがすぐにわかる。ステージ上にドラムセットやパーカッション、エレキベースしかなく、終始叩くか打つか振るかしかされないel tempo(エル・テンポ)のライブには、見る人にまったく新しい“リズム”の価値観を与えるものだった。

まずel tempoとは、ブエノスアイレスにハンドサイン留学をして基礎から学んできたシシド・カフカ主宰による、ハンドサインを演奏者に出し、即興演奏でセッションするリズムイベントのこと。メンバーには日本の音楽シーンで活躍するドラマーやパーカッショニストが多数在籍し、公演にあわせて出演者は変わるが、楽器自体は担当制ではないため、その日がどんなメンツであっても楽器の種類はおよそキープされる。

そしてハンドサインとは、アルゼンチンを代表する打楽器奏者/プロデューサーのサンティアゴ・バスケスが考案した、100種類を超えるサイン(身振り手振りによる指示出し)のこと。日本では、2018年から各地で公演が行われ、2021年には東京パラリンピック閉会式にも出演し話題となった。そんな彼らが渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて定期開催している2月10日の公演には、開始前からアルコールを嗜み、踊る気満々な人たちが集まっていた。

ドラムやパーカッションが半円状にずらりと並んだステージの中央に、メンバーと向かい合う状態で立つシシド・カフカ。コンダクター(オーケストラでいうところの指揮者)として、指や手のひらで様々な形を作ったり、腕を大きく回したりしながら奏者にサインを送る。

最初に確定したテンポに銘々がその瞬間にひらめいたフレーズを乗せ、折り重ねていくことで、瞬く間に濃厚なパーカッショングルーヴが場内を支配していく。それはときにラテン・ミュージックであり、フュージョンであり、アフロビーツであり、メインとなる楽器の音色によってあらゆるジャンルの音楽的アプローチが顔を出す。

指示を出された楽器が複数であれば、その演者同志が顔を見合わせ、互いのリズムにどう自分のリズムをぶつけるか考え、そこで生まれたフレーズを受けてまた次の奏者が軽快なソロをキメる。その怒涛の即興プレイは目にも止まらぬ早さで展開していき、あまりのカッコ良さと驚きの連発に、見ているうちに呼吸するのさえ忘れてしまっていた。

何が凄いって、すべて即興、つまりアドリブであるということ。決まった曲の中で一定の時間を使って行うセッションとはわけが違う。セッションとしての自由度は同じでも、ハンドサインを用いたこの形態は、そこに複数の打楽器と曲を描くための指示が入り、どのようにして数秒後の自分にバトンを渡すのかといった個々のセンスが試される。

しかもサインは次の小節の一拍前くらいに入ることもあるため、リピートされたフレーズをキープする人、離脱して次のアクションを起こす人など、それぞれ見落とすことなくコンダクターのサインに合わせていく必要がある。

奏者はサインが出れば出るほど分厚くなっていくグルーヴに酔いながらも、一方では恐ろしく冷静にサインを読み取らなければならないのだ。そんな自由度と緊張感の混ざり合った空気感を味わうのも、ハンドサインの醍醐味なのだろう。

この日は2部構成となっていて、少しの休憩を挟んで後半はさらに激しいセッションを披露。ロックを基調にしたビート感にラテンやサンバのスパイスを加え、前半よりもさらに攻撃的かつ遊び心たっぷりなリズム展開と音色で、観客のノリを煽っていく。それぞれ好きなように演奏しているように見えて、随所でバン!と完璧にキメを揃える。そのたびに鳥肌が立った。

シシド・カフカ Photo:TOSHIYUKI KONO

シシド・カフカの想像力と決断力は素晴らしく、全体の流れを把握しながら次に描くべきビジョンをしっかり捉え、ひとつの楽器ももらすことなくサインを与えていく。それによってそのリズムは時に大都会の雑踏を思わせ、時にアフリカの風を感じさせ、時にクラブシーンの混沌に着地させたりする。華々しいスネアとシンバル、表情豊かなコンガ、クリアな響きを持つスルドなど楽器の持つ音色とその重なり方を駆使し、メロディのそれと同じように風景やストーリーを見せていく。奏者にだけでなく観客にもサインを出して手拍子やジャンプを促し、まさに場内一体のセッションを作り上げる様は、見事としか言いようがなかった。

ちなみにもうひとつ、ハンドサインならではの醍醐味がある。それはこの日に行われた、コンダクターと奏者がリレー形式で入れ替わるという試みだ。ハンドサインは、奏者も内容を理解している。しかもパーカッショニストは、全員がほとんどの打楽器を扱えるのだ。打楽器集団であり、セッションであり、即興音楽であり、サインコミュニケーションだからこそできるパフォーマンスはじつに圧巻だった。

あまりに楽しくて強烈なインパクトのあるel tempo。テクニックや音から伝わるメッセージ性でいえば、そのジャンルは断然ロックだ。ライブ後に自分の身体に残ったのは、それこそ盛大なオーケストラやミュージカルを鑑賞したような、ライブハウスで曲にあわせて踊りまくったような感動と充実感だった。

Text:川上きくえ

<公演情報>
2023年2月 定期開催『el tempo @duo MUSIC EXCHANGE Vol.5』

2月10日 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
出演: IZPON/伊藤大地/岩原大輔/ケイタイモ/KENTA/シシド・カフカ/show/はたけやま裕/MAUSUO/芳垣安洋

<ライブ情報>
2023年定期公演@duo MUSIC EXCHANGE

4月6日(木)、6月15日(木)、10月26日(木)、12月22日(金)
※8月の日にちは追って発表
OPEN19:00 / START20:00

el tempo 公式サイト:
https://eltempo.tokyo

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