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【おとなの映画ガイド】火花散る対決! 松山ケンイチと長澤まさみ『ロストケア』

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『ロストケア』 (C)2023「ロストケア」製作委員会

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高齢者、介護、認知症、終活、そんなキーワードがつく映画が最近とても多い。その中でも、飛び抜けてショッキングな内容の作品が公開される。松山ケンイチと長澤まさみが共演、「日本ミステリー文学大賞新人賞」を受賞した葉真中顕の小説を『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲監督が映画化した『ロストケア』だ。

『ロストケア』

この作品、社会派エンタテインメントだけれど、あくまで秀逸なミステリー。できるだけネタバレにならないように、注意深く書こうと思ったが、予告編を観ると、のっけから映画のキモの部分が語られている。ならば、ギリギリまでご紹介しようと思う。

松山ケンイチが演じるこの映画の主人公、介護士の斯波はある殺人事件の容疑者として取り調べを受ける。検察官の尋問に答える中で、彼は恐ろしい自白を始めた。──「自分は、担当した老齢者の命を、人知れず奪った」。その数は42人!空前絶後の数字だ。

彼の言動に迷いはない。「見つかったら話すつもりだった」とまで言う。自分のしたことを「“喪失の介護ーロストケア”だった……そうして欲しいという人の願いに答えただけだ」と主張する。犯行は単独。あくまで冷静だが、その語る姿は、まるで信者なきカルト教祖のようである。

長澤まさみが演じる検事・大友は、斯波の「犯罪」に驚愕し、供述に戸惑いながら、独自の裏付け捜査を進める。彼のふだんの仕事ぶりや私生活はどうだったか、被害者の様子や置かれていた環境はどうだったか、犯行はいかにして行われたのか。そして何よりも、動機は何なのか? これほどまで殺人を重ねたのに、なぜバレなかったのか?

事実が少しずつ明るみに出ていくなかで、松山ケンイチと長澤まさみの「取り調べシーン」が圧巻だ。火花が散るような大迫力の対決。冒頭の掲載写真でも、さりげなくシンメトリーな場面が写し出されているが、服装も白と黒。立場も環境も考え方も180度ちがう松山と長澤の対置が際立つ。

“信頼の厚い真面目な介護士”と“連続殺人犯”という斯波(松山)の二面性と、“強さ”と“弱さ”を併せ持つ大友(長澤)の二面性も見事なコントラストになっている。

原作では、大友検事は男性。このキャラクターの変更でだいぶ全体の印象が違って見える。介護する親があるという設定も映画では父から母親に替えられて、この母の存在も大きな要素のひとつだ。演じているのは藤田弓子。

俳優でいえばもうひとり。この人が出て来ると場をさらうなあ、と痛感してしまうのが柄本明。斯波の父親役で、これもかなり重要な存在。

男親と息子、女親と娘。それぞれの言葉にならない思いがいくつかのシーン、映像で語られる。リハビリのために折り鶴を折る父、遠くをみつめながら『空に星があるように』をそっと口ずさむ母……。それに寄り添う息子、娘。映画独自の設定の妙といえる。

どんな理由や考えがあっても殺人は許されない。法の正義をかざし一歩も引かない大友だが、斯波のロジックに翻弄され、心が揺れていく……。

歳をとり病を得て「もうこんなふうに生きていたくない」と思う人はいるだろう。本人のみならず、介護に疲れはて「いっそ死んでくれたら」と思ってしまう家族も少なからずいると思う。そういう悲痛な叫びにどう世の中は対応したらよいのか。

ミステリーだが、投げかけられた謎に結末はない。

大友と共に事件を追う若い検察事務官に鈴鹿央士。いってみれば、まだ“介護の現実”に直面していない若い世代の代表。彼にはこの事件がどのように映るのだろう。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

笠井信輔さん(フリーアナウンサー)
「傑作……。ただ一言、そういわせてほしい。……今の日本、すべての人にかかわる問題なのだ。前田哲監督、会心の必見作」

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