片桐はいり×岡田利規 対談 喫茶店上演の『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』
ステージ
インタビュー
左から)岡田利規、片桐はいり
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すべて見る街中にあるガラス張りのカフェの片隅。コーヒーを注文した女性がひとり、何やらボソボソとつぶやき始める。観客は、カフェの外からガラス越しにその様子と、テーブルを俯瞰して彼女の手もとを映すモニター画面を見守る――。岡田利規(作・演出)の『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』は、2015年に大分で初演され、翌年、横浜や東京・池袋のカフェでも上演された。が、新たに片桐はいりを迎えて神戸の喫茶店で上演されている今回のヴァージョンは、テキストは同じなのに、まったく印象の異なる作品になっている。神戸公演を前に、最後の稽古を終えた直後のふたりが語った。
現実の空間に割り込んできたフィクション
岡田 なんかこの作品は、新しいフェーズに突入した感じになってますね。
片桐 今までと違うことになっているのでは。
岡田 違うことになってます。なんか今日のリハーサルのはいりさん、コーヒーの飲み残しのカップに残った模様で占うシャーマンみたいだった。その異様さが、日常的な喫茶店という状況の中で生み出すコントラストを想像したら深く感動してしまいました。いや、すごいものを観てしまった。
片桐 そうですか。
岡田 初演の際にこの作品を構想するときのレファレンスにしていたのがたとえばマーティン・スコセッシュの『タクシードライバー』でした。都市の中に埋没している、喫茶店でひとりでコーヒーを飲んだりしている普通の人がいる。でも、その人の心の中は外から見ているだけではわからない。もしかしたらヤバいこと考えているかもしれない。でも、もしそうだとしてもそんなこと、そこまで特別なことじゃないですよね? そんな状況、わたしたちの周りには溢れかえってますよね?……みたいなことをやりたかったんです。
『タクシードライバー』の場合は、主人公のヤバさが、その後の展開で髪型がモヒカン刈りになったりしていってどんどん顕在化していきますけど、この作品はその手前の状態で留まり続ける。留まり続けているけどヤバい、みたいな作品というイメージでいました。でもはいりさんがやると、その一線を越えていくおもしろさもアリだなというふうに変わってきてますね。
片桐 「目立たないようにして、埋もれていたい人」と岡田さんには言われたんですけど、「こういうことやったらおもしろいだろうな」という想いも、自分の中にはあるんですね。ほんとに埋もれていたい人であるのと同時に、それとは裏腹の、モヒカンになる可能性も、ちょっと秘めたいわけじゃないですか。私も、この人ほどではないですけど、子どもの頃は、こういう(天地創造系の)ことを考えていた気はするので、全然ふつうだと思ってるんです。ただ、どこまでテーブルを汚していいものか。丸めた紙ナプキンを口に入れるか止めておくか、といったことは、いつも迷いながらやってますけども。
テーブル上のコーヒーや水、紙ナプキン、砂糖やクリームの容器などをいじり回しながら、「世界の始まりは液体だった」と、天地創造譚を展開する女性(片桐)。その動きは、かなり突飛かつシュールでいて、「その液体は黒い色をしていた」と言ってコーヒーを飲んだり、「巨大な振動が起こった」と言いながらテーブルを揺らしたりと、時には具象的だったりもする。みな片桐自身のアイデアによるものだ。
片桐 これはどうなんでしょうね。
岡田 どっちでもオッケーです。重要なのは、訝しむような、ひとりよがりの神話を抱えている人が喫茶店に座って、そのテーブルにある物たちを駆使してその神話を、誰のためにでもなく、自分のためだけに具現化しようとしてる様子で、それを見て周囲の人が「あなた大丈夫ですか?」ってなるという。描写の具現度は高くても低くてもどっちでもおもしろいんです。
片桐 これで大丈夫なんですか?
岡田 おもしろいので大丈夫です。ただこの作品については微妙な、でもけっこうはっきりした線はあって、それは、この人はいま自分が語っている世界に入り込んでいる、ということ。入り込んでいるから、端から見ると「はあ?」となるようなおもしろいことをしていても全然いいんですけど、この人が、周囲の人に自分のやることを見せようとして何かするのは、入り込んでいないことになるから、よくないんですよね。
片桐 そこらへんが難しいですね。私はこの人を演じるわけなので、まんまリアルな自分の反応でやるのもちょっと違うし、バカバカしいことをいろいろやり出すのも、やりたくなっちゃうという客観的な自分がいるからなので、そこは抑えた方がいいのかなと思ったり。そういうせめぎ合いがつねにありますね。
岡田 この作品は、現実世界にフィクションが勝手に割り込んできてるっていう設定なので、たとえば、はいりさんが神話の世界に入り込んでいるところに、喫茶店の一般のお客さんが「何やってんの?」って声をかけてきて中断したりしても、全然OKなんですよ。
片桐 そうかそうか。喫茶店でやるという設定を聞いて、まず私のような古いタイプの人間としては、リアルにいそうな人に見せかけて、お店に入って注文するところから徐々に世界に入っていく、みたいなことを想像していたんですけど、岡田さんに「そういうのいらないです。『では始めます』でいいんです」と言われたことが斬新だったんですよね、私にとっては。
岡田 そうなんだ、そこが斬新だったんですね。現実として観客は、片桐はいりさんが入ってくるのを待ってるわけだから、徐々に世界に入っていく意味はないでしょ?
片桐 そういう「演劇」とか「リアルさ」についての捉え方が、私は全然違ったんだなと思って。確かに岡田さんの考え方なら、急にアクシデントが起きた場合はいったん止めて、「じゃあ続けます」と言って再開すればすむわけで、役のまま乗り切らなきゃなんて思う必要ないってことですよね。
岡田 そうですそうです。役のまま乗り切るなら、フィクションで全体を支配できる劇場のようなところでやればいいわけで、わざわざ喫茶店でやるなよって話だと思うんです。喫茶店の空間では、はいりさんのいるところだけがフィクションなので、どう転がっても、いい意味で浮いてるんですよ(笑)。むしろ浮いているのが肝で、だからこれを仮に劇場でやったとして、それが喫茶店でやる場合よりおもしろくなることはあり得ない。
片桐 そうですね。
岡田 この作品は、そこで何が起きてもうまくいくんですよ。そして、それがおもしろい。今日の稽古を見てそれがわかって、僕は深く感動しています。
取材・文:伊達なつめ
3月公演は予約抽選制に 『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』公演詳細と観覧方法
『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』
作・演出:岡田利規
出演:片桐はいり
舞台監督・映像・音響:須藤崇規
喫茶店監修:喫茶ポエム(山崎俊一)
神戸市経済観光局主催「KOBE Re:Public Art Project」の一環として上演
https://koberepublic-artproject.com/
︎日程・場所
2023年2月24日(金)17:30〜 ※公演終了
喫茶しゅみ
神戸元町で営む、創業46年の喫茶店
〒650-0023 兵庫県神戸市中央区栄町通2丁目9−7
https://onl.bz/5a9z67d
2023年2月25日(土)10:30〜 ※公演終了
元町サントス
萩原珈琲が運営する、創業60年を迎えた元町商店街の喫茶店
〒650-0022 兵庫県神戸市中央区元町通2丁目3−12
https://onl.bz/ShR2NwN
2023年2月26日(日)15:30〜 ※公演終了
アルファ本店
西元町の昭和レトロな雰囲気漂う喫茶店
〒650-0022 兵庫県神戸市中央区元町通6丁目5−12
https://onl.bz/ShR2NwN
3月4日(土)・5日(日)各日15:30〜 !要予約(抽選制)!
SO TABLE(※)
ポートタワー前のコンテナハウスが印象的な喫茶カフェ
〒650-0042 兵庫県神戸市中央区波止場町5−5
https://onl.bz/Pr43Gkg
※雨天中止
※上映時間30分予定
※2月の3公演の混雑状況を鑑み、予約抽選制に変更。
※チケット無料・全席立ち見。
■抽選申込方法
下記ページよりご希望の日程をお申し込みください。
https://t.livepocket.jp/e/0wt1o
※一回のお申し込みにつき4名まで(お申し込みはおひとり様一回まで)
※抽選となり、先着順ではございません。
■抽選申込み受付期間
2023年2月28日(火) 17:00〜2023年3月3日(金)12:00
■抽選結果発表
2023年3月3日(金) 17:00以降随時
★InstagramのKOBE Re:Public Art Projecの公式アカウントにてインスタライブ生配信実施
■配信アカウント
Instagram(KOBE Re:Public Art Projec公式アカウント)
https://www.instagram.com/kobe_re.public_art/
■配信日時
3月4日(土) 15:30-16:00
3月5日(日) 15:30-16:00
・観覧エリア最後部からスタッフがお客様越しにスマートフォンにて撮影、配信する形となり、演者が遠い・姿がよく見えない場合あり。
・電波不良等各種事由により配信が乱れる・止まる場合あり。
・アーカイブ配信なし。
■注意事項(主催より)
電子チケットをお持ちでないお客様(落選された方を含む)のご来場はご遠慮くださいますようお願いいたします。
電子チケットをお持ちでないお客様がご来場された場合、ご移動をお願いいたしますのであらかじめご了承ください。
本公演は店外からご鑑賞いただく形式の演劇となります。残念ながら会場にてご覧いただけない方には、インスタグラムでの生配信でのご鑑賞を推奨しております。公演中もSO TABLE KOBE 0330は通常営業しておりますため、観覧目的での店内利用や長時間の居座り行為はお店やほかのお客様のご迷惑となりますのでお控えくださいますようお願い申し上げます。
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