今年で20周年! 本映画祭出身・中野量太監督にインタビュー!
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023 特集
7月15 (土)~7月23日(日) SKIPシティにて開催
7月22 (土)~7月26日(水) シネマディスカバリーズにて配信
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023 公式サイト/SNS
“若手映像クリエイターの登竜門”の映画祭がいよいよ開幕
20周年記念の今年は“SKIPシティ同窓会”も実施!
埼玉県川口市で開催される《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》は、デジタルシネマにいち早くフォーカスし、若い才能の発掘と育成をメインテーマに据えた映画祭だ。主軸に置く国際コンペティションと国内コンペティションからは、のちにカンヌ国際映画祭監督賞を受賞するヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督や、日本映画界をけん引する存在となった白石和彌監督、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督らを輩出。いまや“若手映像作家の登竜門”として知られる。
回を重ねるごとに注目度が高まる本映画祭だが、今年は区切りの20回目の開催に! アニバーサリーにふさわしく、例年以上に国際コンペティションはハイクオリティの作品が集まり、国内コンペティションは、日本の次世代を担う才能がしのぎを削る。また、本映画祭をきっかけに大きな飛躍を遂げた監督たちを招いての“SKIPシティ同窓会”をはじめ、このとき限りの特別企画も盛りだくさん。うれしいことに、コロナ禍で十分には叶わなかった海外からのゲストも今年は多数来場予定だ。
なお昨年に続きスクリーンとオンラインのハイブリッド形式での上映で、お好みのスタイルで映画祭へのアクセスが可能だ。とはいえ記念すべき開催、時間が許すならば会場で世界のフィルムメイカーと出会い、映画祭ならではのフェス気分を味わってみてはいかがだろう?
『浅田家!』中野量太監督が語る
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
今年の特徴・見どころは?
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023ガイド
『浅田家!』中野量太監督が語るSKIPシティ国際Dシネマ映画祭
『湯を沸かすほどの熱い愛』が日本アカデミー賞をはじめ国内映画賞で35冠に輝いた中野量太監督。その後も『長いお別れ』『浅田家!』といずれの作品も高い評価を受け、順調にキャリアを重ねる彼だが、実は大きく飛躍するきっかけをくれたのが《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》だ。
いまからさかのぼること約10年前、2012年に完成させた自主長編映画『チチを撮りに』が、本映画祭で監督賞とSKIPシティアワードを獲得。そこから道が拓け、商業デビューへとつながっていった。
そこで、今年、国内コンペティション部門の審査委員長を務める彼に、自身の経験談も交えながら20周年を迎える《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》の魅力、本映画祭に期待することを語っていただいた。
“背水の陣”から世界へ羽ばたくきっかけをくれた
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
はじめに先で触れたように中野監督が本映画祭で入賞を果たしたのは2012年のこと。当時は“背水の陣”だったと明かす。
「30代から自主映画を撮っていて国内映画祭で評価はいただく。でも、プロの道にはつながらない状況が続いていました。どうすればプロへの扉を開くことができるのか? と考えて、もうプロのプロデューサーに『こいつに撮らせてみたい』と思わせるレベルの自主映画を撮るしかないと思ったんですね。
それで有り金はたいて、借金もして、いい役者さんを揃えたいと思い、なんのつてもなかったですけど、渡辺真起子さんに出演交渉をしてと、当時の僕がやれることはすべてやって。ただ、自己満足ではなくきちんとほかの人に伝えることを意識しながらも、自分らしさを失わずに作り上げる。こうしてすべてを注いで完成したのが『チチを撮りに』でした。
だから、これでどうにもならなかったらそれまでと思っていました。そして、実は国内の映画祭に関しては、《SKIPシティ》にしか応募しなかったんです。そういうことを含めて、“背水の陣”でした」
結果は、先述した通り、監督賞とSKIPシティアワードを獲得。そこからプロの道が拓けていった。
「なんとか受賞できて、さらにありがたいことに当時はDシネマプロジェクトという劇場公開を支援するプロジェクトもあって、それにも選ばれたんです。
ということで公開に合わせ、映画関係者およびマスコミ関係者に向けた試写会を何度か開いたんですけど、1回目の試写会に映画会社クロックワークスの社員さんがいらっしゃったんです。二回目、同じ会社の別の社員の方がいらっしゃった。そして、最終試写にはなんと同社の社長さんがいらっしゃった。そこで試写が終わったとたんに社長さんにこう言われたんです。『中野君、オリジナルで映画を撮ろうよ』と。
これが何を隠そう『湯を沸かすほどの熱い愛』のはじまりのはじまり。こうして《SKIPシティ》での受賞から劇場公開、そして念願だった商業映画デビューへとつながっていきました」
並行してもうひとつ自身の飛躍へと結びついていくことがあったという。
「プロの道が拓けていった一方で、世界への道にもつながることができたんですよね。まず、《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》に参加できたこと自体が大きな経験でした。国際コンペティションはほんとうにいろいろな国の映画が集まっていて、いろいろな国のフィルムメイカーに出会うことができた。僕にとっては初めて世界の映画と映画人を肌で直に感じた瞬間で。いろいろな文化と映画言語に触れる豊かな場でした。
それから《SKIPシティ》は国際映画祭ですから、世界各国の映画祭とつながっている。ご存じの方もいると思いますが、一個人で世界の映画祭に打って出ることはとても難しい。たとえば『チチを撮りに』のときの僕のような無名の新人監督だと、事前ではじかれてしまったりする。でも、《SKIPシティ》が入ってくれることで、世界の映画祭へつながったりする。国内作品の監督にとっては心強い世界の映画祭の窓口になってくれる。
国際映画祭は、世界へ羽ばたくチャンスをくれる場でもある。僕の場合は、当時のコンペの審査員だった海外のプロデューサーの方が、『チチを撮りに』はヨーロッパの会社が絶対に気に入ると紹介してくれて、あれよあれよという間にワールドセールスが決まったんです。そのおかげで僕は映画祭や上映で世界各国をめぐり体感することができた。この経験は大きかったです。それまで心の中で信じていました『映画に国境はない』と。けど、あくまで漠然と思っているに過ぎなかった。世界を経験していないので。それが世界をめぐることで実感に変わりました。『自分の作品も世界に届く可能性が十分ある』と」
いま改めて『チチを撮りに』の受賞は、人生のターニングポイントだったと明かす。
「『チチを撮りに』がきっかけにプロの道が拓け、世界を知って、『湯を沸かすほどの熱い愛』で商業デビューして、そのあと、『長いお別れ』『浅田家!』とつながっていく。すべては《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》からスタートしているといっていい。入選していなかったら、どうなっていたことやら。お世辞ではなく、《SKIPシティ》という場があったから、いまの自分があると思っています」
今年は審査される側からする側へ
「嫉妬するぐらいの作品に出会いたい」
いわば《SKIPシティ》は自身を見出してくれた映画祭。その中で、今回、審査員を打診された感想をこう語る。
「感慨深いものがありました。いまお話してきたように、12年前、背水の陣で挑んで、どうにか賞を手にすることができた。プロの道へ進むきっかけをくれた映画祭から、審査員のお話をいただく。これほど光栄なことはない。でも、一方で、審査される側から審査する側に立つのはこそばゆいというか」
ただ、そう思ったのは一瞬のこと。次の瞬間には気を引き締めたという。
「この映画祭での評価で、僕のように人生が一瞬にして変わることがある。この審査によって、将来が決まる可能性だってある。
先日の記者会見でも話したのですが、僕は、今回入選した監督たちがどんな気持ちで応募して、この映画祭にどれだけ期待しているのかが痛いほどわかる。それを考えると責任重大で、1本1本、つぶさに丁寧にみなくてはならないと、背筋が伸びる思いになりました」
審査については、いまこんな期待を抱いている。
「そこまで多くの作品に触れているわけではないですが、いまの自主映画というのは映像のクオリティや技術的なところに関しては、それこそ12年前、僕が『チチを撮りに』を撮ったころと比べたら、各段にレベルアップしていると思います。
ただ、その監督の持っている才能やオリジナリティ、個性といったものは、そういった技術のうまい下手、クオリティの高さ低さとは別のところにあって。極端なことを言うと、技術は未熟であっても、よくみると、それを上回るような独特の才覚があふれていることがある。つまり作品の技術やクオリティは重要だけれども、それだけでは監督の才能をはかれないところがある。まず、そういうところを見落とさないようにしたいですね。
それから、現役の映画監督をしている自分だからこそ明確に見えることがある。例えば技術で補えることもあれば、逆に技術をもってしても補えないこともあること、今という時代の価値観だからこその表現もあれば、今という時代の価値観にはない表現もあること、そういうことがわかるところがある。一方で、時代が変わろうと変わらない、たとえば人の心を動かすポイントといったこともわかる。
だから、監督たちには嫌われそうですけど(苦笑)、かなりこと細かくみると思います。ただ、あくまで上から目線ではなく、同じ映画人の目線に立って作品には向き合いたい。そして、基本としては作品のいいところをきちんと評価して伝えたい。人一倍厳しく、人一倍優しく作品を観たいと思います。
で、自分にない感性やオリジナルな才能、新たな表現を感じさせる作品に出会いたい。その監督にしかできない感覚を見せつける、僕が嫉妬するぐらい才能を感じる監督に出会えることを期待しています」
20周年を迎えた今年は同窓会企画も!
「とにかくこの映画祭を継続してほしい」
今回、中野監督は国内コンペティション部門の審査委員長のほかに、もうひとつ出番がある。それは、本年の映画祭の目玉企画「SKIPシティ同窓会」への出演。本企画は、本映画祭から大きく羽ばたき、いま第一線で活躍する監督たちの最新作を上映するとともに、上映後はトークイベントを実施。ゲストに監督たちを招いて、本映画祭のことや制作秘話について語ることになっている。
「こちらの方にも参加させていただきます。当日のお楽しみということで、あまり詳しくは明かさないほうがいいと思いますが、『浅田家!』のことから、《SKIPシティ》の入選時のことまで、時間の許す限り、いろいろとお話できればなと思っています。
僕のほかも、松本優作監督、まつむらしんご監督、中村真夕監督、片山慎三監督と、ほんとうにみなさん活躍されている監督ばかり。上映作品も反響を呼んだ作品がそろっていて、僕もみなさんのお話をききたいです(笑)」
何度も触れているように本開催で《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》は20周年を迎える。最後にこうメッセージを寄せる。
「『SKIPシティ同窓会』の監督たちをみてもわかるように、回を重ねるごとに《SKIPシティ》出身の監督が次々と世に出ている。僕が入選したころはまだまだ少なかったですけど、それがいまはこんなに活躍している人が増えて、自分事のようにうれしいです。
これから《SKIPシティ》出身の監督がもっともっと増えていってほしい。そのためには、(映画祭が)継続していってくれなければならない。映画を志す者にとって映画祭は重要で無くなられては困る場所。ですから、映画祭を継続していくことはすごく大変なことなのは重々承知しているのですが、20年といわず25年、30年と《SKIPシティ》には続いていってほしいです。
ほんとうに映画祭がストップしてしまうと、『《SKIPシティ》出身です』と言えなくなってしまうのでよろしくお願いします(笑)。
それから最後に一言だけ。映画祭にとっても、入選監督たちにとっても観客のみなさんは欠かせない存在です。観客のみなさんがいてはじめて映画祭は成立する。入選した監督たちの作品も観客のみなさんがみてくれてはじめて完成するところがある。
僕も『チチを撮りに』のとき、観客のみなさんからいろいろとうれしい感想をいただきました。その言葉にどれだけ勇気づけられたかわかりません。ですから、実際に会場に足をお運びいただいて、新たな映画と監督たちに出会って、なにか感想があったら一言でもいいので伝えていただけるとうれしいです」
取材・文:水上賢治
チケット情報
【スクリーン上映】 開催期間:7月15日(土)~7月23日(日)
コンペ作品:前売600円/当日800円
コンペ作品フリーパス(オンライン配信観放題特典付き):前売4,500円
コンペ作品フリーパス:前売3,500円
特集「SKIPシティ同窓会」:前売800円/当日1,000円
※『Winny』『あつい胸さわぎ』『ワタシの中の彼女』『さがす』『浅田家!』
オープニング・セレモニー:前売800円/当日1,000円
※セレモニー後、『瞼の転校生』上映。
クレージング・セレモニー:前売800円/当日1,000円
※セレモニー後、国際コンペグランプリ作品上映。
特別上映『尾かしら付き。』:前売1,000円/当日1,200円
特集「中国映画の新境地~KATSUBEN Selection~」:前売1,000円/当日1,200円
※当日券は、各日の初回上映の開場時間より、当日上映されるすべての有料プログラムの座席指定券を映像ホール、多目的ホール受付で常時発売(最終上映回の開演まで)。
【オンライン配信】 配信期間:7月22日(土) 10:00 ~7月26日(水) 23:00
特設サイト(Powered by シネマディスカバリーズ)にて(会員登録が必要)
https://dcf.cinemadiscoveries.co.jp/
コンペ作品:短編100円/長編300円
コンペ作品見放題プラン:1,480円