充実のキャストとスタッフで「世界と戦える映画を」。『リボルバー・リリー』撮影現場レポート
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『リボルバー・リリー』 (C)2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
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すべて見る本人も「何で俺に?」行定勲監督の起用は意外性が狙い
20年ぐらい前からこの映画を待ち望んでいた。漠然とイメージしていた夢の映画が、最高のプロジェクトで突然姿を現わしたと言うべきだろうか。第9回大藪春彦賞に輝く長浦京の小説『リボルバー・リリー』を、主演に綾瀬はるかを迎え、『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)、『劇場』(20)などの行定勲監督が映画化するというニュースを最初に聞いたときは、勝手にそう盛り上がったものだ。
それこそ昔から、日本ではヒロインがカッコよく銃を撃つアクション超大作がなぜ作られないんだ?ってモヤモヤしていたものだが、2005年のポカリスエットのCMで綺麗な弧を描いて海に飛び込む綾瀬はるかを見たときに“この人ならカッコいいアクション映画が撮れる”と思ったし、『おっぱいバレー』(09)の撮影現場の休憩時間に共演者たちと楽しそうにバレーボールをする彼女のしなやかな動きを目撃したり、その公開時の取材で「子供の頃は海に潜ってモリで魚を獲っていました」という話を聞くうちに、自分の勝手な妄想が確信へと変っていった。
もちろん、綾瀬の身体能力の高さは大河ドラマ『八重の桜』(13)や大河ファンタジー『精霊の守り人』(16~18)、『奥様は、取り扱い注意』(21)、『レジェンド&バタフライ』(23)ですでに実証されているが、彼女のポテンシャルはあんなもんじゃない! エモーショナルな芝居にも長けた人だから、哀しみと戦う意味を伴う魅力的なヒロインの役でオファーしたら、もっともっとカッコいいアクションヒロインを体現してくれるに違いないと信じていたのだ。
行定勲監督の起用も、監督のアクションやサスペンスを以前から見たいと思っていただけに嬉しかった。まあ、行定監督のことを“恋愛映画が得意な人”としてしか捉えていなかった映画ファンは“えっ、何で?”と思っただろうし、監督自身も製作発表時に「何で俺に?」とコメント。本作の企画・プロデュースの紀伊宗之(以下、紀伊P)が「その意外性が狙い」と言うとおり、行定監督の本格的なアクション映画は確かに観たことがない。
けれど、BS-i(現在のBS-TBS)のドラマ『タスクフォース』(02)や『北の零年』(05)のダイナミックなアクション、WOWOW『平成猿蟹合戦図』(14)のサスペンスフルな導入部や連続する追走劇などを楽しく観ていた筆者は、闇雲ではなく、そこにも期待していた。行定監督が初めてディレクターを務めた熊本の「菊池映画祭2016」で、行定監督作品の助監督経験がある白石和彌監督(『孤狼の血』シリーズ)から「行定さんは実はアクションを撮るのも上手いんですよ」という話を聞き、密かに喜んだことも昨日のことのように覚えている。
それだけに、『リボルバー・リリー』の撮影現場に潜入し、綾瀬はるかと行定勲監督がどんな挑戦をしているのか自分の目で確かめたかった。そう思ったのはたぶん李相日監督の『69 sixty nine』(04)以来で、こんなにワクワクしたのも久しぶりのことだった。
ガンアクションをあっと言う間に自分のものにしていく綾瀬はるか
本作は文庫版で636ページもある原作小説の世界観とエッセンス、重要なシーンはそのままに、行定監督もその才能を認める『合葬』(15)の小林達夫監督が大胆に脚色(脚本は行定監督と共同)した超ド級のハードボイルドアクション。
時は1924年(大正13年)。第一次世界大戦と関東大震災の爪痕が癒えぬ帝都・東京。S&W M 1917リボルバーの使い手・小曾根百合(綾瀬)が、謎の男たちに屋敷を襲われ追手から逃げる少年・慎太と出会い、彼を護りながらの逃避行の中で激しい銃撃戦を繰り広げる姿を描いていく。巨大な陰謀の渦に巻き込まれた百合と慎太の命を懸けた壮絶なバトルがどう視覚化されるのか? 最大の見どころは、間違いなくそこになるだろう。
そんな本作の現場を訪れたのは、昨年の8月16日。東映東京撮影所最大の第6ステージに足を踏み入れると、関東大震災からの復興途上である花街がまるごと出現。木造2階建ての飲み屋や娼館が軒を連ね、伏見稲荷大明神の脇には本物の柳の木や草が植えられたその街並みは、美術の清水剛(『私は貝になりたい』『マチネの終わりに』)が大正時代の向島の遊郭(私娼街)からイメージしながら2カ月かけて自由に作り上げたものだ。
この日の撮影は、百合が営む東京・玉の井(現在の東京都墨田区の東向島あたり)の銘酒屋「ランブル」に、帝国陸軍の40数名におよぶ兵士たちが凄まじい靴音とともに押し寄せてくるところから始まるくだり。軍を率いる冷酷な陸軍大尉が「細見慎太! そこにいるのは分かっている。大人しく出てこい!」と怒声を響かせると、中から両手を上げて出てきた百合に向かって兵士たちが一斉に銃を向ける。と、ランブルの女性従業員(シシド・カフカ)が店の中からいきなり発砲。思いがけないことに百合も驚き、「どうして撃つの!?」と彼女の方を振り向くが、次の瞬間、ワンピースのスカートをまくり、左足太腿に忍ばせたホルスターからS&W M1917リボルバーを素早く抜いて兵士たちを撃つという流れだ。
撮影に入る約1カ月前からアクションや銃のトレーニングを行い、撮影の合間もその一連の流れを何度も何度も自主練習していた綾瀬は飲みこみが早い。ガンアクションアドバイザーの武藤竜馬(Netflix『今際の国のアリス』)がやって見せる動きをあっと言う間に自分のものにしていくその流麗な動きは、想像していた以上に美しくセクシーだ。
とは言え、他の役者とタイミングを合わせながら、撃った後の衝撃で手元が少し上がるまでのアクションをスピーディにこなすのはそんなに簡単なことではない。そこには魔物も棲んでいて、この日もスカートの下のレースが上手くめくれなかったり、ホルスターに巻きついたり、銃を上手く握れないなどのアクシデントが連続。ネックレスのパールが散らばる最悪な事態にも見舞われたが、綾瀬がそれを笑い飛ばすから、みんなでパールを拾う現場もどこか和やかで、いい意味でピリピリした緊張感はない。
「綾瀬はるかは精度の高い画を撮ることに躍起になっているんです」
「アクション映画は自分が今までやってきた撮り方が通用しない。撮影に入る前にコーエン兄弟の作品をはじめとした海外のアクション映画もいっぱい観たけれど、感情を度外視しないと銃さばきも綺麗に繋がらない」と行定監督は言う。「でも、今回は銃やアクションのエキスパートが集まっていますからね。銃やアクションの何が正しいのかの判断は僕には分からないし、そこを僕に聞くのは甘いという状態にしています」。印象的だったのは、そんな行定監督がガンアクションをはじめとした詳細な絵コンテを描いていたことだ。
監督の絵コンテを個人的に現場で見たのは2001年の『GO』以来のことだったが、この日はそれだけでなく、実際に自ら銃を握り、「右左に1発ずつ撃った後、右に2発撃ち、最後、ランブルに転がり込むときに振り向きながらもう1発!」と適格な指示を与えていく。それを瞬時に理解する綾瀬とタッグを組むのは2002年のJam Filmsの中の1編『JUSTICE』以来のことだと思うが、ふたりの息はピッタリで、行定監督も「綾瀬はるかは自分にダメ出しするんです。“今のカッコよかった?”“カッコ悪くなかった?”ってことばかり聞くし、アクション監督がOKを出したのに本人が気に入らなくて撮り直したカットもある。そうやって精度の高い画を撮ることに躍起になっているんです」と全幅の信頼を寄せる。
実際、この日もカットがかかる度にモニター前の行定監督のところに来て「今の、どうでした?」と確認したり、満足のいくガンアクションを最後に決めたときは手を叩きながら、両手で小さくガッツポーズをする綾瀬を目撃。さらに、ランブルに転がり込む一連を女性スタントマンがやって見せたときには「ちゃっかり、カッコいいんですね(笑)」と余裕の笑みで分析すると、これも綺麗にこなしてしまうのだから流石だ。
“大衆車”ばかり作ってきた日本の映像制作会社が、本気で“高級車”を作る
ガンアクションアドバイザー、美術以外の本作の座組にも注目したい。撮影を『新聞記者』『最後まで行く』などの今村圭祐を手がけ、衣裳デザイン監修で黒澤和子(『万引き家族』『怪物』)、シニアVFXコーディネーターで尾上克郎(『北の零年』『シン・ゴジラ』『シン・仮面ライダー』)、スタントコーディネーターで田渕景也(『今日から俺は!! 劇場版』『シン・仮面ライダー』)が参加。さらに、これまでの行定作品を支えてきた照明の名手・中村裕樹や編集の今井剛が脇を固める最強の布陣を実現させている。
綾瀬以外のキャストもすでに触れた人たちはもちろん、長谷川博己、古川琴音、清水尋也から佐藤二朗、吹越満、内田朝陽、板尾創路、橋爪功、石橋蓮司、阿部サダヲ、野村萬斎、豊川悦司まで全方位に魅力的。物語の鍵を握る細見慎太役をオーディションで勝ち取ったGo! Go! Kids/ジャニーズJr.の羽村仁成、百合を追い詰める陸軍大尉役のジェシー(SixTONES)に注目が集まるのも間違いないだろう。
「羽村くんは芝居がすごくナチュラルだし、天才じゃないかな。二宮和也さんの若いときみたいです。ジェシーの役はある意味この映画のジョーカー(『バットマン』シリーズのヴィラン)! 百合にとっての最大の敵なので月並みじゃない人がいいなと思って彼にオファーしましたが、ジェシーがあの大尉を上手くモノにしてくれたら、この映画の魅力が二段も三段も上がると思います」(紀伊P)
これまでにも白石監督と組んだ『孤狼の血』シリーズや『犬鳴村』(19)に始まる清水崇監督との“恐怖の村”シリーズ、庵野秀明監督との『シン・仮面ライダー』を手がけてきた紀伊Pは、最後に次のような力強い言葉で締めくくる。
「僕はずっと“世界と戦える映画を作りたい”と思ってきた。カローラ(大衆車)ばかり作ってきた日本の映像制作会社が、世界と戦うために本気でレクサス(高級車)を作る。本作がその第1歩になればいいなと思っているんですけど、それなりのお金をちゃんとかけて、ドラマの名手の行定監督に『リボルバー・リリー』をお願いすれば、ハイブリッドなアクション映画にしてくれると信じていた。実際、ビックリするぐらい素晴らしい画が撮れているし、観客がカッコいいアクションに魅了されて、最後に“泣けた”って言ってくれるような仕上がりになったら狙いどおりです(笑)」
日本のリボルバーが世界に向けて銃弾を放つ日がもう目前に迫っている。
取材・文:イソガイマサト
『リボルバー・リリー』
8月11日(金)公開
(C)2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
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