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激動の時代をジェットコースターのように駆け抜ける、異色のミュージカル『太平洋序曲』開幕

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左から)ジョン万次郎役・ウエンツ瑛士、香山弥左衛門役・海宝直人 撮影:岡千里

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梅田芸術劇場と英国メニエール・チョコレート・ファクトリー劇場との共同制作ミュージカル『太平洋序曲』が2023年3月8日(水) に日生劇場で開幕した。

舞台は江戸時代末期。アメリカより黒船が来航し、鎖国から開国へと大きく舵を切ることを迫られた激動の時代。その時代の波に翻弄される人々を「日本の視点」で描く異色のミュージカルだ。1976年にブロードウェイで初演。日本では宮本亞門演出で2000年に初演され、2011年に再演もされている。今回は2017年に一幕劇としてオフ・ブロードウェイで上演された際の脚本に基づき、新演出で上演される。

3月8日(狂言回し:山本耕史、香山弥左衛門:海宝直人、ジョン万次郎:ウエンツ瑛士)と9日(狂言回し:松下優也、香山弥左衛門:廣瀬友祐、ジョン万次郎:立石俊樹)の両日、本番を観劇した。

舞台上には、日の丸にも月にも太陽にも、そして丸窓にも見える巨大な円が浮かび、「日本的」な美術品が並ぶ。客電が落ちる前から、現代を生きる人々がその美術展らしき会場に集まり、美術品と会話を楽しむ。しばらくすると、現代の美術コレクターという設定の狂言回しが現れ、「此処は島国(The Advantages of Floating in the Middle of the Sea)」というナンバーとともに「ニッポン」へと誘う。

浦賀奉行所の下級武士だった香山弥左衛門は、外国(とつくに)の上陸を阻止するよう将軍(朝海ひかる)に命じられ、鎖国破りの罪で捕らえられたジョン万次郎とともに、交渉をする。一度は危機を切り抜けるも、将軍のもとに諸外国が列をなして開国を迫る。開国へと否応なく舵を切った日本が見たものはーー。

左から)ジョン万次郎役・立石俊樹、香山弥左衛門役・廣瀬友祐

激動の時代をまるでジェットコースターのように駆け抜ける作品。物語の軸となるのは弥左衛門と万次郎というふたりの男の“友情と決別”だと思うが、弥左衛門の妻・たまての最期、歴史的な瞬間を見たという老人や武士らの「木の上で(Someone in a Tree)」、水兵たちが少女を手籠にしようとする「プリティレディ(Pretty Lady)」など断片的に描かれる人々の姿も印象的。物語に積極的に入ったり、じっと傍観したりする狂言回しは一体何者なのか、なぜ将軍や老中を女性キャストが演じるのか……など、いろいろと考察したくなる。

作詞・作曲はスティーヴン・ソンドハイム。ソンドハイムの楽曲は難曲と形容されることが多く、初めて聞くと奇妙奇天烈に聞こえることもあるが、「身体に入ったら何とも言えない気持ち良さがある」(山本耕史談)というのも確か。アンサンブルも含めキャストは実力派揃いなので、ソンドハイムの音楽の魅力とトリックをたっぷり堪能できるだろう。

組み合わせは5000通り?! 「ぜひ推しを見つけて」

キャストについても触れておきたい。

狂言回し役の山本耕史は、長台詞を一息で捲し立てながら話し場の空気を牛耳ったかと思えば、存在感を消して舞台の端の方でにやつくだけだったりと、緩急をつけた芝居。謎は多いが、随所に遊び心を感じる狂言回しを見せた。一方、Wキャストの松下優也の狂言回しは、我々観客に近い距離感の置き方。真面目に客観的に淡々と物語を進める印象で、自らが時代を動かすというよりも、自身も結果的に時代の渦に巻き込まれてしまったようにも見えて、面白い。

狂言回し役・山本耕史

香山弥左衛門役の海宝直人と廣瀬友祐は両者とも、下級武士だった弥左衛門が時代の変化をきっかけに西洋化していく様を見事に表現していた。それぞれ一度ずつの観劇でも、妻・たまてとの関係性や万次郎への思いの発露が絶妙に違っていたように感じられ、組み合わせ次第でまた全く違う味わいを生み出してくれると感じた。

そしてジョン万次郎役のウエンツ瑛士と立石俊樹。両者とも端正な顔つきということもあってか、日本が鎖国をしている中、アメリカという異国で生きて帰ってきた万次郎が発する、ある種の「異物感」を体現していたように思う。こちらも弥左衛門役のふたりと同様、細かい部分での表現が異なっていたので、組み合わせによって見え方が変わるはずだ。

左から)女将を演じる朝海ひかる、狂言回し役・松下優也

最後に将軍と女将という二役をひとりで演じる朝海ひかる。どちらも見た目のインパクトが強く、ある意味「極端」な役どころだが、時にコミカルに、時に愛らしく、とてもチャーミングであった。

初日のカーテンコールで、山本は「まだまだ世の中は落ち着かないけれど、僕らにとって劇場は充電の場所でもあり、放電の場所でもあり、なくてはならない場所」などと挨拶。「組み合わせが8000通りぐらいあるので(笑)、また遊びに来てください」とうそぶきながらもWキャストならではの魅力をアピール。その翌日に初日を迎えた松下は「(山本)耕史さんは8000通りぐらいと言っていたけれど、実際は5000通りぐらいしかないです」とこちらも笑いを誘い、アンサンブルキャストがそれぞれ複数の役を担っていることにも触れ「ぜひ推しを見つけてもらえたら」と語っていた。

上演時間は1時間45分(休憩なし)。東京公演は3月29日(水) まで。大阪公演は4月8日(土)〜16日(日)、梅田芸術劇場メインホールにて。ぜひお見逃しなく!

取材・文:五月女菜穂 撮影:岡千里

ミュージカル『太平洋序曲』チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2222143

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