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【ライブレポート】銀杏BOYZ、18年ぶりの地元・山形公演『山形のロック好きの集まり2023』コロナ禍での延期・中止を経てついに決行

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『山形のロック好きの集まり2023』より 撮影:村井香

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2019年、山形駅前に竣工されたやまぎん県民ホール(山形総合文化芸術館)。竣工翌年の2020年4月には、こけら落とし公演として地元・山形出身の峯田和伸率いるロックバンド・銀杏BOYZのライブが予定されていた。銀杏BOYZの歴史を振り返ってみると、地元・山形での公演は2005年のツアー以来でもあり、特に熱望されたステージになるはずだった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、同時期に政府によって緊急事態宣言が発出された。大半のイベントが延期または中止となり、銀杏BOYZの記念すべき山形でのライブも開催延期を余儀なくされた。振替公演が同年12月に予定されていたものの依然として続いたコロナ禍の影響で、この公演も開催中止に。

銀杏BOYZの山形でのライブは幻になりつつあったが、3年越しの願いがついに叶い今年3月4日、やまぎん県民ホールでのライブが決行された。

3年越しの実現となった地元・山形での公演だが、めでたいのはそれだけではない。新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが、5月より5類に移行することもあり本公演では「無歓声」といった規制がなくなり、来場者はステージを前に自由に声を出すことができ、歌を歌うことができるようになった。これもまた3年ぶりの実現である。

今回のライブは、こんなふたつが背景にあることから、ライブ前にやまぎん県民ホールに集まった多くのファンは皆一様に、今日の銀杏BOYZのライブに思い思いの熱を持っているように見えた。

アコースティックと、従来のスタイルの二部構成のステージ

真新しいやまぎん県民ホールに入り、開演時間になると客電が落とされ、ライブ用に撮り下ろされたスペシャルムービーがステージのスクリーンに流れた。峯田と女性による言葉のやり取りに、叙情的で切ない風景が何シーンも動画で繰り広げられるもの。この時点で会場は歓声と拍手に包まれたが、そのスペシャルムービーが唐突に終わると、スクリーンが上がり、暗闇のステージの中、峯田が中央まで意気揚々と歩いてきた。

一斉にファンが歓声をあげ湧き上がる中、峯田はおもむろにアコースティックギターを持ち「人間」を歌い、待ちに待ったライブが始まった。ファンは固唾を飲みながらその歌声を聞き入った。

コロナ禍でも、できる限り多くのライブを行なってきた銀杏BOYZだが、いずれも「無歓声ライブ」であり、コロナ禍以前のものとはまるで違うものだった。そんな中で峯田が考案したのがアコースティックアレンジの銀杏BOYZ。昨年3月のツアーより取り入れられたスタイルだが、今回は昨年秋の中野サンプラザでの公演同様、前半のアコースティックアレンジでの演奏を「第一部」、後半の従来通りのバンドスタイルでの演奏を「第二部」とする構成のようだ。

ただし、「アコースティック」といっても、峯田のみの弾き語りは1曲目の「人間」のみで、2曲目の「NO FUTURE NO CRY」の中盤より、いつものバンドメンバーが楽曲に参加。以降、銀杏BOYZの数々の名曲を、バンドメンバー全員によってアコースティックアレンジで次々に演奏した。

「こんな感じだったってことを思い出した」

3曲目の「YOU & I VS.THE WORLD」直後のMCで峯田は「こんな感じだったってことを思い出した」と唐突に語った。来場者からの歓声、怒号、楽曲に合わせた合唱のことだ。

コロナ禍の3年間、銀杏BOYZは複数のライブを実施したが、いずれも無歓声だったことから、峯田は複雑な思いを抱いていたという。峯田は常々、「銀杏BOYZのライブは、お客さんの歓声や怒号も含めてのもの」と語っており、それが3年経ってようやく復活し「こんな感じ」を思い出したというわけである。また、地元・山形で演奏することに対しても「他の地域で演奏するよりも、やっぱりグッとくるんですよ」と語り、相当な思いを持ってこの日を迎えたことも語った。

そんな峯田は、続けて「夢で逢えたら」「I DON’T WANNA DIE FOREVER」「トラッシュ」「円光」「SEXTEEN」と、比較的テンポの速い楽曲を演奏。さらに「漂流教室」「新訳 銀河鉄道の夜」「東京」「夜王子と月の姫」といったメロウで切ない楽曲を演奏し、アコースティックアレンジの第1部を終えた。

巨大なギターノイズが鳴り響き第二部へ

第一部と第二部の間では、再びスクリーンがおり、本公演の前日に地元・山形で撮影されたというイメージムービーが流れた。河川敷、公園などで峯田が自由に散歩する様子を撮り下ろしたもので、地元・山形のファンにとっては、山形の身近な風景の中にたたずむ峯田の姿は実に嬉しいものだったはずだろう。

このムービーが終わり、再びスクリーンが上がると、ステージから巨大なギターノイズが鳴り響いた。従来の銀杏BOYZのバンドスタイルでの第2部の始まりだった。

銀杏BOYZの数多くある楽曲の中でも、特に衝動感が強く激しい楽曲「若者たち」「駆け抜けて性春」「大人全滅」が演奏され、会場は一気に熱気に包まれた。

続いて「骨」「恋は永遠」「東京少年」「エンジェルベイビー」というポップチューンが続けて演奏され、ファンとステージとの間にさらなる一体感が生まれた。

逆説的に聴こえた「僕たちは世界を変えることができない」

鎮魂歌的意味を持つ「光」、山形のラブホテルでの刹那的な様子を描いたとも思える「GOD SAVE THE わーるど」、ノイズとポップを共存させた実験的楽曲「金輪際」といったミドルテンポの楽曲が続けて演奏された後、ライブは佳境へ。

言わずもがなの代表曲「BABY BABY」では会場全体で大合唱となり、さらに、ポップなのにヤケに切なさが際立つ「ぽあだむ」では、ファンは一様に横ノリとなった。

そして、本編の最後には「僕たちは世界を変えることができない」が演奏された。この曲はタイトルの通り、何か強い思いがあっても「その世界を変えることができない」虚しさを描いたものだ。切なくも、聴く者を救ってくれるような楽曲だが、しかし、筆者には普段のライブとはかなり違って聴こえた。

3年前に始まったコロナ禍。過去にない体験であり、連日の感染者数・死亡者数に言葉を失うばかりだった。「この状態がずっと続くのではないか」「今までに過ごしてきた世界は、もう二度と取り戻すことができないのではないか」とさえ思った。もちろん、楽しみにしていた銀杏BOYZの山形でのライブももう実現しないものだと思った。やはり「僕たちは世界を変えることができない」のだと。

しかし、銀杏BOYZは今この瞬間、やまぎん県民ホールのステージに立ち、多くのファンに寄り添うように、そしてコロナ禍での憂鬱を全て吹き飛ばすように演奏してくれた。

諦めかけても時間がかかったとしても、思いを抱き続ければ、こんなに素敵な空間を過ごすことができる。今回のライブで「僕たちは世界を変えることができない」は、峯田が逆説的にこの歌を歌ってくれている……そんな風に思いながら、本編のラストを眺めた。

地元・山形のファンに「また会いましょう!」

本編終了後、一度バックステージに戻った峯田とメンバーだが、来場者のアンコールと拍手、「峯田! 峯田!」の歓声は鳴り止むことがない。その声に呼び戻され、再びステージに現れた峯田とメンバーは、銀杏BOYZの最新楽曲のポップチューン「少年少女」を激しく演奏。

演奏終了時、峯田は真っ赤なリッケンバッカーをマイクスタンドにわざとぶつけ、乱暴にステージの地面に置いた。そして、観客に深くおじぎをして「また会いましょう!」と去っていった。

全26曲、約3時間にも及んだ濃厚すぎるライブだった。終演後には、再びスクリーンがおり、山形で過ごした峯田の幼少期の写真が映し出され、多くのファンは後ろ髪を引かれるように、そして大満足で会場を後にした。

一時は諦めかけた山形でのステージを見事実現させてくれた。今回のステージをきっかけに、少しずつ本来の活動を取り戻し、そしてまた再び、今日のようなアツくて優しいステージを数多くやってほしいと願うばかりだった。

終演後、やまぎん県民ホールの外に出ると、多くの来場者が駅へと向い歩いていた。その中の男の子が、仲間に今日のライブの感想を興奮気味に語っているのが耳に入ってきた。その子はこんなことも仲間に言っていた。「俺マジで生きてて良かった。本当に生きてて良かった」と。

Text:松田義人(deco)
Photo:村井香

<公演情報>
銀杏BOYZ『山形のロック好きの集まり2023』

2023年3月4日(土) やまぎん県民ホール

【セットリスト】
■第一部
01. 人間
02. NO FUTURE NO CRY
03. YOU & I VS.THE WORLD
04. 夢で逢えたら
05. I DON’T WANNA DIE FOREVER
06. トラッシュ
07. 円光
08. SEXTEEN
09. 漂流教室
10. 新訳 銀河鉄道の夜
11. 東京
12. 夜王子と月の姫

■第二部
13. 若者たち
14. 駆け抜けて性春
15. 大人全滅
16. 骨
17. 恋は永遠
18. 東京少年
19. エンジェルベイビー
20. 光
21. GOD SAVE THE わーるど
22. 金輪際
23. BABY BABY
24. ぽあだむ
25. 僕たちは世界を変えることができない
EN1. 少年少女

<ライブ情報>
『さよなら中野サンプラザ音楽祭』

2023年6月25日(日) 中野サンプラザ
出演:銀杏BOYZ/サンボマスター
イベント公式サイト:
https://sayonaranakanosunplaza.com/index.html

『MOROHA自主企画「怒濤」第二十一回』

2023年3月26日(日) 渋谷WWW X
出演:銀杏BOYZ/MOROHA
※予定枚数終了

<関連情報>
銀杏BOYZ公式サイト:
https://gingnangboyz.com/

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