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福島第一原発の最前線、中央制御室を“体験した”俳優・竹野内豊の覚悟。「この作品での自分の役割は“演じる”ことではなかった」

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竹野内豊 撮影:源賀津己

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Netflixオリジナルドラマシリーズ『THE DAYS』が6月1日(木) から全世界で配信になる。本作が描くのは、2011年3月11日から始まる福島第一原発事故の真実。竹野内豊はあの日、中央制御室にいた当直長を演じたが、「精神的に“役者”という気持ちでこの作品に挑むのは失礼だと思った」と言い切る。

2011年3月11日、三陸沖を震源とする巨大な地震が日本を襲い、津波の直撃を受けた福島第一原子力発電所は甚大な被害を受ける。全電源を喪失し、全6基のうち4基もの原子炉が制御不能になる中、現場の作業員は決死の対応に挑み、発電所の外では電力会社、政府、そして国際社会を巻き込んだ事件になっていく。対応を間違えれば、日本は壊滅してしまうかもしれない。その時、あの場所で対応にあたった者たちは何を想い、どう行動したのか? 本作は資料や証言を丁寧に集め、再構成し、緊迫するドラマに仕上げた。

本作では、実際には複数いた人物を統合してひとりの人物にするなどの脚色はあるが、そこで起こった出来事、その顛末を徹底的に描き出していく。竹野内はキャリアの中で幅広いジャンルの作品に出演し、そこで見せる顔もシリアスなものから、コミカルなものまで様々だが、本作の出演については「正直に言うと戸惑いはありました」と振り返る。

「この作品が扱っている題材は、世界的な大惨事で、被害に遭われた方々の気持ちを思うと、安易な気持ちで受けることはできないですし、何よりも大きな責任が伴う作品だと感じました。しかし、本作がNetflixを通じて全世界に配信されると知り、日本だけでなく世界の多くの方々にこの物語を知っていただける、何よりもこの物語を多くの方々に知ってもらいたいと思いました。ですから、ある想いを持ってお引き受けしました」

竹野内がこう語るのは、東日本大震災の発生時に自身が感じたことを今も忘れていないからだ。

「震災の時は毎日、ニュースを見ていましたから、そこで見た映像から感じることも多かったですし、“自分に何かできることはないのか?”と思っては自分自身の無力さに打ちひしがれると言いますか……当時は自分だけではなく日本中の方が同じような想いで過ごされていたんじゃないかと思うんです。ですから、安易な気持ちで引き受けてはいけない、と思いながらも、このような作品に参加できることの意義をしっかりと感じてお引き受けしました」

竹野内にとって本作は数多くある出演オファーのひとつではない。最大の目的は“役を演じる”ことではなく、“この物語を伝えるメンバーの一員になること”だからだ。

「そうなんです。この作品の骨格の一部になれたら本当に光栄だという気持ちで挑ませていただきました。ですから、自分以外の出演者の方の演技を観ても本当に考えさせられますし、みなさんの演技ひとつ見ても、そこから感じるものがあります」

目の前で起こる状況や瞬間
ほんの一瞬にわきあがる真実を逃さぬように

その想いは実際にセットに入り、撮影を重ねていく中でより強くなっていったようだ。もちろん、竹野内は事前の準備やリサーチをしっかりと行っている。彼が演じた当直長は、中央制御室にいる作業員を束ねる管理職のような立場でありながら、自身も技術者で、極限状態にあっても自分の身をかけて事態を解決しようとする強い意志を持つ人物だ。

『THE DAYS』で1・2号機の当直長を演じる竹野内豊

「当直長のモデルになった方に実際にお会いすることはできなかったのですが、当時、中央制御室にいらっしゃって対応にあたられた遠藤さんが監修として撮影現場にはいらっしゃったので、実際に福島原発でどのような状況下で作業にあたっていたのか、分からないことがあればすぐに質問をして、遠藤さんの話してくださる言葉の中から心理描写の手がかりになるものはないか、ずっと模索していたような気がします」

しかし、当直長たちが置かれた状況、その緊張感、混乱は、人間の想像の及ぶ範囲を遥かに超えている。電気が落ちた暗闇の中で、正確な数値も状況も分からぬまま、彼らは“判断をひとつ誤れば爆発”という状況で選択を迫られるのだ。中でも当直長は、電力会社や所長からの要望を受けて、作業員を束ねなければならない。劇中、原子炉内の圧力が上がる中、彼らは手動で圧力を減じるべく作業員を格納容器ベント(排出口)に送り出す。その決断をする人間がどんな精神状態なのか、どのような決意でベントに向かうのか……誰が正確に想像できるだろうか?

『THE DAYS』で1・2号機の当直長を演じる竹野内豊

「事実に基づく作品ですから、撮影現場は独特の緊張感がありましたし、私だけでなく共演者のみなさんも個々に責任感を感じていたと思います。それぞれが演技について話し合うような時間はなかったのですが、ひとりひとりが役者以上に“人として”この作品に挑む覚悟ですとか想いがあって、それが撮影現場の独特の空気感、良い意味での緊張感につながっていた気がします。

この作品で描かれることは、誰もが経験することではないですし、自分の過去の引き出しから使えるものは何もない。ですから、あの制御室にいた役者さんたちの誰もが“自分の演技”というものではない部分で挑まれていた気がしますし、誰もが本番中に真実の瞬間を逃さないように取り組まれていたのではないかと思います。

撮影現場は中央制御室の細部に至るまで、ものすごく忠実にリアルに再現されていたので、そういう状況の中に自然とスッと入り込むことができましたし、だからこそなおさら“演じる”とかそういうことではなく、もっと別のものでアプローチしていけたら、という理想はありました」

竹野内が語るとおり、極限状態に追い込まれた人間の心の内を完全に想像することも、完全に演じることもできない。しかし、極限状態を可能な限り忠実に体験し、その反応を嘘をつくことなくカメラの前で見せることはできる。

『THE DAYS』が描き出す緊迫感や迫力、説得力は、俳優たちの“すべてを包み隠さずカメラの前にさらす覚悟”と“すべての瞬間を逃さずにとらえようとする強い意志”から生まれたのではないだろうか。

「(自身が演じた)当直長としては、ベントに作業員を向かわせるわけですけど、それは二度と戻ってこられないかもしれないと分かった上で指示を出すわけです。もちろん、頭では“今すぐにベントに向かわせないと、日本中に被害が広がってしまう”と分かっているのですが、それでも決断を下すことは心情的にとても苦しい。撮影していく中では、とても厳しい瞬間は何度もありましたが、この作品に参加できたことはとても意義のあることだったと思っています」

本作は単なる事故の再現や物語化ではない、あの時、あの場所にいた人たちが見た、体験した“真実”が本作には映りこんでいる。それは時に観ているだけで苦しいものかもしれない。しかし、彼らの決断や行動の上に、現在の我々の日常は成り立っているのではないだろうか。

「当時、あの場所にあの方々がいたからこそ、今私たちはこうして東京で生活することができるわけです。そのことを考えると、精神的に“役者”という気持ちでこの作品に挑むのは失礼だと思ったんです。だから、この作品での自分の役割は“演じる”ことではないと思いましたし、私だけでなく出演者の方々それぞれがきっと自分と同じような想いで作品に挑まれていたのではないかと思います。だから……うまく言葉にできないのですが、目の前で起こる状況ですとか瞬間、ほんの一瞬にわきあがる真実を逃さぬようにする。それしかできないと思って挑みました」

撮影:源賀津己
ヘアメイク:須田理恵
スタイリスト:下田梨来

<作品情報>
『THE DAYS』

6月1日(木) よりNetflixにて世界独占配信

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