ジョン・ケアードの美しい演出と演技巧者たちが織りなす心に染みいるミュージカル『ジェーン・エア』上演中
ステージ
ニュース
ミュージカル『ジェーン・エア』公開稽古より、上白石萌音 撮影:平野祥恵
続きを読むフォトギャラリー(21件)
すべて見る上白石萌音、屋比久知奈、井上芳雄らが出演するミュージカル『ジェーン・エア』が3月11日に東京芸術劇場プレイハウスで開幕した。演出は『レ・ミゼラブル』オリジナル演出等で知られ、昨年には『千と千尋の神隠し』の舞台化を手掛けたことも話題となった英国出身の名匠ジョン・ケアード。1847年に刊行されたシャーロット・ブロンテの名作小説を原作に、1996年にジョン自身が脚本を担当しカナダで開幕、2000年にはブロードウェイでロングランされた名作が、今回は新演出版として上演されている。初日を前にした3月10日、公開稽古と、上白石、屋比久、井上による会見が行われた。
今回の注目は、ドラマに舞台にCMにと引っ張りだこ、近年では『ナイツ・テイル―騎士物語―』『千と千尋の神隠し』『ダディ・ロング・レッグズ』とジョン・ケアード作品の常連になっている上白石と、情感豊かな抜群の歌唱力を持ち、『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役や『ミス・サイゴン』のヒロイン・キム役の好演も記憶に新しい屋比久が、主人公ジェーン・エアとその親友ヘレンを役替わりのダブルキャストで演じること。この日の公開稽古はジェーン=上白石、ヘレン=屋比久。ジェーンが家庭教師として訪れる屋敷の主人、エドワード・フェアファックス・ロチェスター役の井上芳雄もジョン・ケアード作品に多数出演しており、経験値の高いキャストが揃った形だ。
物語の舞台は1800年代ビクトリア朝のイギリス。孤児となり伯母に引き取られたものの、大人に媚びず懐かないジェーンはいじめられ、寄宿生としてローウッド学院に行くことになる。そこでも理不尽な出来事に納得できず反抗的な態度をとるジェーンは教師たちに厳しくあたられる一方で、心の清らかな少女ヘレンと親友になり「信じ、許すこと」を学ぶが、まもなく病気で彼女を失ってしまう。その後、ジェーンは家庭教師としてソーンフィールドへ。その家の主人ロチェスターは皮肉屋で気難しそうな男だったが、ジェーンは自分と共通する何かを感じる。だがこの屋敷には夜になると女性の幽霊が出て……。
舞台は奥に草木がまばらに生える階段状のセット、そして葉を落とした大きな樹。シンプルで美しいものの、どこか寂し気でもあり、ジェーンの心象風景のよう。そこに井上扮するロチェスターが「ジェーン」と呼ぶ声が響き、禁欲的な黒い服に身を包んだ上白石のジェーンが現れる――。観る者の心を一気に掴む印象的なオープニング。ジェーンの語りで回想劇のように進む物語は、原作の世界観を見事に舞台上に立ち上げると同時に、独特のノスタルジーも運んでくる。
自立する女性像を軸に、信心、人の在り方といった哲学的テーマが貫く物語だが、同時にドラマチックなラブロマンスでもある。上白石は、感情を決して表には出さない、しかしその心の中には吹き荒れる嵐のような激情があるジェーンを巧みに表現。常に伏し目がちだが、だからこそ大きな目で前を向くとき、その意志の強さにハッとさせられる。
ロチェスター役の井上は、この人にしては珍しいワイルドな役。だがさすがに演技巧者、傍若無人な振る舞いの裏に、実は愛を誰よりも求めているという繊細さも丁寧に演じている。屋比久のヘレンは清廉でまさに“善”の塊のよう。ジェーンへ人生の指針を与える心の深さ、強さをしなやかに見せ、説得力があった。
視覚的にも、照明で強い陰影が生まれる舞台は時折宗教画のようにも見え、美しい。これぞジョン・ケアード・マジックだ。さらに、俳優たちが過剰に歌い上げることはせず、流れるように音楽と芝居を融合させていくのもしみじみと心に染みいる良さがある。上白石ジェーンの『自由こそ』の力強い歌唱、ジェーンとロチェスターが歌う『セイレーン』のデュエット、ロチェスターがジェーンへ思いをぶつける『君のように』(リプリーゼ)の切々とした歌唱など、名曲たちが文学的な抒情性をもって歌われていく。
さらに大澄賢也、春風ひとみがいぶし銀の演技で作品を引き締めるとともに、春野寿美礼、仙名彩世、樹里咲穂ら実力派スターが複数役を演じつつコーラスにも参加していることで、非常に聴きごたえのある、ハイクオリティなミュージカルになっている。
「共に作った時間は生涯の宝」
会見では「緻密に、とても素敵なお稽古を積み重ねてきました。見ていても本当に素敵な作品だと感じるので、早くお客様に観ていただきたい気持ちでいっぱいです」と上白石。屋比久も「今回はオンステージシート(舞台上に設置された座席)もあるので、お客様が入って初めて作品が完成するのかなと感じています。お客さまのエネルギーをもらいながら楽しめるように頑張りたい」と意気込んだ。
井上は「『ジェーン・エア』は観ているのとやるのではまったく違う作品」と言い、「やってみると、思った以上に複雑です。楽しみながら演じたいです」と話した。
上白石と屋比久は、ジェーンを演じない日はヘレンを演じるということで、一般的なダブルキャストの芝居とは違い共演もする。屋比久も「一緒に舞台に立てるダブルキャストは珍しいと思う」と語るが、井上いわく「本当に仲が良くて、僕が知る限りミュージカル史上一番仲良しなダブルキャスト」。
上白石は「ここまで来られたのは知奈のおかげ。稽古場でもたくさん話し合ったし励ましあったし、多分に褒め合いながら(笑)、心身ともに一緒になってやって来た感覚があります。学ぶことが多かった。共に作った時間は生涯の宝だなと思っています」と話し、屋比久も「この作品は特にふたりで話し、考えることが多かった。同じ役をやることでしかわからない苦労も共有でき、大変さが軽くなりました」と振り返った。
なおお互いの素敵なところは「知奈はアスリート気質なところが素敵です。笑みを絶やさずストイックに己を磨き上げていて本当に刺激をもらっています」(上白石)、「萌音は常に地に足がついていて、まわりを穏やかに、安心させてくれる空気を持っている。それがジェーンにもヘレンにも表れている」(屋比久)とのこと。ふたりのジェーンとヘレン、ぜひそれぞれの魅力を味わってほしい。
公演は4月2日(日) まで同劇場にて。4月7日(金) から13日(木) には大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでも上演される。
取材・文・撮影:平野祥恵
ミュージカル『ジェーン・エア』「当日整理番号券」受付中!
https://w.pia.jp/p/janeeyre-tk23td/
(受付時間:ご希望公演日前日の10:00~23:59)
東京公演4月1日(土)・2日(日)ライブ配信あり
【配信日程】
4月1日(土) 17:30公演:上白石萌音(ジェーン)/屋比久知奈(ヘレン)
4月2日(日) 12:30公演:屋比久知奈(ジェーン)/上白石萌音(ヘレン)
【アーカイブ配信期間】
4月1日(土) 17:30公演:ライブ配信終了後、準備が整い次第~4月3日(月) 20:30まで
4月2日(日) 12:30公演:ライブ配信終了後、準備が整い次第~4月4日(火) 15:30まで
【チケット販売期間】
4月1日(土) 17:30公演:3月10日(金) 12:00~4月3日(月) 17:30まで
4月2日(日) 12:30公演:3月10日(金) 12:00~4月4日(火) 12:30まで
詳細はこちら:
https://janeeyre.jp/stream.html
フォトギャラリー(21件)
すべて見る