「僕の仕事は代弁者」HiHi Jetsのリーダー・井上瑞稀が突き詰めた境地
映画
インタビュー
井上瑞稀(HiHi Jets) 撮影:小川遼
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すべて見る可愛らしいルックスからは想像できない“意外な一面”に、驚かされる。「基本的にインドア」「小さい頃はひとりで妄想しているのが好きだった」「人や状況を俯瞰して見てしまう」ーーHiHi Jetsでリーダーを務める井上瑞稀の内面は、おそらく、迂闊に覗き込んではいけないほど深い。
中原アヤ原作のラブコメ漫画を実写化した『おとななじみ』が5月12日に公開される。主人公の青山春(通称:ハル)を演じた井上は、「自分に決まったときは、まさか!? と驚きました」と素直な心境を教えてくれた。それほど、自身とのギャップを感じたのだろうか。
自分は「ハル」ではなく、「伊織」タイプ
「少女漫画原作の『おとななじみ』は、観る人をキュンとさせる、可愛らしく華やかな映画です。これまで携わった機会のない作品だったので、驚きました。自分のことは『伊織』タイプだと思って生きてきたんですけど、実際にいただいたのは『ハル』役。周りにも『似てるよ!』って言われて、新しい発見でしたね」
幼馴染のハル(井上瑞稀)と楓(久間田琳加)、ふたりの“すれ違う恋心”を可愛らしくもコミカルに描いた作品。萩原利久が演じる伊織は、ハルと楓の友人である。クールで物静かな彼とは裏腹に、ハルは元気で明るく、ちょっとおバカで賑やかなキャラクターだ。
「自分とはタイプの違う役柄だったので、演じるにあたっては“嘘をなくす”ことを心がけました。これは、以前出演したドラマの監督に教えてもらったことでもあります。コメディにおいて、いかに嘘をなくすかは大事なこと。あとは、絶妙な間やテンポ感も。このときの経験や知識が、今回も役に立ちました」
キュンとするセリフ、ちょっと面白おかしいセリフなども「狙って言うのはハルらしくない、すべてにおいて“心から出ている言葉”であることを意識した」と語る井上。それが、ハルのピュアな部分につながっている。
「クランクインする前に、たくさんリハーサルを重ねる機会があったので、ハルを作り上げる時間をたくさんもらえました。マインド以外のところでは、ビジュアル面を少しでもハルに寄せようと、監督とも話し合いを。前の作品の影響で長めの金髪にしていたので、茶髪にしました。あとは、声のトーンや出し方に気をつけましたね。僕が初めてハルの声を再現することになると思ったので、なるべくイメージに合うように気をつけました」
ハルとの共通点は「散らかしちゃうところ」
「ハルよりも伊織タイプ」と語る井上が、ハルとの間に見出した共通点は「部屋が汚いところ」なのだとか。
「ハルと同じく、服は脱いだら脱ぎっぱなし。洗濯しても畳まずにそのままなところは、そっくりです。マインド面で言うと、ハルみたいに周りを巻き込む力は弱いかもしれない……。僕は割と現実主義者で、自分や周りのことを客観視してしまうことが多いので」
小学生の頃の通知表には「お友達の気持ちが見えすぎて、気を遣いすぎてしまう」と書かれていた。ハルのように、自分の気持ちに正直に突っ走ることはできない性格。そんな井上は、幼い頃から一人遊びが好きな子だった。
「公園とかでアクティブに遊ぶのも好きだったんですけど、部屋のなかで人形遊びをしたり、頭のなかで空想したりするほうが好きでした。あと、ビー玉とか丸めたアルミホイルとか、キラキラしたものが好きで、集めて遊んでましたね。内に入るタイプなんです」
オフの日も基本的には自宅で過ごす。旅行するのも好きだけれど、気心知れた同士じゃなければストレスになってしまうそう。HiHi Jetsのリーダーとして、華やかなライブステージもこなす井上の、新たな一面が見えるようだ。
撮影外も、ずっと“幼馴染”だった
撮影現場の雰囲気について話が及ぶと「もう、ずっとうるさかったですよ!」とにこやかな笑顔で教えてくれた。
「お喋り好きが集まった現場! って感じですね。ほんと、ずうっと喋ってて。僕が演じるハルや、久間田さん演じる楓、萩原くん演じる伊織、そして浅川さん演じる美桜の“幼馴染4人”が集まったときの、独特な空気感。みんな素で喋って盛り上がってる、この様子をそのまま出したい! って思ったくらい、良い雰囲気でした」
自身を「人見知りなんです」と称する井上、楓役の久間田琳加とは、打ち解けるまで少し時間がかかった。しかし、少しずつ会話を重ねていき、関係性を作っていった。「自分から話しかけに行くのは苦手なんですけど、がんばりました。やっぱりコミュニケーションを取らないと、相手の人となりがわからないから。価値観や感性も知りたい! と思うタイプなので」
それとは反対に、萩原利久や浅川梨奈とは、ものの5秒で仲良くなったという。
「あれ、もともと知り合いだったっけ? と思うくらい、早かったです。ふたりとも歳上のお兄さんお姉さんなんですけど、分け隔てなく接してくださって、ありがたかったなあ。ただ、幼馴染4人でワイワイしてる様子が、宣伝動画などで公開されると思うんですけど……世に出るのが怖いですね(笑)」
どんな話題で盛り上がっていたのか聞いてみると、微笑ましいエピソードが明かされた。はたまた萩原の癖をいかに引き出すかを競うゲームが始まるなど、井上いわく「しょうもない」やりとりがほとんどだったという。
「撮影とそれ以外の時間、境目がなかったですね。ずっと、僕がこの世界にお邪魔させてもらって、この世界を体験させてもらっている感覚。それくらい、みんなの役柄もぴったりだったから」
髙橋洋人監督からは「幼馴染4人の空気感を大事にしてほしい、ともに過ごしてきた20年間を表現することは、この作品において重要なこと」と言われていたという。軽快なやりとりについても「事前のすり合わせなどはしなかった」そう。まさに“素の4人”の空気感が、そのままスクリーンに表れている。
「主演で緊張してたんですが、ほかのお三方の、演技に対するストイックさを見て刺激になりました。単純に『すごいな〜!』って。同い年で活躍されているのもあり、負けたくないなって気持ちもあります」
演技と地続きにある、歌とダンス
井上にとって、映画やドラマで役を演じることと、アイドルとしてステージ上で歌やダンスを披露することは、地続きにある。「歌もダンスも、お芝居だと思ってるんです」と語る真意について聞いた。
「ある音楽プロデューサーさんが『歌とダンスはテクニックの披露じゃなく、感情の伝達であるべき 』って言ってたんです。その通りだな、と思って。実際にステージ上で歌い、踊るのは僕だけど、その曲を作った作詞家さんや作曲家さんは別にいる。自分で曲を書いたわけではないから、『何を伝えたいのか?』をしっかり感じて、お客さんに向けて表現するのが大事ですよね。そういった意味で、お芝居に近いと思っています。あくまで、僕の仕事は代弁者だから」
自分自身に対してはもちろんのこと、仕事に対しても客観的な目が備わっている。映画『おとななじみ』をどのように受け取ってほしいか話を向けても、「こう見てほしい、とは思わないです。僕の立場で、それを言っちゃいけないと思っていて」と口にする。
「『ぜひこんな風に見てください!』って僕が言っちゃったら、その見方が正解になっちゃうかもしれないじゃないですか。お客さんにとっての自由がなくなるし、エンターテイメントの面白さも薄くなる。それって、とても窮屈だなと思うんです。もしかしたら、この作品を見て悲しい気持ちになる人だっているかもしれない。縛りなく、フラットな気持ちで楽しんでもらえたら嬉しいですね」
それは、ライブステージに対しても同じ。感性は人それぞれであり、受け取り手のなかにはさまざまな感情が生まれる。映画を見たあとも、ライブを楽しんだあとも、芽生えた感情を自由に楽しんでほしい。そう淡々と語る井上の次なる目標は「医療ものに出演すること」。
「目標というか、やってみたい気持ちがあります。昔から、医療ものが好きなので。でもいまは、今回演じたハル役みたいに、周りから見て『合ってるよ!』と言われる役に挑戦したい気持ちが強いです。自分では合わないと思ってたけど、実際に演じてみると気づくことも多くて。だから、自分ではわからない特徴を見つけ出してもらって、たくさん求めてもらえるように頑張りたいです」
取材・文:北村有、撮影:小川遼、ヘアメイク:服部幸雄(メーキャップルームプラス)、スタイリング:杉長 知美、衣装協力:<ニットシャツ、グレーシャツ、デニムパンツ>
ニット¥17,600/マスターキー(ティーニーランチ ☎03-6812-9341)、パンツ¥11,880/アイバー(シアン PR ☎03-6662-5525) 他スタイリスト私物
<作品情報>
映画『おとななじみ』
5月12日(金) より全国公開
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