【ロングインタビュー】高橋一生×松たか子×野田秀樹スペシャル鼎談 NODA・MAP新作『兎、波を走る』に迫る!
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インタビュー
左から)高橋一生、野田秀樹、松たか子 撮影:You Ishii
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すべて見るNODA・MAPの新作公演がいよいよ始動! 高橋一生、松たか子の顔合わせだけでも鉄板だが、さらに多部未華子、秋山菜津子、大倉孝二、大鶴佐助、山崎一と、いつものごとく豪華なキャストが勢揃いだ。もちろん作・演出の野田秀樹も出演する新作公演、その中身は……!? 高橋、松、野田の御三方から少しでもヒントを得るべく粘っても、「分かっちゃったら、つまらないでしょ」(by 野田)と、今回もやはり秘密のヴェールは厚かった。笑い満載の会話からニュアンスを嗅ぎ取っていただき、想像を膨らませていただくための“ほぼ実録”インタビューをどうぞ。
潰れかかった遊園地が舞台の劇中劇「のような」お話
――現段階で私たちが知らされているのはタイトルのみ。ぜひ出来る限りの情報を語っていただけたらと思います。
野田 一昨年の『フェイクスピア』が終わった後ぐらいから、少しずつ構想を重ねていった感じですかね。役者さんにもちょっと前に少しだけ台本を渡して。台本はいつもよりは時間的に早く、今のところは出来ています。ま、タイトルから想像していただくのが一番よろしいかと思います(笑)。
――『兎、波を走る』を調べると、諺としてふたつの意味が出て来るのですが。
野田 あ、諺は関係ないです。『不思議の国のアリス』の世界です、ってことでいいんですかね? まずはね。
高橋 はい。
野田 そういうことです。そこに、潰れかかった遊園地みたいなのがありまして、そこの廃れた舞台で劇中劇が行われる……のかな、どうなのかな〜っていう感じですよね?
高橋 はい。
野田 劇中劇にはなってないけど、劇中劇のようなお話、そんな感じですかね。
――今回も作品のためのワークショップをされたとか。
野田 そうですね。結構皆が来てくれたので、とても有意義な時間でした。いろんなことを試すことが出来たっていうかな。試すと同時に、役者さんも自由にいろいろやってくれて、面白いアイデアをいただきました。
――高橋さん、松さんに台本を読んだ印象をお聞きしたいです。
野田 渡した部分を読むだけだとちょっと分からないので、少しだけ、どういう方向に向かっていくかという話はさせてもらいました。
高橋 どうでしょう。アリス…の話…なんですね…。(一同笑)寓話的な話ととらえると、すぐに出て来るのはアニメのイメージでしょうか。よくよく解体してみると、寓話って怖い、ちょっとゾクッとするところがあって、いったいどういう思考の人が書いているんだろう…ということを、野田さんからいただいた台本に照らし合わせながら読みました。
松 そうですね、私も、アリス……なんだあって。(一同笑)
野田 こういうところで話すには「アリスの話なんです」って言って、お客さんを導入していただくのがいいのかな〜と思って。ま、アリスの話じゃないですもんね!
高橋 ハハハハ!
松 ……ないけど、アリスを使うんだ…っていうのかな。
野田 ま、実はアリスだけではなくて、ある著名な劇作家たちとか、そういう世界もありますよね。
松 ワークショップで別のキャラクターが飛んでいるのも見ましたし(笑)、試みとしていろいろ、それも使える……というか用いるんだな、へえ〜!って思っている状態です。
野田 あのね、昨日ワークショップでやっていたヤツ、あれよかったと思うよ。
高橋 そうですか?
野田 うん、ト書きの部分とうまく融合できるな〜と思って。本人が走ってるのは、やっぱりいいよな。
高橋 そうですね!
野田 あ、すいません、ちょっと業務連絡でした。(一同笑)
忘れられてしまうことを作品として残す
――ここまででまったくつかめていませんが……ストーリーを追ってはいけない?
野田 ストーリーは……。
高橋 追えるんじゃないでしょうか。
野田 まあ追えるでしょうね。アリスの世界ですから。ただ、アリスの世界が、アリスの話のように進まないので……っていうようなことかな。
――高橋さんがおっしゃったように、寓話のような世界だけれど、見ていくうちに私たちが生きる現実世界とリンクするとか。
高橋 ……そうだと、思います。そういうふうに視点を少しだけシフトしながら観る方もいらっしゃるのではないかとは思います。
松 そういったアリスのようなおとぎ話の世界もあり、現実世界ももちろん出て来るんですけど、私個人にとっては現実なんだけど、知らない世界だったり…。現実にあるということを、信じろ!って言わないと分からないくらいの現実が、まだあるな、という感覚。それを突きつけられると、うわ〜それを現実と思わなきゃいけない!?って持っていかれちゃうので…。
どこまでファンタジーで、どこまで現実で…というのが、私は読んだだけではまだ分からないことがいっぱいで、すごく頭の整理がつかない感じでワークショップを終えたので(笑)、台本はいったんスタッフの方にお返ししました。もう持っているのが怖くて、「一回ちょっと出直します!」みたいな気持ちで、とりあえず返そうと。ちょっとまだ受け止め切れない…、そんなふうに感じて、楽しいワークショップを終えました(笑)。
野田 フフフ、この話がどこに行き着くかはもうふたりとも知っているけど、そこはいま言えないから言葉が濁っちゃうんだよね。
松 そう! ワークショップの終わりに全体に向けて「台本のお取り扱いに気を付けてください」みたいなことを言われて、持っているのが怖いからもういいや〜と思って(笑)。
野田 落としちゃったりしたら?
松 落とさないけど(笑)。早く完成形をいただくために一回、お返ししたんです。
野田 中途半端じゃダメだよ、ってことですね。プレッシャー(笑)。
松 いや、やっぱり今回、今まで以上に緊張感はあるのかなと。だから、本当に気をつけなきゃ!と思った時に自然とそうなりました。その言葉は、持っておくにはちょっと私には大きくて。
――おふたりの役柄や、ほかにどんな人物が登場するのか、伺ってもいいですか?
松 私はアリスじゃないです。
野田 松さんはアリスに近しい関係の役ですね。で、高橋さんは○○○ということになっています。
高橋 はい、…ということになっています。
野田 ほかにふたりの劇作家とか、いろいろと出て来ますけど。でもね、観る日に知ってほしいかな。
――今回の作品を構想したきっかけとは?
野田 まず、「これを書いてもいいものだろうか」っていうのがひとつあって。それで本や資料をいろいろ読んで、どうかな〜と。非常に口籠もってしまうんだけど。
――「これ」というのは、例えば『フェイクスピア』におけるボイスレコーダーのようなものでしょうか。
野田 そことはまたちょっと違うな。今度のものは、そういうものではないんです。年齢もあると思うのですが、自分が書いておくことで少しでも残るのであれば、後々それを読む人にとっていいんじゃないかなと思ったんですね。少なくとも、あらゆるものが忘れられてしまうよりは。だからここ半年くらいは毎日そのことを考えていて、「俺はこの世できっと、当事者の人くらい考えているな」と言えるだけの自信はありますね。しかも、朝起きた時からず〜っとそのことばかり考えているので。それを意識しているか、していないかはちょっと大きいような気がする…といったものかな。私の中でね。皆が知っていることではあるんだけど。
高橋 そうですね。
――幕が開いたら、ああ、あのことか!と皆が分かることでしょうか。
野田 それはこれからの書きようではあるけれども、分かるようには書いています。
――今のお話の「忘れられぬよう、書き残さなければ」といった使命感のようなものは、なぜ出て来たのでしょうか。
野田 やっぱり歳を取ったからかな。作品って残るんだよな、ってことをあらためて考えて。例えとしていいのか分からないけれど、(十八代目、中村)勘三郎さんのお葬式の時に坂東三津五郎さんが弔辞で「役者は辛い、本人がいなくなったら全部なくなってしまうから」ということをおっしゃっていて、そうか、でも俺は少しだけ違う立場にいるなと思ったんですね。役者は肉体がなくなったら終わってしまうけれど、自分はそれとは違うところで芝居と向き合っているのだろうなと。そんな気はしていますね。
預けた言葉をちゃんと肉化してくれる
――松さんはNODA・MAPは今回が6作目の出演で、高橋さんは『フェイクスピア』に続く2作目です。ワークショップに参加された際に、今回の作品に関して、何かこれまでの野田作品と違った新たな感触などはあったのでしょうか。
松 いや、まだ分からないです。でも一生くんを始めキャストの方たちは…、大鶴佐助くんとは初めてご一緒するんですけど、すごい人たちが集まったカンパニーで、どうしよう〜と(笑)。個人的にお芝居を観たときに「うわ、すごいな!」って一回は思わされた人たちだらけなんですよ。その中でこのお芝居に向かっていけるのは、とても幸せですね。だから、あとはいつも通りにただただ必死になるでしょうし、私はそれしか出来ないので。野田さんの言葉を埋もれさせないために頑張ろうと思います。
高橋 『フェイクスピア』では作っている過程も含めて、これまでにない充実感があったんです。野田さんは俳優でもあるから、お芝居を作る過程の楽しみ方が、演出のみされる方とは決定的に違うんじゃないかなと僕は感じていて。演者としても、演出としてもその場にいてくださる中で、まずは自由に芝居を見てくれる。僕にとっては心強かったなという感覚があったので、今回もお話をいただけてとても嬉しかったです。
――『フェイクスピア』に続く今回で、「また来たか!」みたいな衝撃がありましたか?
高橋 おお!という感じで、「また」ではないですね。違うものではあるんですけれど、現実と地続きになる世界観を感じることが多くなって来ている気がするんです。寓話的というか……、それがファンタジーなのかディストピアなのか、分かりませんが、そういうものがだんだん近づいて来てしまっている、その表裏のようなものが曖昧になって来ている感じはするんです。とくにこの3年で。それで今、野田さんが言っていた、アリスとしての世界と現実が続いてしまう瞬間が、劇構造の中に組み込まれたりするのかな、と思っています。
――なんとなく、先ほど松さんがおっしゃった「現実と思わなきゃいけない」怖さの感覚と繋がって来たような気が。やっぱり何かドカンと衝撃的なものが提示される、そんな予感がしますね。
野田 今回のワークショップで、ちょっとひとシーンやってみた後の、たかちゃん(松)の顔が「やめてよ〜」っていう顔で(笑)。
松 フフフフ。
野田 一生は、今回のワークショップで初めて見たでしょ?
高橋 初めて見ました。
野田 あれやると、大体みんな同じ顔になるのよ。…って謎だらけでスミマセンね。でもここで言ってしまって書かれてしまうと、見た人がその瞬間に、本当に感じられないだろうから。
高橋 そうですよね。だから、こういう取材は難しいです。
――はい、ここまでのお話で想像しながら本番を待ちます。野田さんに、本作にこのおふたりを誘った理由を教えていただきたいです。
野田 だって、ふたりとも素晴らしいじゃないですか。預けた言葉をちゃんと肉化してくれる、その力があるふたりです。あと共通するところがあるとすれば、役者ってどうしても自分の目線からだけ入るけれど、ふたりともに作品全体を見ることが出来る役者さんですよね。出しゃばらないで、ちゃんと世界を作る人たち。……って自分がそう、俺は出しゃばってナンボの役者だから、なんだけど(笑)。
一生は『フェイクスピア』の時に圧倒的な身体能力を見せてくれて、今回のワークショップでもやっぱりすごいなと思ったし。身体性は、たかちゃんも強い、こう見えて……って言っちゃいけない。(一同笑)松たか子が出る時はいつも、「お〜い」とか「あ〜」とか、悲鳴のような長〜い声が出るように書いてる。
松 ハハハ!
野田 去年の『Q』でも「お〜い」って台詞を、そこまで長くしなくてよかったのに、負けず嫌いだから「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ」って(笑)。
松 え、そうだったんですか!? そう言ってくだされば…(笑)。
野田 いやいや、あれは助かってるんです。舞台装置を外さないといけないから、「お〜い」が長いとありがたい。
高橋 そんな裏話が(笑)。
野田 ま、たかちゃんが持っている声の高さ、伸びというのは、自分が表現をしたい世界のものだからね。
――昨夏の高橋一生さんの一人芝居(『2020』)のパンフレットに、野田さんが高橋さんのことを「不安をいつも持っている」と談話を寄せていました。勝手ながら、高橋さんにはつねに冷静沈着、どこか飄々とされている印象を抱いていたので意外に感じたのですが。
野田 不安というのは持っていないとダメでしょう。たかちゃんだって、不安だから台本を突っ返しちゃうわけだ。
松 ハハハ!
野田 不安のない人は、信用出来ない。自信満々で表現している人で、いい表現者はいないんじゃないですか。
高橋 そうかもしれません。お客さんに見せるものは違うかもしれないけれど。
野田 そう、本番の舞台で台詞をオロオロ読んでいたりしたら、それはまた別の不安だから(笑)。モノ作りの過程で「自分がこれをどういうふうにやれるかな」といったことだね。
舞台初共演のふたり。お互いの印象は・・・?
――高橋さんと松さんは舞台では初共演ですね。お互いにどんな魅力を持った俳優と見ていらっしゃるのか、その印象と期待をお話しいただきたいです。
松 私は今回の初共演が本当に楽しみで。『フェイクスピア』を観た時に、物語自体の衝撃はもちろんありましたが、お芝居としてものすごく感動したんですね。目が覚めたと言いますか。ここにまた戻りたいな! と思わせてくれた、その舞台に彼が出ていて。初めてのNODA・MAPでああいうふうに舞台の真ん中に立つ俳優さん、素敵だなと思って、野田さんに変なメールを送ったんです(笑)。「私なんかが真ん中で長台詞とか言うのはおかしい気がする! 一生くんがいいですよ!」みたいな(笑)。なんて言いますか…、「頑張ってます!」じゃない主役でいてくれたことに感動して。もちろんすごく頑張っていたと思いますけど。本当にご一緒出来るのが楽しみでしたし、すでに若干、迷惑をかけ始めていますが(笑)、かけないようにしたいと思います。
野田 たかちゃんからああいう、作品に関するメールが来ること、まずないからね。
高橋 そういう感想って、俳優同士では送ってはいけない暗黙の了解でもあるのかなと思うくらいあまりないんです。けれど松さんはすぐに連絡をくださって。そのリアクションを受けて、僕は感動しました。あ、こんなふうに思ってくれる人が同業者でもいるんだと。以前にドラマでご一緒した時も、ちゃんと“そこにいてくれる”、素敵な女優さんだなと感じて。さっき野田さんが「出しゃばらない」とおっしゃっていたように、主張するのではなく、空間に、そこにいる人。一緒に芝居をしていてとても楽しかった記憶があるので、また野田さんの作品でご一緒出来て本当に嬉しいです。さっき褒めていただいただけに、「……あ、コイツの力じゃなかったな」って思われないようにしなきゃなと。
松 ハハハ! 不安同士が、すごくビクビクしながら挑んでいきます(笑)。
――本番当日まで、謎は謎のままに。それでも最後にひとつだけ、観終わったあと、どんな気持ちになりそうでしょうか。
野田 多部ちゃん(多部未華子)との取材の時に、やっぱり同じような質問が来て「台本を読むかぎり、重くて、ハアアア〜!」って多部ちゃんが(笑)。つまりその「ハアアア〜〜〜!」というようなことじゃないかなと思います(笑)。
取材・文:上野紀子 撮影:You Ishii
スタイリスト:伊賀大介(band) ヘアメイク:赤松絵利(ESPER)
<公演情報>
NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』
【東京公演】
2023年6月17日(土)~7月30日(日)
会場:東京芸術劇場プレイハウス
一般発売日:5月28日(日) 10:00
【大阪公演】
2023年8月3日(木)~8月13日(日)
会場:新歌舞伎座
一般発売日:7月8日(土) 10:00
【博多公演】
2023年8月17日(木)~8月27日(日) 博多座
一般発売日:7月8日(土) 10:00
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/usagi/
NODA・MAP公式ホームページ
https://www.nodamap.com/
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受付期間:6月25日(日) 23:59まで 詳細はこちらから
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