『鳳凰祭四月大歌舞伎』開幕 昼の部『新・陰陽師』では次代を担う若手が顔を揃える
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歌舞伎座新開場十周年記念「鳳凰祭四月大歌舞伎」チラシ
4月2日(日) 歌舞伎座4月公演『鳳凰祭四月大歌舞伎(ほうおうさい しがつおおかぶき)』が開幕した。ここではそのレポートをお届けする。
昼の部は、夢枕獏が描いた伝奇小説『陰陽師』を原作とした『新・陰陽師(しんおんみょうじ)』。コミックをはじめ、映画、テレビドラマとさまざまなジャンルでも取り上げられた人気小説をもとに、平成25(2013) 年に新開場した歌舞伎座で初めての新作歌舞伎として『陰陽師』を上演。それから十年の時を経て、今回は脚本や演出を一新し、次代を担う花形俳優が顔を揃えている。本作で脚本と演出も担う市川猿之助が、筋書の挨拶にて「日頃の鍛錬の成果を発揮し、存分に活躍をしてもらいたいと期待しています」と後輩たちへの想いを寄せるとともに、「あの芝居のあの場面、あの台詞……。そんな楽しみ方をしていただけたら幸いです」と語っているように、新作でありながら『菅原伝授手習鑑』の「車引」や『義経千本桜』の「吉野山」など、古典作品の趣向が散りばめられ、若手がそれぞれの持ち味でしのぎを削る白熱した舞台となっている。
物語は、平安時代中期。同郷の友人である平将門と俵藤太が、窮状する故郷・東国を救うという同じ志を持ちながら、それぞれ別の道を歩むことになるところから始まる。将門役の坂東巳之助、藤太役の中村福之助の口上により経緯が述べられると、これから始まる『新・陰陽師』の世界へ一気に誘われる。それから八年後……。右大臣藤原実頼(市川中車)らが居並ぶ中、藤太は、今では関八州を掌握する将門討伐の勅命を受ける。藤太が恋仲である桔梗の前(中村児太郎)を恩賞として所望し、東国に向かう決意をすると、現れたのは市川猿之助勤める蘆屋道満。ただならぬオーラを放つ道満の登場に、場内が大きな拍手に包まれた。
原作者の夢枕獏が、昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で猿之助が演じた文覚上人を見て「いつかぼくの『陰陽師』をまた歌舞伎でやっていただける時があれば、蘆屋道満は絶対猿之助さんだなあ、と思っていたら、それが実現してしまった」というように、道満の姿からは怪しげな雰囲気が漂い、その企みに目が離せなくなるような不思議な魅力を発散する。悪の力強さで魅せる将門(巳之助)や興世王(尾上右近)、それに対峙する藤太(中村福之助)や桔梗の前(児太郎)と個性豊かな登場人物たちが、序幕からテンポよく躍動。主人公である安倍晴明(中村隼人)が登場し、続けて晴明の友人で笛の名手である源博雅(市川染五郎)が現れると、聡明で不思議な能力を持つ晴明を勤める隼人と、親しみやすく愛されるキャラクターの博雅を勤める染五郎、歌舞伎以外でも活躍の場を広げる二人が持つ華やかさが場内を包み込み、息の合ったやり取りを披露する。中村壱太郎勤める将門の妹・滝夜叉姫は、どこか影をひそめる哀愁をみせ、その美しさにすっかり心奪われる博雅(染五郎)の様子が微笑ましく、客席を和ませた。やがて、大蛇丸(中村鷹之資)の強力な加勢を得た晴明(隼人)らは、ついに将門(巳之助)らと対決。晴明と将門が、舞台上を飛び回る立廻りの場面は迫力満載。そして、猿之助の道満による宙乗りで盛り上がりは最高潮に達し、鳴りやまない拍手が響きわたった。
玉三郎&仁左衛門18年ぶりのお富と与三郎 客席降りの演出も
夜の部は、世話物の名作『与話情浮名横櫛』で幕開け。片岡仁左衛門の与三郎、坂東玉三郎のお富という配役では、実に18年ぶりに上演されることでも話題の舞台。本公演では、上演機会の多い「木更津海岸見染の場」と「源氏店の場」の間に、「赤間別荘の場」が入ることで、与三郎とお富の出逢いと別れ、そして三年後に再会するまでのストーリーをより深く味わうことができる。人で賑わう木更津の浜辺にやって来たのは、与三郎。仁左衛門演じる与三郎が、舞台から降りて客席の中を練り歩く演出に、場内の熱気が高まる。そして、お富と互いに一目惚れする場面では、与三郎から滲み出る若旦那らしい品の良さが美しく、その与三郎が瞬時に恋に落ちるほどの色気を纏うお富、まるで時が止まったかのように見つめ合う二人の姿が、観客の視線を釘付けに。
続いての「赤間別荘」では、密会した二人の色模様をみせる“濡れ場”と、このことがお富を囲う土地の親分赤間源左衛門(片岡亀蔵)にばれてしまい、与三郎が身体中を斬り苛まれる“責め場”という対比ある展開で引き込む。顔も身体も斬りつけられた上に、海に投げ込まれる与三郎。与三郎が死んだと思ったお富も海に身を投げる。それから三年後、二人は思いもかけず再会を果たし……。「源氏店」は、湯屋から戻ったお富の艶やかさが見どころで、再会を果たしたお富に与三郎が放つ「しがねえ恋の情けが仇」から始まる台詞が有名な名場面。仁左衛門は筋書の聞き書きにて「お富への怒りも惚れ抜いているがゆえ」と与三郎の心情を表す。男女の不思議な巡り合いを描く名作で、仁左衛門と玉三郎の息の合ったやり取りが会場を魅了し、割れんばかりの拍手が起こった。
続いては、歌舞伎舞踊の大曲『連獅子』。尾上松緑と尾上左近の親子が、本興行では初めて、親獅子の精、仔獅子の精を勤める。松緑は筋書の聞き書きで、「息子は今回を第一歩として、親獅子が誰であろうとも食らいついていく気迫で臨んでほしいと思います」と、左近への想いを語っている。文殊菩薩が住むという霊地清涼山。その麓の石橋に、松緑勤める狂言師右近と、左近が勤める狂言師左近が手獅子を携えて現れ、親獅子が仔獅子を谷底へと蹴落とし、自力で這い上がってきた子だけを育てるという故事を踊る。仔獅子を思う親心、親獅子を慕う仔獅子の健気さが格式高く描かれます。続いて、僧遍念(河原崎権十郎)、僧蓮念(坂東亀蔵)によるユーモラスな間狂言を挟み、獅子の親子が花道に現れると、勇壮な毛振りを見せる。松緑の親獅子の精が放つ貫禄、左近の仔獅子の精から溢れるひたむきさと躍動的な姿に万雷の拍手が巻き起こり、会場は感動に包まれた。
<公演情報>
『鳳凰祭四月大歌舞伎』
4月2日(日)~27日(木) 歌舞伎座
※休演:10日(月)、17日(月)
昼の部:11:00~
夜の部:16:00~