綾野剛が語る岡田准一愛「僕にとって追いかけたい人の実写が准一さんなんです」
映画
インタビュー
左から)綾野剛、岡田准一 撮影:友野雄
続きを読むフォトギャラリー(7件)
すべて見る映画ファンなら思わず観たいと唸るタッグが誕生した。
岡田准一、綾野剛によるクライムサスペンス『最後まで行く』が5月19日より公開となる。韓国で大ヒットした映画を『余命10年』の藤井道人監督がリメイク。壮絶ながら、どこかコミカルな超弩級のエンターテインメント映画に仕上がっている。
追われる刑事・工藤を演じる岡田准一と、追う監察官・矢崎を演じる綾野剛。撮影の舞台裏を、2人にたっぷりと語ってもらった。
この映画はある種めちゃくちゃ偏ったラブストーリー
――映画、拝見しました。悲惨なサスペンスなんですけど、追いつめられれば追いつめられるほど笑いが止まらなくなってしまって…。笑っていいのかちょっと悩みました(笑)。
綾野 ぜひ笑ってください。
岡田 これはもう笑っていいよね。
綾野 准一さんの尾田(磯村勇斗)の真似とか本当面白くて。
岡田 あそこから笑いが起きたよね。
綾野 シリアスもコミカルも味変できる作品なので、遠慮なく映画館で笑って欲しいですね。
――顔芸という言葉もありましたが、お2人ともすごい表情の連発でした。お互いのお芝居について、すごいなと思ったところを教えてください。
岡田 (山田真歩演じる)奥さんが手紙を読んでるところの綾野さんの表情とかすごい良かったよね。あの「感動した」っていう台詞も絶品だったし。
綾野 僕は金庫のシーンです。僕から距離をとるために、准一さんがトカゲのような低い体勢で移動するんですが、とにかくそのスピードがすごいんです。あれは日々の鍛錬を続けていないと絶対できない動きです。それを平然とやってのける准一さんのお尻を見たときに、
岡田 そっちから見ると、ちょうどお尻だからね(笑)。
綾野 はい(笑)。あのお尻を見たときに、工藤をここで仕留めないと必ず大変な事になるという本能的な直感を与えられた。役を通して、一瞬で恐怖を感じたんです。
岡田 柄本明さんの台詞の中に「トカゲ」というキーワードが出てくるんですよ。あの台詞が、この映画の根底に流れているものだと思っていて。だから、ここは綺麗に戦うのではなく、トカゲのように這いずり回る方がいいかなと。
綾野 カメラが捉えているものと、僕の眼球が捉えているものは、どうしても見え方が変わります。カメラからでもインパクトでしかないのに、もし眼球がカメラになって准一さんのアクションや芝居すべてを映像に残せたら、どうなってしまうんだろうと。
岡田 すごいなという意味で今でも忘れられないのは、最後の橋の上のシーン。実は、撮影期間が空いてしまい、あのシーンは約1年ぶりだったんですよ。でも、試写で観たら綾野さんがもうすごい顔をしてて、とても約1年ぶりとは思えなかった。
あの橋のシーンは、タイトルの『最後まで行く』を感じさせるシーンだから、僕としても大事にしたくて。撮影が空いて、急に「おはようございます」って現場に来て、そのままあのシーンを撮影して、「はい、オッケーです。お疲れ様でした〜」って淡々と終わって。結構すごいことをしてるのに、誰も褒めてくれなかった(笑)。
綾野 また朝が早かったんですよね。
岡田 7時くらいだったもんね。
綾野 基本、藤井組はテストがないので、確認が済み次第即本番。気持ちを早く取り戻さないとと思っていたらもう本番です。むしろ准一さんもあの状況で瞬時に家族を想い涙が溢れている芝居を試写でみて本当に驚きました。僕はこの映画はある種偏ったラブストーリーだと思っているので、矢崎としてもまた工藤に会えたという狂った喜びだけでやってました。
岡田 ひらがなの「へ」みたいな顔してた(笑)。いい顔してたよ。
藤井組は、芝居の上で大事な“場づくり”ができている
――岡田さんは藤井組初参加です。
岡田 藤井監督の作品からは日本映画はまだ死んでないという希望を感じるんですね。自分の幅を決めず、エンタメから社会派までボーダレスにいろんな作品を撮っていらっしゃって。芸術性もあるエンタメを撮れる数少ない監督だと思っていました。そんな藤井監督から、エンタメ要素が強い作品で僕の力を貸してほしいと言っていただけることは僕としても光栄でした。
――岡田さんの目からご覧になった藤井組はどんな現場でしたか。
岡田 それこそ金庫のシーンは大量のお札が必要だったんですけど、通常だと上の部分だけ刷って、見えないところは白紙ということも多いんですよ。でも、藤井組は全部刷ってくれた。おかげでどの山を崩しても平気だったので、アクションは遠慮することなくベストのものをつくれました。こちらから何かお願いをしなくても、あらゆる事態を想定して準備をしてくださるスタッフのみなさんのレベルの高さはさすが藤井組ですね。
綾野 藤井組は準備を徹底しています。矢崎の眼鏡も、通常は予備は1本が普通なんですけど、これだけハードな動きがあるわけですから、2本じゃ足りないかもしれない。そういうときに、使わないかもしれないけど3、4本自然に用意してくれる。何かがあったときのために入念な想像力と準備をしてくれるので、僕らも安心して芝居に集中できます。
岡田 要は“場づくり”ですよね。場をつくることは、芝居をする上でとても大事なこと。だけど、その場がしっかりと整えられていないまま進む現場が多くなってしまっているのが、今の実態でもあると思います。そんな中、藤井組はいい画を撮りたいという監督の強い信念のもと、その要望に応える覚悟を持ったスタッフが揃っている。単に呼ばれたから集まったという座組みにはない家族のような結束感があります。場をつくるということは、それだけ芝居をあきらめていないということなので、やっぱり僕らとしても心強いです。
綾野 信頼ですよね。たとえば、さっきお話しした橋のシーンでは、僕の運転している車は、設定上、車体の前方は壊れていて、ハンドルも全然まわらない状態なんです。そんな中、自走で走っていく。ここだけを切り取ると心配される方もいると思いますが、組全体で安全面を最重視した上で、やれる限りのことをやるという姿勢で臨んでいます。そこにはもうお互いへの信頼しかなくて。僕にとって藤井さんはそれだけ覚悟を持って作品づくりができる人です。
綾野さんは「心血注ぐ」という言葉を体現している人
――では最後に、『SP 野望篇』以来、13年ぶりとなった共演について聞かせてください。
岡田 最初にお会いしたときに「これから売れる方です」と紹介を受けて。そこから、綾野さんが本当に売れていくところを見ていましたが、面白い役者の方だなという印象はずっと変わらずありました。自分が面白いと思うものにまっすぐ向き合っているし、面白いものをつくることをあきらめていない。僕が昔から知っている俳優という像に、限りなく近い俳優だなというのを、今回一緒にやってみて改めて思いました。
綾野 撮影中、雨や埃やいろんなものにまみれながら現場に立ち続けていましたけど、現場という旅を経てホテルに戻ると、いちばん初めに生まれる感情は、なんて楽しいんだという純粋な幸福感なんですよね。役者を続けてきて良かったという想いを作品で結実させてもらったことは今までたくさんありましたが、この人の背中を追いかけ続けてきて良かったという想いが結実したのは、役者人生で初めて。ただ幸せな時間でした。
岡田 僕は綾野さんを見ていると「心血注ぐ」という言葉が浮かぶんですよ。「心血注ぐ」って言葉で言うのは簡単だけど、実行するのは難しくて。でも、綾野さんはそれを体現されている。いろんな作品を通して感じていたそんなイメージをそのまま綾野さんが目の前で具現化してくれたシーンが、この現場では何度もありました。
綾野 『SP 野望篇』で初めて共演させていただいたときから、いつかまた成長した姿で准一さんと共演することが僕の俳優としての目標のひとつでした。僕にとって追いかけたい人の実写が准一さんなんです。劇中でもずっと追いかけていましたけど、これからもさらに追いかけていきたいと思いますし、准一さんが見せ続けてくれる背中から、准一さんの持っている技術や直感、エンターテインメントに対する意識を学ばせていただきます。
撮影:友野雄、取材・文:横川良明、ヘアメイク:(岡田さん)惣門亜希子(綾野さん)石邑麻由、スタイリング:(岡田さん)カワサキタカフミ(綾野さん)申谷弘美
<作品情報>
『最後まで行く』
5月19日(金) 全国東宝系にて公開
フォトギャラリー(7件)
すべて見る