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さくらしめじ 圧巻のツアーFINALをレポート「最後の人生の1分1秒までここにいたい」

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さくらしめじ (撮影:鈴木友莉)

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2023年6月14日、EX THEATER ROPPONGIにてさくらしめじ「桜TOUR 2023 FINAL」が行われた。
3月5日から始まり、早春、晩春と続いてきたこのツアー。結成9周年の記念日、ツアーの締めくくりとなった公演の模様をレポートする。

9周年の集大成をステージにぶつける

青と緑のペンライトがきらめき、バンドの演奏が響き渡る中、ジャケット姿のさくらしめじのふたりが登場。
オープニングを飾った楽曲は『My Sunshine』。力強いギターの音色、歌声、そこに会場の手拍子が重なる。ステージに設置されたスクリーンは、ふたりの表情を捉えている。
田中雅功が「さくらしめじです! ファイナルよろしく!」と声をかけ、そのまま『青春の唄』、『ケセラセラララ』へ。時折、目をあわせ、微笑みを交わすふたりの姿に自然と見ている側の口角も上がる。ステージ上に幸せな空間が広がっている。

3曲を終えて、田中が改めてあいさつをすると、長く大きな握手が会場に響き、その様子に田中も高田彪我も嬉しそうにわずかに目を細める。

早春から始まったツアー。「早春」では弾き語り、「晩春」ではアコースティックとスタイルを変えて届けてきた。FAINALとなる本公演ではバンドスタイルとなる。
田中は「いろいろ話したいこともあるんですけど、いっぱい曲を聴いてもらいたいと思いまして」と微笑むと「歌いますか」と言い、『simple』を。バックのスクリーンには淡い風景が映し出される。音が弾み、きのこりあん(さくらしめじファンの総称)のテンションも上がっていくのがわかる。『靴底メモリー』、『届けそこねたラブソング』とポップな楽曲を続けて披露していき、楽しげに手拍子をする客席を見て、田中が嬉しそうに笑みを浮かべる。自然体でありながら、気合いが伝わってくるパフォーマンス。そして、バンドの音が加わることによって、ふたりのパワーが加速していくのが感じられる。

この日、田中が多く口にしていたのは「ありがとう」の言葉。「中1の頃からやってて、たくさん曲が増えて。今、なんかね。夢の中にいる気分なんですよ。っていうのも9年、やれてるのがすごいことだなと思うし、ありがたいな、と心から思います。その増えた曲を1曲1曲、みんなと歌えるのが最高に幸せです。ありがとうございます」

そんな田中の隣では、高田に音が出なくなるというトラブルが。田中が場を繋ごうとした途端に、音が復活し、安堵の表情を浮かべる場面も。
そして改めて、「この人数で声を出せるのが新鮮で」と田中が言うと高田も大きく頷く。「元気―!?」と聞くと会場からは「元気!」の答えが。
しかし、「元気?って聞いたのはいいけど、次はそんな明るい曲じゃない……」と苦笑いの田中。「でも嬉しいと思う、次の曲は」と前置きしつつ「高校1年生のときに、僕がベッドの上で作った曲を歌いたいと思います」と始まったのは『天つ風』。スクリーンには田中が楽曲を制作していたと当時のシチュエーションを感じさせるような夜空が見える窓が映し出される。どこかエモーショナルな気持ちが高まっていく中、『合言葉』、『花びら、始まりを告げて』と続き、さらにその感情を掻き立てていく。

中学2年生のころから曲を作り始めたが、「作りたての曲ってそんないい曲がすぐに出来るわけではなく、勉強の毎日だったんですけど、しょうもない曲を作っても全部聴いてくれる人ですごくありがたかったな、と思う」と当時を振り返る田中。

「昨日の夜も寝れなくて。遠足前の小学生みたいな感じで。昨日の夜も眠れないから曲を作ってたの。寝れない高揚感で作ってるから今朝、もう一回聴いてみたら、駄作中の駄作で。速攻消したよね」と笑う。それに高田が「聴かせて、っていったんだけどね」と返す。ポツポツと言葉を交わすふたりの声が雨だれのようで、それだけでも癒される。
中学生のころから歌詞を書いていたというふたりだが、続いては高田が手掛けた楽曲を。中学3年生のときに書いた曲で、田中は「めっちゃ好きなのよ。すごくよくて」というと「ありがたい」と高田。

そして田中が「宇宙人なんですけど、彼は。宇宙から見た地球の風景の美しさみたいな。降り立った地球ってこんなに美しいんだ、って思ったんだよね、彪我はね」とニコニコ言うと、「思いましたねぇ~」と高田も乗っかる。
「視点がきれいで、綺麗な歌詞で、当時の僕は地球人には書けないかしら、と」とちゃめっけたっぷりに言う。でも、そんな言葉の端々から互いへのリスペクトが感じられる。
そして高田の歌い出しから始まる『夕空小道』を。夕焼けに包まれたようなステージの中で、高田の甘い声が響き、時折田中の声が重なる構成はシンプルだが、夏の終わりの物悲しさを感じさせる。まだ夏が始まっていないのに、寂しい気持ちになる。同時に2人の歌声の表現力に感服せざるを得ない。

さて、「ワンマンツアーとしては今回が、最多公演数」だそう。ただ、中学生のときに47都道府県は回っている。
「今回るのと、中学生のときに回るのと景色が全然違って見える。当時のことってそんなに覚えてなくて。記憶がぐちゃぐちゃになっているというか。それが今回行って全部蘇る感じというか。ここに来たとか」と田中が言えば、高田も「当時と同じホテルに泊まったりね」と頷く。

田中は「伏線回収じゃないけど、されいく感じがすごく嬉しかったというか。風情を感じる瞬間が多かった」とツアーを振り返った。
昔との違いを比較もできて楽しかったというツアー。
そして、早春で弾き語りをやっていたので、今回はFINALということで「せっかくだから弾き語りでも」と『かぜだより』、『かぜいろのめろでぃー』を。ギターだからこそ感じる、2人の歌のパワー。迫力を増したギターの音色に自然と会場からは手拍子が響き、ペンライトが揺れる。

本当にできるのかなって思ってたけど、できたね

アコースティックで楽曲を披露したあと、田中はジャケットをぬぎ、腕まくりをしながら「あっついな」というと高田が「あっついね」と答える。
雨男だというさくらしめじだが、この日は雨は降らず。公演前にも雨が降っていなかったと聞くと、表情をほころばせる。

「でも帰りどしゃぶりかも。だったらごめん」という田中に、「帰りがたとえ雨降ったとしても、洋服濡れるじゃん。家に帰ってまだたぶん濡れてるじゃん。濡れてるのを見て僕たちのことを思い出してくださいよ」としっとりと返す。そして改めて「週の半ばに、足元の悪い中、ほんと来てくれてありがとう!」と「今日すげー嬉しいわ。こんなに人が集まってくれて」。「早春」ではカフェやバーでやっていたこともあり、「ほんとにできるのかな、って思ってたんですけど。できたね、ほんとに。ありがたいよ」としみじみと噛み締めるように言う田中。その声、口調から喜びが伝わってくるようだ。隣にいる高田も微笑む。

田中が「……うたいます」と静かに言い、『ストーリーズ』へ。歌詞と連動するような映像、客席のピンク色のペンライトが世界観を膨らませていく。
キーボードの音色から始まる『ひだりむね』。体を弾ませ、クラップを響かせる会場に“ドキドキ”が高まっていく。さらにここからコール&レスポンスで一体感を高める。そのまま『1・2・3』へ。体を動かし、全員で声を合わせて歌う場面も。会場全体の温度が上がっていくのを感じられ、2人の表情も綻ぶ。

バンドメンバーを経て、激しいサウンドで空気を震わせ、ここからは『わがままでいたい』できのこりあんをロックに痺れさせていく。田中はギターをかき鳴らしながら、ステージの端から端へ。ガラッと2人をまとう空気が変わり、ドキリとさせられる。
さらに『でぃすとーしょん』で激しさが加速。目まぐるしく変わる照明、たちこめるスモーク。前半とは異なる空気に驚くばかりだ。田中が会場をあおると、ファンもペンライトを手放し、拳を振り上げる。

そして、ライブもラストスパート。スピード感のある『同じ雲の下』では青色の照明が満ちる中、ファンも手を振り上げる。パワーを増したふたりの歌声が会場の端から端まで響き渡る。
5月8日に配信された新曲『なるため』で会場の盛り上がりは最高潮に。大きく響くクラップ、さくらしめじの叫ぶようなメッセージが会場を熱くする。

一生の思い出になりました。ここからまた再発進していきます

最後のMCで「本当に今日を迎えられてよかったという気持ちです」と田中。そして、「9年やってずっとコンプレックスだったことがあって」と自身の思いを語った。小学生のときに事務所に入り、中学生のときに出会って、2人で初めて立ったステージは思いのほか大きいものだった、と振り返り、「ほんとに恵まれすぎている環境の中にいて。でも恵まれていることにも気づかず、こんなもんなのかな、と」。
そんな田中が憧れていたのは「音楽に小学5年のときに出会い、かっこいい音楽家になりたいとずっと思ってて。平たく言うと、下積みみたいなのが確実にあって」。でも一気に飛び越えた状況にいた彼ら。

「やっていくうちに憧れてたものと違うのかな、なんて思ったりもして。思っていたものと全然違う自分でいることがコンプレックスで。最近ようやくそれでもよかったと心から思えてて。下積みって言いましたけど、そんな他人が決めることなんじゃなくて、見方一つで景色が全然違って。なりたい自分になれてないなんて贅沢なことを言って。それすらもカッコ悪くて嫌だな、と最近思って。別に今が下積みでもいいじゃないかと思って、桜ツアーを組みました」とひとつひとつ言葉を選ぶように話していく田中。

「思い返してみたらほとんど悔しいことみたいな9年だけど、こうやってステージに立てているのは本当に会場に来ている人、生中継を見ている人、ひとりひとりのおかげだと心から思っていて。本当に皆さんに生かされてると思う日々を今送っています。板の上から降りたらどうしようもない、毎日部屋片付けろって怒られるような人間だけど(笑)、それでも曲が出るたびに『元気出ました』っていうのを見ると本当にやっててよかったな、って思うし、このためだけに生きてるといっても過言ではないぐらい。本気で僕はステージの上で生きてここで死にたいと思っていて。最後の人生の1分1秒までここにいたいと思っていて。皆さんのおかげでコンプレックスを振り払えたし、生きててよかったと本気で思っています」と静かに、でも熱い思いを伝えた。
そして、「最後の最後まで僕らの全部をあなたの奥の奥まで届けられればな、と思います」と『お返しの約束』で本編を締め括った。

手拍子に呼ばれるようにして再び登場したアンコールでは。「変なこといっぱい言ったけど、次の曲が全部かな、と思いますので。全部、音で伝えたいかな、と思います」という田中の言葉と共に『辛夷のつぼみ』を。煌めく銀テープの中で穏やかな笑顔で歌い上げ、「これからの人生、一緒に歩んでいきましょう」とメッセージを伝えた。

さらに、ライブの最期ではさくらしめじの新ロゴ、また、10月18日に3rdアルバム『ゆくえ』のリリースされることが発表され、会場からは大きな拍手が。
「まだまだ9歳ですので、新人若手の部類だと思っています。若輩者として一歩一歩進んでいきたい」と田中。高田は「このツアーが史上最多公演のツアー。最初は不安な気持ちがあったんですけど、FINALでみなさんと、素敵すぎるバンドメンバーと一緒に音を奏でられたのは一生の思い出になったな、と思います。これからもまだまだやりたいこともありますし、ここからまた再発進していきます」とこれからへの想いを語った。

「きっと僕らなら歩けるよ」とさくらしめじは歌う。目を合わせて、ギターを奏で、奏でる音が違っても、10年目、さらにその先に続く道を共に歩いていく。

取材・文:ふくだりょうこ 撮影:鈴木友莉

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