ミュージカル『マチルダ』トニー賞受賞のデザインの秘密に迫る ロブ・ハウウェル緊急インタビュー
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インタビュー
ミュージカル『マチルダ』デザインを手がけたロブ・ハウウェル
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すべて見る現在東京・東急シアターオーブにて上演中のミュージカル『マチルダ』。高い知能と豊かな想像力を持った少女マチルダが、自分に全く関心を示さない両親、恐怖で子どもを支配する校長ミス・トランチブルら大人たちに仕返しを試みる物語。全世界で1100万人以上を動員し、今なお上演が重ねられている本作で、ひときわ目を引くのがポップでカラフルな舞台美術だ。劇場に入った途端に目を奪われるこのデザインのアイデアはどのようにして生まれたのか? 本作でトニー賞をはじめ各賞を受賞しているロブ・ハウウェルに話を聞いた。
おもちゃの持つエネルギーで開演前から観客全員が繋がる空間
――客席に一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、舞台を「M」型のフレーム状におおう、大量の積木のようなアルファベット・ブロックです。
ロブ・ハウウェル(以下、H) 最初は、カラフルな学校の机を使うアイデアだったんです。ところが、そのプランで進行し決定する段階になって、うまくいかないことがわかり、ゼロからやり直すことになりました。そもそも学校の机はカラフルではないので、色とりどりにすると、その瞬間に学校の机としてのアイデンティティを失ってしまう。そのことに気づいたからなんですが、長年あたためていたアイデアだっただけに、いざすべて投げ捨ててしまった後には、何もない状態。さて、どうしよう……と考えていたら、空からこのアルファベットのタイル(ブロック)が降ってきたんです。物理的に、じゃないですよ(笑)。
――天才的に閃いた、ということですね。
H 学校の机と同じく木でできているけれど、彩色してもアルファベット・タイルとしてのアイデンティティは失われない。これが大きなポイントでした。さらにいちばん大事だったのは、この空から降ってきたアルファベット・タイルは、子どもだろうと、私のような中年だろうと、おじいちゃんだろうと、手にした時に持つ意味は一緒である、という点です。
1文字ずつ印字されたいくつかのタイルを、ポーンと投げてバラバラに床に散らした後、ひとつずつ集めて、どんな単語ができるかというゲームをしますよね。その際は年齢に関係なく、みんなが同じ条件で想像力を働かせて、言葉を見つけるでしょう。同じことを、劇場でもしてもらえるのではないかと思ったんです。客席に着いた、その日初めてその場に集った観客全員が、同じ条件で舞台のアルファベット・タイルを見て、単語を見つけるゲームをすることができるのではないかと。しかもまだ音楽も流れない開演前から、そのゲームは始まっているのです。舞台空間に広がるおもちゃの持つエネルギーを感じて、そこにいるみんなが繋がっていく、というアイデアです。
子どもたちに演じてもらうことの責任
――まさに過剰なまでのエネルギーが強調されている装置で、それが作品全体のテイストにもなっていますね。
H この作品では「exaggerated(強調されている)」ということを、クリエイター全員が共有しています。ティム・ミンチンの音楽も、デニス・ケリーの脚本も、私のデザインも、みなそれぞれが揃ってボリューム・アップに努めているので、この装置を見たら、もうデニス・ケリーが書いたお話の雰囲気が伝わってくるでしょう。同じように、ティム・ミンチンの楽曲を聞いたら、どんな作品か想像がつくと思います。ティムの音楽はスタッカートが多用されていて、ピーター・ダーリングの振付もそれにあわせてタッ、タッ、タッと短くキレのいい動きになっています。私の装置もシャープさを大事にしていて、クリエイティブがみな同じトーンで揃えているのです。そして演出のマシュー・ウォーチャスとともに、みんなでいろいろなことを試しました。
たとえば、マチルダを始めとする子ども役をどうするか。もちろん、実際の子どもに演じてもらうことがいちばんですが、大きなチャレンジになるので、人形を使ってみたり、小柄な大人でワークショップを重ねたりしながら、慎重に判断してゆきました。で、やはり子どもにやってもらおうという結論に達したわけですが、2000人の観客の前にポンと子どもをさらすというのは、非常に大きな責任をともなう行為です。実際、商業演劇では、子どもたちが消耗されているのを目にする機会も少なくないので、この『マチルダ』という作品においては、そうしたことがないよう、世界中どこの公演においても、細心の注意をはらってケアするようにしています。
――体調やメンタル面について、具体的なサポートを行うということでしょうか。
H たとえば、本国ではマチルダ、ラベンダー、ブルース、エリックといった主要な役を演じる子どもたちを、劇場の楽屋口から出入りさせることを禁じています。彼ら/彼女らはふつうの子どもですから、詰めかけた人たちに写真を撮られたりサインを求められたりしても、どう接していいか戸惑ってしまいますし、観客のみなさんに「お気に入りの〇〇(子役の名前)」と個人を特定してもて囃されるようなことも、避けなければならないと考えています。子役については、事前に誰が出演するかアナウンスしないのもそのためです。私たちは「〇〇ちゃんが出る日がいい」というような会話から、子どもたちを守らなければなりません。
また、子どもたちの演技について感想を伝える際にも、たとえば「ファンタスティックだったよ」といった曖昧な言い方はしないようにしています。ふんわりした褒め言葉は避けて、「あの場面では君の強い意思が明確に表れていたよ」とか、「あの場面のダンスのステップが軽やかで素晴らしかったよ」というように、『マチルダ』においては何がどうよかったのか、クリアに説明して伝えることをポリシーにしています。子どもたちはスターではなく、舞台が終わればふつうの学校生活に戻るわけですから、私たちは慎重に配慮しながら、そんな彼ら/彼女らに向き合わなければならないと考えています。
今回が初来日。日本の観客の印象は
――RSC(ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー)といえば「信頼のブランド」のイメージがありますが、そこまで留意されるんですね。
H 『マチルダ』のチラシを見ると、一見とても華やかで楽しいものという印象を抱かれると思いますが、この「RSC」のロゴマークがひとつあるだけで、私たちに課せられる責任はグッと重くなるんですよ。このロゴマークがなければ、もしかしたら、ここまで慎重かつ真剣に子どもたちをケアする意識は培われなかったかもしれません。最初から子どもを起用すると決めつけず、人形や大人の俳優で試していったのも、その責任感の表れのひとつです。私たちがいかに真摯にこの作品に向き合ってきたかが、このマークに込められているとも言えますね。そして最初は6週間のみの上演予定だったものが、14年経った今でもこうして上演できていると思うと、とても感慨深いものがあります。
――14年を経て、今回初めて開幕した日本公演をご覧になった感想は。
H アメリカやオーストラリアなど、英国と近い文化圏の観客の反応はだいたい想像がつきますし、自分の中の尺度もあるんですが、日本に来たのは初めてなので、まったく見当が付かない状態で初日を迎えました。開演すると、客席がすごく静かなのが印象的でした。たぶん舞台に集中しているのだろうというのは感じたんですが、最後にどういう反応がくるかは、まったくわかりませんでした。そしてカーテンコールになると、とても大きな拍手。私たちは通常カーテンコールは1回しかしないので、それで終わろうとしたら、拍手がずっと鳴り止まないんです。まるで出てこないのが失礼に感じられるほど、観客のみなさんはずーっと拍手をしてくださっていました。正直、とてもびっくりしまして、翌日からカーテンコールは2回するよう改めました。
観ていてわかったのは、日本の観客のみなさんは、2回目のカーテンコールで初めて、舞台に並んだキャストたちとコミュニケーションを取るのだということ。リアクションのスピードがアメリカや英国と異なるのは、それだけ真剣に舞台に集中しているからで、そのぶん大きく深い興奮を、私たちに返してくださっているんですね。そのことにとても驚き、感銘を受けました。というわけで、他の国ではしていないことですが、日本ではカーテンコールを2回するようになりました。
――それはご褒美をもらったような気分です。どうもありがとうございました。
取材・文:伊達なつめ
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<公演情報>
Daiwa House presents
ミュージカル『マチルダ』
【東京公演】
2023年3月25日(土)~2023年5月6日(土)
会場:東急シアターオーブ
【大阪公演】
2023年5月28日(日)~2023年6月4日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
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