【インタビュー】ロックバンド・CRYAMY「生きていくことにフォーカスが当たって、それを心から賛美できる力を歌に込めたかった」
音楽
インタビュー
CRYAMY フジタレイ(Gt) / カワノ(Vo/Gt) Photo:岩佐篤樹
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すべて見る3月1日(水) にファーストマキシシングル「FCKE」をリリースした4人組ロックバンド・CRYAMY(クリーミー)。このシングルに収められているのは、原型を遡ればフロントマンのカワノが10代の頃に作った曲だという「世界」の再録(2019年の『#3』に収録されていた)と、「GOOD LUCK HUMAN」という新曲。
2曲合わせておよそ20分という、その形だけを見ればロックバンドのシングルとしては「常軌を逸した」作品になっている。だがそれが決して奇をてらったり先鋭性や実験性を打ち出したりした結果でないことは、実際に楽曲に耳を傾ければわかるだろう。そこで歌われる言葉も、鳴らされる音も、これ以上ないほどに純粋。この時間と構成が曲にとって、バンドにとって必要なものだったということがきっと伝わるはずだ。
これまでの作品でコアのファンの心を鷲掴みにし、そういう人たちにとっては人生に欠かせない存在となってきたCRYAMYだが、一方でそれ以外の広がりを作ることに対してはあまり意識を払ってこなかったことも事実。
だがこのシングルのタイミングでカワノは初めて「人に聴いてほしい」と感じだという。その思いが初のサブスク配信(過去曲も含めて解禁する)というアクションにもつながったし、このシングルを引っ提げての渋谷CLUB QUATTROワンマンに掲げられた「世界を救う漢たち」というタイトルにも結実しているように思う。
つまり、CRYAMYはもっともっと多くの人にとって必要なバンドであるべきだし、そうなる準備は整ったということで、カワノとギターのフジタレイに話を聞いた。
――シングル「FCKE」はEP『#4』以来約1年ぶりのリリースとなります。CRYAMYにとってのこの1年はどんな時間でしたか?
フジタレイ(Gt) 個人的には結構、苦しいというか我慢というか踏ん張っていたというか、ギリギリの足場でフラフラしながらやっていた感じでした。でも今回の2曲20分をレコーディングしたぐらいからは「もういいか」みたいな、概念にとらわれない足場ができたかなって思っていて。いい意味で諦めてきたというか。
カワノ(Vo/Gt) うん、それはあるな。
フジタ いい意味で妥協できるところも増えて、心の不安が最近はちょっとずつ減ってきていますね。
カワノ 妥協っつうか、もうどうでもよくなりましたね。その、僕のどうでもよくなったところにみんなのチューニングが合ってきたのかなと思います。
――カワノさんがどうでもよくなったのはなんでなんですか?
カワノ 理由とかは特にないですけど、急にっすね。今の周りのバンドもそうだし、音楽業界でも何でもいいですけど、いろんなものを見たときに「まあ別にいいか、この人たちは勝手にやってれば」みたいな感じもあるし、僕は好き勝手やらせてもらうよというか。もうやけくそにも近いし、「こいつらどうでもいいな」みたいな感じにも近いし。気づいたらどんどんそうなってたんで。
――それはポジティブなこと?
カワノ ポジティブもネガティブもないんじゃないですかね。何もない。本当にどうでもいいっていう。
――それで生まれたのが今回のシングル?
カワノ そうですね。
――マイクを100本以上立ててレコーディングしたそうですけど、なんでそういうやり方になったんですか?
カワノ いくつか理由がありますけど、僕、スティーヴ・アルビニというプロデューサーが好きなんです。僕はクラウド・ナッシングスの『アタック・オン・メモリー』っていうアルバムとかザ・クリブスの『24-7 ロックスター・シット』っていうアルバムが好きなんですけど、あの人のドラムの音の録り方がすごい好きで。海外のインタビューとかを見たり読んだりすると、あの人って尋常じゃないぐらいドラムにマイクを立てて、空間の音を拾ってミックスするっていうことが書いてあって。
それ見てたらなんかやろうと思えばやれそうだなと思ったんです。それでエンジニアさんに――MEANINGのYOKKUNに録音してもらったんですけど、YOKKUNに相談して、廊下にマイク2本立てたりとか、地面にマイクのグリルの部分をくっつけて振動だけ拾ったりとか、天井に吊るしたりとか、ギターアンプに2m間隔でマイク6個ぐらい置いたりとかして。それで結局、トータルで100本以上になったんです。
――レイさんはどうでした? そういうレコーディング。
フジタ 最初はびっくりしましたね。「マジで?」みたいな。7割ぐらいは空間のマイクだったんで。
――で、一発録り?
カワノ ですね。
――そういう意味では別の緊張感みたいなのもありました?
カワノ いや、むしろ今までの方が緊張感あったんじゃないかな、僕がカッカする人なんで。
フジタ 今までのレコーディングは絶対怒ってたもんね。
カワノ でも今作は2日間っていうリミットで2曲録ろうっていうのもあったし、空間の音も混ざるんで、多少ラフにやってもかっこつくんすよね。もうノリがよければそれでいいや、ぐらいだったんで、プレイに関しては一番楽に録ったんじゃないかなと思いますね。だから分解して聴くと「ずれとんなあ」みたいなのがいっぱいあるし。でも結果的に混ざってすごく人間っぽい音にはなったのかなって。
――確かに、精密かといわれたらそうじゃないかもしれないけど、この音で、こうやって録る意味は聴いていると伝わってくる感じがしますね。
カワノ そうっすね、すごい満足してます。録音はYOKKUNで、ミックスは結成した頃からずっと同じ人がやってくれてるんですけど、その人とも5、6年近くディスカッションをやり合ってきた中でできたものと考えたら、これはすごく意味のあるものができたなと思います。だからいろいろな人に聴いてほしいって、初めて思った。今までは思っていなかったんですよね。
――それは何が違ったんでしょうね。
カワノ シンプルにいいものができたから。
フジタ デモのときからいいなって思ってたしね。飛び抜けていいと思ってました。
――この2曲を聴かせていただいて――。
カワノ 地獄だったでしょう。あんな長いの。僕、新宿から電車に乗って新百合ヶ丘まで流れてましたからね。
フジタ 長すぎる(笑)。
――まあ地獄っていうか、バケモノみたいだなと思ったんですよ。だけどすごく美しいバケモノを見てるような感じっていうか。
カワノ ああ、本当ですか。
――あの長いインプロヴィゼーションの部分とかにもちゃんと意味があるというか、あの時間というのが必要だったんだなと思えたんですよ。むやみに伸ばしたというよりも必然としてそうなったっていうか、長いのを作りたくて作ったわけじゃないんだなって。
カワノ そうですね。元々はもっとギュッとしてたと思うし、再録してああいうふうに増えたんですけど。
――いずれにしてもこの曲をもう一度録ろうと思ったということは、それだけ大事な曲っていうことですよね。
カワノ 僕個人としては結構そうかな。あれ、大元は18歳か19歳、ギター始めたときに一番最初にデモで作った曲で。それが変化して変化して、歌詞もメロディもいろいろ変化をした上で、最初の『#3』に収録されているバージョンができあがって。
そこからよりブラッシュアップするというか、あれはなんのかんの、自分でも想像してなかったですけど、思いの込められた曲になったのかなというのもあったので。あえてここでもう一度やるというのは、非常に意味があるかなと思います。
――改めてこの「世界」っていう曲で、自分は何を書いたんだと思いますか?
カワノ 難しいな……いろんなものを書いたつもりではありますけど、そうだな、決して自分がいい人になりたいとか、そういうつもりで言ってる言葉ではなくて。人に優しくなろうとか、そういう次元のものではなくて。
もうちょっと手前の領域で……僕が読む仏教の本に出てくるんですけど、「聖(ひじり)」っていう。あれね、書いたときにたぶん俺、聖になろうと思ったんですよ。それは人を導こうとかそういうことではなくて、ただ概念として正しいものというか。
簡単に言うと僕は自分が正しいと思うことを書きたかったんです。それは単純に人が生きていくということでもあるし、その生きていくということに対しての尊さを自分で認識して忘れないであげてほしいなっていうのもあるし。
とはいえ人から教えてもらわないとわからない部分もあるから、それを伝えるものでもあるし。最終、何もかも信じられなくなったときに、最後、この歌で生きていくことそのものにフォーカスが当たって、それを心から賛美できる力を歌に込めたかった。生命力というか、そういうものを手渡せる聖になりたかったんです。
――なるほど。
カワノ それが一番最初にこの曲を書いたときの感情で。でもバンドを組んでいくといろんなことを歌いたくなってくるし、現実に直面したり諦めてしまったりとかもあって歌えなくなっていったり、失われていったものもありますけど。
幸いにもそういうものに直面する前の純粋だった自分が一番最初に原型を作った曲ではあったんで、あれがあれば僕自身そこに立ち返れるし、僕がやりたかったことは全部あそこに置いてきたから、歌えばいつでも再現ができるしって思ってるという。ちょっと話が煩雑だったかもしれないですけど、そういうものを歌いたかったのかなとは思いますね。
――いや、わかります。今までCRYAMYが歌ってきたことって、現実とぶつかり合ってたり、そこに直面したときに生まれてきた感情が吐き出されていたり、要するに現実との関係性の中で生まれていたものだった気がするんです。このシングルの2曲にもそういう部分はもちろんあるんですけど、なんか一足飛びに理想を歌っているような感じがする。
カワノ うん、そうですね。
――そういう2曲だから、どちらもものすごく純粋なものになっている感じがするんですよ。それ以外の瑣末なことをとっくに超越してるっていうか。
カワノ うんうん。
――「やっぱり世の中、3分半の曲がウケるよね」とか、「1サビまでは早い方がいいよね」とか、そういう外から来る価値観みたいなの、あるじゃないですか。
カワノ 言われました、言われました。新宿ロフトで昨年末イベントをやりましてね。
――はい、伝説の。このシングルの2曲だけをやったという。
カワノ 伝説なのかはわからない、物議は非常に醸しましたけど。あのときにもちょうど決まりかけていたメジャーレーベルの方が来てたんですけど、その方に「あのライブはどういうことなんだ」と言われて、こいつダメだなと思った(笑)。
それですべてなしにして。彼(フジタ)にも言いましたもん。「すまんけど、俺はあいつとやるつもりはない」って。おそらくこんなことやったら今後二度とメジャーデビューとかできないけどいい?って言ったら、「まあ、別にいいよ」みたいな。
フジタ 別にいいと思う。わかる、わかる。
――そういう価値観に対する反発ですらないって感じですよね。
カワノ 反発でもないです。純粋に、「めっちゃいい曲できたけど、時間なげえな、時間的に2曲しかできないけど、これが今の俺の一番いい曲だからな」ぐらいの気持ちではあるんです。だけどやれ尖ってるだなんだ、的外れなことを言ってくる人もいますから。それに怒ったりはしないですけどね。わかってくれる人はとわかってくれると思いますしね。
――一方の「GOOD LUCK HUMAN」はよりピュアな感じがするんですけど、これはどういう心境でどういうふうにできていった曲なんですか。
カワノ これは昨年かな。昨年の春頃に歌詞から書き始めて。夏、8月の頭ぐらいまでかかったのかな、つらつらつらつら書いてて。昨年は自分的にはわりと閉塞した心境ではあったんです。世の中的にもいろんなことがあって、安倍元首相が撃ち殺されたり、戦争が起こっていたり、そもそもそういうときに音楽なんかやってる場合なのかっていうのもあったし、無力感みたいなものもあったし。
個人的には世話になってたおっちゃんが死んだり、先輩の仲良いバンドが解散しちゃったり、そういう喪失もあって。といっても喪失から生まれた曲ではなくて、単純にそれで俺がすごい閉塞した感じになっちゃってたっていうことなんですけど。
そういうときに自分を慰めるっていうよりは、それこそさっきの話じゃないですけど理想というか「こうだったらいいのにな」のつもりで書いたものではありますね。
――本当に「こうあったらいいな」っていう世界だけを書いている感じですよね。
カワノ そうっすね。でも賛美歌ってそういうもんだなと思う。昔はよく笑われたもんなんですよ。そういうことを書いたりステージ上で言ったりすると「馬鹿なこと言いなさんな」とか「くさいことを言うな」とか。
そう言われたとて俺は変えてはこなかったし、むしろ「こいつら馬鹿だな」と思いながらやってましたけど。むしろそういうものの方が大事だと思ったし。これは賛美歌のイメージなんすよ。すごいリヴァーブをかけたりとか、テンポ感的にも。歌詞でも淡々と祈っていたりとか、こうであってほしいと呼びかけていたりだとか。そういうもんだし、だったら俺もこうでいいよねっていうつもりで書きました。
――すごく優しいですよね、言葉遣いとか口調とかも。
カワノ うん。人によっては結構図星を突かれるところもあるだろうし。友達がこの曲聴いて結構ショックを受けていたんですよ。〈暴力に憧れないで 悪に魅力を感じないで〉っていう歌詞があるんですけど、あれは戦争だ、銃で撃たれたっていうのもそうだし、もっと言えばねSNSで誹謗中傷だとか、最近だと寿司をペロッてやっちゃってみたいな、いろいろあるじゃないですか。そこまでじゃなくても、人に冷たい態度をとったりとか悪口を言ったりとか、僕もやったりするんですよ。
でもそういうものに魅力を感じる人が多い気もするし、暴力的なものを悪いとわかっていながら許容してしまう人が大多数なのかなと思っていまして。だけど良心にちゃんと訴えかけたらやっちゃダメだっていうことはわかってるし、人は。
たとえば家族とか恋人とかがそういう目にあったら、それはお前も傷つくやろっていうのも当たり前の感覚だし。それを認識しろよっていう意味の歌詞でもあるし、逆に、強い人はそこを認識してるからそもそもそういうものに左右はされてないかもしれないけど、社会でそういうことが起こってるのを見て傷ついてる人もいるだろうから、そういうやつに対しては「お前、間違っておらんぞ」っていう意味でもあるし。理想論的な自分の思いの発露でありながらも、人に呼びかける言葉を使ったつもりではあります。
――そうですよね。〈背中をね 押してあげるよ〉とまで言っていますから。だから結局のところカワノさんは理想とか肯定性だとか、そういったものをすごく大事に思ってるし、そこに価値を見いだしているし、それだけは手放さないようにしている人なんだという。そういう感じが歌詞を読んでると伝わってきます。
カワノ いや、カスですよ?
フジタ 照れてる(笑)。
――人間愛というか。
フジタ 俺は人間愛あると思うよ。冷徹なところもあるけど。
カワノ もしかしたら人間愛はないけど、人間愛があるということは正しいよねっていう。これは絶対に思ってますね。僕に人間愛があるかどうかは僕にもわからないし、どっちかと言ったらきっとないほうだと思うけど、ただ、人間愛を持っている人が絶対的に正しいという思いは強くあります。
――そして、このシングルを引っ提げてのレコ発、そして3月29日(水) には渋谷クラブクアトロでのワンマンライブ「CRYAMYとわたし-世界を救う漢たち-」が控えています。このタイトルは?
カワノ これはね、友達の店に行って……レコードがかけられるバーなんですけど、そこで『ジョンの魂』聴こうやとか言ってジョン・レノンのソロを全部聴いたんです。そのときに、映画の『アルマゲドン』とか、世のため人のために死ぬとか歌ってるやつってやっぱりシンプルにかっこいいねっていう話をしていて。不謹慎だけど、そうやって死ぬやつは最高だ、みたいな。その日の帰りに「タイトルこれにしよう」って思いました(笑)。
だからなんかシャレに近いような感じで考えましたけど、一方で本心ではあるんで。世のため人のために何かをする男のかっこよさというか、これに尽きるなという。それを端的に表した言葉ですね。 でも僕、そんなにワンマン好きじゃないんですよ。ここぞっていうときしか本当はやりたくない人だから、そういう場にはなると思います。今までで一番長い公演になるのかなと思いますね。
――うん、「救う」っていう外向きの矢印をCRYAMYが今持てているということなのかなと思いました。外向きということでいうと、このシングルのタイミングで今までやってこなかったサブスクでの配信も解禁されます。
カワノ これにはいろいろ理由があって、そもそもやらないよって決めてた理由もあったりしたんですけど、結論から言うと今作のシングルを作ったときに初めてぐらいに「人に聴いてほしいな」っていう感情が芽生えたので。その欲望とそれまで「やらない」と思っていた欲望が矛盾してきたんで、何か言われるかもしれないですけど、それに関しては「ごめん!」っていう。やりたくなった、悪い!って。
フジタ それは理解してほしいですね。
カワノ 自分のバンドって閉じた空間で閉じた人たちに向けて歌ってるような印象であっただろうし、実際そうだったんですけど、もっと広げれば俺の目が届いてない部分にもきっと、自分の音楽で何かを為せる人っていうのはきっといっぱいいると思って。
そういう人たちに対しても僕は力になりたい、というか歌を届けたいという。これも欲求ですよね、かっこつけた理想論とかっていうよりも本能的な欲求。そこに素直になった結果がこれ、ですね。単純に俺の曲をめっちゃ聴いてほしいっていう。金儲けしたいんだったら、今回のシングルも500円で出さないですよ(笑)。本当にいろんな人に聴いてほしいから、500円でフィジカルで出すし、サブスクも全部出すし。とにかく聴いてほしいですね。
Text:小川智宏 Photo:岩佐篤樹
<リリース情報>
CRYAMY 1stマキシシングル「FCKE」
発売中
価格:500円
【収録内容】
1. 世界
2. GOOD LUCK HUMAN
CRYAMY「世界」MV
<ライブ情報>
CRYAMY ワンマンライブ2023「CRYAMYとわたし-世界を救う漢たち-」
3月29日(水) 渋谷CLUB QUATTRO
OPEN18:30 / START19:30
【チケット料金】
前売3,500円 / 当日4,000円
※3月11日(土) 10:00より一般発売開始
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2244902
CRYAMY 公式サイト:
http://cryamy.tokyo/
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