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【おとなの映画ガイド】スタイリッシュでちょいと妖しげ ── 高橋一生主演の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』

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『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 (C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

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荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』からスピンオフした“岸辺露伴”シリーズが、NHKのドラマ化に続き、劇場用映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』となって5月26日に公開される。向き合った相手の心の中や記憶を「本」にして読むという特殊能力を持つ漫画家・岸辺露伴が怪奇的な事件に挑むミステリーだ。

主な舞台は、パリのルーヴル美術館。事情を知らないと、ああ、劇場用映画にするので、予算をかけ、海外でロケしたんだろうと思うかもしれないが、そうではない。

ほかならぬルーヴル、なのだ。世界の美の殿堂、ルーヴルでロケをすることに意味がある。必然性がある。累計発行部数1億2千万部、世界にファンをもつ超ベストセラーからのスピンオフシリーズ。実は、ルーヴルとは深いつながりがあり、コミック好きなら、ついに、あれが映画になるか、と思われるにちがいない、まさにファン待望の作品なのである。

主演の露伴役、高橋一生は、「ドラマ『岸辺露伴は動かない』の第1期の撮影の頃から、渡辺一貴監督とあくまで夢の話として、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』をいつかパリで実際に撮影できたらと話していた」とコメントしている。スタッフ、キャストにとっても思い入れの強い、作品だ。

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』

ルーヴルと岸辺露伴がどうつながっているか。

所蔵品55万点を誇り、コミックもアートとして扱うルーヴル美術館が2005年から始めた「バンド・デシネ プロジェクト」。バンド・デシネはフランス語圏でコミックのこと。美術館が漫画家に特別に制作を依頼し、ルーヴルでの展示と、フランスで漫画を刊行する企画。テーマはルーヴル美術館そのものだ。このプロジェクトに、日本の漫画家として初めて参加したのが荒木飛呂彦。そして作られた作品が『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、この映画の原作だ。

作品は、2009年1月から3カ月間、テーマ企画展「小さなデッサン展ー漫画の世界でルーヴルをー」でカラー原画が展示され、さらに、バンド・デシネとして2010年4月にフランスで刊行、大きな反響をよんだ。そんなこともあって、荒木飛呂彦のパリでの知名度は高い。

露伴には、荒木のイメージがかぶっていて、パリでも有名、という設定。今回の映画のなかでも、ルーヴル美術館で、パンクっぽいカッコをしたコミック好きのフランスの若者たちに、サインをねだられるシーンがある。岸辺露伴はそういう存在なのである。

映画のストーリーはこんな感じ。

新作構想中の露伴。あるオークションに出品された絵に関心を抱き、競りに参加。それほど高名な画家の作品ではないのに競争相手がいて、高値で競り落とした露伴だったが、帰宅後、ある一味に自宅を襲われる。彼らが狙っていたのは買った絵だった。真っ黒に描かれたその絵は、露伴がまだデビューしたての20数年前、淡い恋心を抱いた女性からきいた「この世でもっとも黒く、最も邪悪な絵」のことを思い出させた、そして、その絵の裏には、その絵とルーヴル美術館を巡る、謎の言葉が。

運命的な予感がし、黒い絵の謎を取材するために、ルーヴルを訪れる露伴。日本の高名な漫画家の来訪に美術館は好意的だ。担当編集者・泉京香はちゃっかりパリ行きに同行。漫画の読者のために、サイトにフォトダイアリーをアップする。その連載は「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」と名付けられた。取材を進める露伴だったが、彼の周囲には奇妙な事件が起き……。

ドラマの『岸辺露伴は動かない』は2020年12月に1〜3話、21年12月に4〜6話、22年12月に第7話と第8話が放送されている。いずれも50分前後の短編で、1話完結のドラマだ。

映画は初の長編。露伴役の高橋一生と、“無意識過剰”というか愛すべき天然キャラ、京香役の飯豊まりえはもちろんドラマから変わらず。スタッフも続投している。監督は、大河ドラマ『おんな城主 直虎』などで高橋と組んだ渡辺一貴。脚本はアニメの『ジョジョの奇妙な冒険』を手がけたこともある小林靖子が担当している。

謎の”黒い絵”の存在を露伴に教えた女性、奈々瀬には木村文乃。若き日の露伴を「なにわ男子」の長尾謙杜が演じている。他に、露伴の祖母役に白石加代子。ルーヴル美術館のパートで登場する安藤政信、日本人スタッフ役のエマ・野口。以上は映画から加わったキャストだ。

ルーヴル・ロケは、2014年の『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』以来、日本映画としては2本目となる。昨年の晩秋に撮影。“勝利の女神“をモチーフとした彫刻「サモトラケのニケ」、館内の豪華な廊下、中庭にある”ルーヴル・ピラミッド”、そして「モナリザ」! 久しぶりに、外国観光気分が味わえる映像満載といえる。

撮影場所でいえば、会津若松に実在する「向瀧」という老舗旅館も使われている。露伴の祖母が旅館を利用してはじめた下宿の設定。ここに謎の女性、奈々瀬が住み、畳敷きの部屋で漫画の習作を続ける若き日の露伴と出会う。和服姿の祖母役・白石加代子がかもしだす雰囲気もあって、例えば本郷あたりにありそうな、江戸川乱歩のような”妖しい”世界が展開する。

若き日の露伴を演じる長尾謙杜は、自信家然とした露伴でなく「まだ完成される前の露伴」を、瑞々しく演じている。

ドラマから引き続いて担当している菊地成孔と新音楽制作工房による音楽は、ミステリアスだったり、ロマンティックな映画音楽だったり変幻自在。こちらも”妖しい”世界をもりあげてくれる。

黒い絵の謎、というテーマにふさわしく、全般的にダークな色合い。スタイリッシュで、ちょいと”妖しげ”な、おとな向きのミステリーです。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

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中川右介さん(作家、編集者)
「……娯楽映画だが、芸術に向き合うことでの絶望と、芸術家としていきることの不幸を描き、心地よい疲労感がある……」

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