Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 【おとなの映画ガイド】ラッパーがオペラ座の舞台に! ──『テノール! 人生はハーモニー』

【おとなの映画ガイド】ラッパーがオペラ座の舞台に! ──『テノール! 人生はハーモニー』

映画

ニュース

ぴあ

『テノール! 人生はハーモニー』 (C)2021 FIRSTEP - DARKA MOVIES - STUDIOCANAL - C8 FILMS

続きを読む

最近、あんまり感動してないなあ、というおとなにおススメしたい1本。6月9日(金) 公開の『テノール! 人生はハーモニー』というフランス映画です。原題は『TENOR』、もちろんクラシックの、あの“テノール”。邦題に「!」をつけたのは日本の配給会社だけれど、「テノール」だけじゃ、この映画の、ド感動というか、弾む気持ちが表せない、と思ったのかも。

『テノール! 人生はハーモニー』

簡単にいうと、チンピラ・ラッパーのあんちゃんが、なんとパリ・オペラ座の舞台でオペラ歌手になる! というサクセス・ストーリー。実にわかり易い大枠なのだが、中身が豪華、しかも味わう達成感は格別だ。

つかみ、というか、導入はこんな風。

パリ・オペラ座にあるオペラスクール。そこからスシの出前の注文があり、スシ屋でバイトをしているアントワーヌがデリバリーにやってくる。ちょっとだけレッスンの様子をみていると、鼻持ちならない、高慢そうな生徒のひとりが「スシ野郎、あっちへ行け」と声をかける。うっせぇな、オペラなんてこんなもんだろ、とからかい気分で、オペラの真似をしてみせる。これが、驚くほどの超美声。生徒たちはあっけにとられる。いちばん驚いたのは、スクールの教師マリー。とんでもないところから、とんでもない逸材発見! この出会いが、すべての始まりだった……。

アントワーヌは大学で会計を学ぶ苦学生。賭けボクサーのような闇の仕事をする兄と風紀のよくない地区で暮らしている。クラブで行われるラップバトルで勝つのが生きがいだ。

ラップのシーンももちろんあるが、なんといっても、デリバリーの時にみせたオペラの真似事は、観ているこちらも「ヤバい」と思えるすごさ。アントワーヌを演じているMB14が、この映画最大の魅力でもある。

MB14、というのは芸名。本職は、声だけでドラムや楽器の音を表現するビートボクサーだ。フランスで人気のオーディション番組『The Voice』に参加し、準優勝に輝いた。最近では『Britain's Got Talent 2023』で大絶賛をあびている。その映像がこちら。

『The Voice』を観ていたのが、本作を準備中だったクロード・ジディ・ジュニア監督とプロデューサー。「うわあ、これはヤバい!とメールしあった。 MB14の才能とカリスマ性は一目瞭然。我々が求めるすべての必須条件を満たしていた」とジディ監督はいう。

アントワーヌを発見し、育てようとするオペラ教師マリーは、元世界的なオペラ歌手。教師になってからは何人もの名歌手を世に送りだしてきた。実は彼女、自分の人生でも、ある転機を迎えているという設定。

演じているのは、ミシェル・ラロック。パトリス・ルコント監督の『髪結いの亭主』でデビュー、仏セザール賞助演女優賞にノミネートされた実力派の女優。

そんなふたりのレッスンシーンで使われるのは、本物のオペラ座(オペラ・ガルニエ)、豪華絢爛のグラン・ホワイエ! 公開中の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ではルーヴル美術館が撮影に使われているが、本当に、パリは映画の舞台として最高の場所ばかりだ。

撮影許可を得るまで数年かかったそうだが、ジディ監督は「オペラ・ガルニエの素晴らしいところは、どこにカメラを向けてもすべてが美しいことだ。美しさを見せすぎると観客の注意をそらしてしまう。映画の躍動感を奪わずこのユニークな場所を紹介するうえで、見せ方のバランスが肝心だった」という。

大舞台、その舞台からみた客席、パリの夜景を一望できる屋上からのショットなど、ため息がでるほどの美しさだ。

さらに映画を彩るのは「ある晴れた日に」(プッチーニ『蝶々夫人』)、「女心の歌」(ヴェルディ『リゴレット』、『乾杯の歌』(ヴェルディ『椿姫』)、そして「誰も寝てはならぬ」(プッチーニ『トゥーランドット』)など多数の名曲たち。メロディを聴けば、聴いたことがあるものばかり。世界的なテノール、ロベルト・アラーニャが本人役で出演しているし、クラシック好きがみても納得の内容と思う。クラシックに明るいわけではない私のようなレベルでも、「オペラいいなあ」と惚れ惚れした。

どこか屈託があったアントワーヌが、オペラと出会い、マリーと出会う。いいことばかりじゃなく、いろいろ難関を超えていき、鼻持ちならぬ上流階級の人間を最後はギャフンと言わせる、そういうよくあるタイプのストーリー展開だけれど、マリーをはじめ、彼をサポートしようとする人たちがいて、それが少しずつ広がって、鼻持ちならぬ人さえちょっと変わっていく姿が、名曲や歌声ともに表現されていくのは圧巻。世の中捨てたものじゃないと思えマス。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

立川直樹さん(プロデューサー、ディレクター)
「……グラン・ホワイエ(大広間)は必見の美しさだが、映画全編にプッチーニやヴェルディの名曲の数々がいい感じではまっている……」

立川直樹さんの水先案内をもっと見る

伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)
「……オペラ座の煌びやかな世界に身を委ねつつ、現代のパリの裏側とそこで生きる若者というギャップがまた象徴的。二種類のエンタテインメントを融合させたサクセスストーリーは、爽快感も見心地も抜群だ」

伊藤さとりさんの水先案内をもっと見る

(C)2021 FIRSTEP - DARKA MOVIES - STUDIOCANAL - C8 FILMS