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葵わかな×木下晴香「私たちの経年変化を感じてもらえたら」ミュージカル『アナスタシア』待望の再演に寄せて

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左から)葵わかな、木下晴香 撮影:You Ishii

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コロナ禍の2020年、52公演中たった14回しか上演されずに幕を下ろしたミュージカル『アナスタシア』が帰ってくる──。記憶を無くした女性が過去を取り戻し、愛する家族と心の帰る場所を見つける旅路を描いた本作。初演に引き続いて主人公アーニャをWキャストで続投する葵わかなと木下晴香に、待望の再演に向けた想いを尋ねた。

公演中止後、3年で培った経験を再びアーニャにぶつけたい

──初演時を振り返って得た感触を、まずお聞かせいただけますか?

 楽しさを感じられる前に終わっちゃった、というのが正直な実感です。

木下 そうだよね。幕が開いては(緊急事態宣言で)止まり、再開したと思ったら全公演中止になってしまって。

 まだ14公演しかやっていなかったもんね。私は公演数を重ねて体力の配分がわかってくるタイプなので、楽しいと感じられる部分がこれからもっと増える予定だっただけに残念でなりません。

木下 そうだよね。私たちを含めて『アナスタシア』にはWキャストやトリプルキャストが多いんですが、一度しかやっていない組み合わせもあるんですよ。私はその楽しさを感じられないまま、終わってしまった印象がありました。

──楽しむところまで行かないうちに終わってしまった初演に対して、待望の再演となります。どのように受け止めていらっしゃいますか?

 純粋に嬉しいです! 前回は私たちがアジア初演でしたので、キャストも海外から来日してくださったスタッフを含め、すごく熱量のある稽古場だったんですよ。「なんとしても初演を成功させよう」って気概に満ちていたような気がします。その環境にまた身を置けることが喜ばしいですし、ご縁に恵まれて感謝です。

木下 私は再演が決まり、またアーニャとして舞台に立てることが本当に嬉しかったです。初演は精一杯やっていましたが、自分の足りない部分が見えてきた時期でもあったんです。実力的に悔しい思いをたくさんした作品でもあったので、その後さまざまな経験を通じて培ったものをしっかり『アナスタシア』にぶつけて、一から向き合ってつくっていきたいと考えています。

──初演から3年が経って「当時と比べてこんな点が成長したのでは」とおふたりが感じるポイントを教えてください。

木下 どこが境目か、私の中でも曖昧なんですけど……『アナスタシア』くらいまでは、自分でない誰かになることによって自信を持って舞台に立っていたんですよね。演じるからこそ人前に出ていける感覚があって。メイクして衣装を身にまとうことでだんだんと違う自分になって、役としてステージに立っているから怖くない、みたいな。

 そうなんだ。

木下 うん。でもコロナ禍の3年を通じて、やっぱり演じるのってどこまでも「自分でしかない」ってことを痛感しました。自分自身を見せることが次第に怖くなくなっていっている……というんですかね。やっぱり自分を介して届けないと、わかなちゃんみたいにお客さんの心を打つ芝居にならないんだなって。

 (恐縮して首を振りながら)いやいやいやいや!(苦笑)

木下 ……なんだか取ってつけたようになってしまいましたけど(笑)、芯を食った芝居にならない気がしたんです。他者をコーティングしながら演じていたのが、だんだんと自分を通せるようになったのが私の変化かな、と感じています。「感情はお腹から」という言葉が腑に落ちるようになってきました。

 そっか、すごいね! 私はポジティブになったことが変化のひとつかもしれません。コロナ禍が影響している気がするんですが、自分ひとりの力でどうにもできないことってあるじゃないですか。そういう状況に対して20代前半ではまっすぐ向き合って躍起になっていたんですけど、現在ならもっと柔軟でいられる。

その時になす術が無かったとしても、この『アナスタシア』のように何年後かに再び挑戦できる機会が巡ってくるって信じられるようになったのかな。人生は繋がっていて、取り組めなかったことも一生できないわけではないんですよね。そうやって少しずつ自分の人生を長い目で捉えられるようになって、肩の力が抜けたような気がしています。

木下 素敵な考え方だね、それ。

 ありがとう。そう思えたから、この3年で挑戦させてもらったいろんな作品や役が尊くて。ひとつの役にこだわるというより、自分の引き出しが増えていくことを楽しめたんですよね。同時に役への没入感も以前より増している気がして。いい時間を過ごしていると思います。

セリフの行間に想いを巡らせたら、初演と異なる解釈をしていた

──おふたりの成長を通じて、3年前と今回やるアーニャにどんな変化が生まれるのか気になりました。現時点で何か考えていらっしゃるアイディアはありますか?

葵・木下 うーん、そうだなぁ。

──では3年前、おふたりはアーニャの人物像をどのように受け止めて形にしていかれたのですか?

 とにかく「がむしゃらな女性」という印象でした。なりふり構わず、両腕をワーッと回しながら駆け回っているようなイメージ(笑)。もちろん私も若くて子どもから大人になったばかりの時期だったので、アーニャのように猪突猛進でしたし、そういう部分に共感しながら表現したような気がします。

木下 本当にそう。3年前はただただ必死で……あの時はすごく視野が狭かったですね。役の向き合い方にしても、アーニャを「演じる」のに精一杯だった記憶が私の体感としてあって。でもその状態がアーニャの必死さに通じていたのかもしれませんけど。

 今回は「経年変化」をお見せしたいです。若輩者の3年なんて大したことないかもしれませんが、「年月が経つってこういうことなんだな」って。アーニャは記憶がないんですけど、当時演じていた自分は「21年分の記憶がない人」というアウトプットしかできませんが、今回はその記憶に3年が加わります。記憶喪失になる期間って長ければ長いほど重みが増すというか、そのキャラクターが孤独に苛まれて生きてきた人間性に関わるんじゃないかなって。

木下 確かに!

 初演時は記憶がない状態をいたずらに怖がって立ち向かっていたけれど、再演では「記憶喪失の恐怖に葛藤した瞬間はなかったのかな」とか、セリフの行間に何が書かれているのか気になっています。彼女の人生をイメージして「どんな道をひとりで歩いてきたんだろう」と想いを巡らせることによって、役が広がったり深まったり、立体的になるんじゃないかな。もちろん演出があるので、この考えをどこまで活かせるか未知数ではありますが……当時より少しだけ大人になった自分がアーニャを演じるのがおもしろいんじゃないかと思います。

木下 それでいうと、私は初演と今回でアーニャの「強さ」に解釈の違いが生まれたような気がしていて。前回は強さの源にあるのが、記憶を無くしてもひとりで生きてきたという彼女の「バックボーン」にあると思っていたんです。実際、これを大事に演じようとしていました。一方で再演にあたって久しぶりに台本を読み返した時に、自身の居場所や自分は何者なのか、アーニャが「生き方やアイデンティティを取り戻す旅」が現在進行形で進むからこそ得る強さもあるのかな、と感じまして。そこは初演と捉えるポイントが異なるのかな。その変化を大切にできたら、と思っています。

──おふたりは初演時に長い時間を共有しました。ご自分にとってプラスになったと感じられるお互いの魅力やポイントを教えてください。

 晴(はる)ちゃんの柔軟さは私にないところで、すごいなと感じていました。どんな指示を受けても、まず一回は受け入れるんですよ。私は怖いものって跳ね返してしまうし、「受け入れていいのかな」って吟味する時間が必要なので。理解や納得できないと飲み込めないタイプだから、晴ちゃんが物事に対して「わかりました」と素直に受け入れる姿勢はすごく大人だと感じていました。それは流されるってことではなく、すぐ懐に入れてあげられる優しさなんだなって。そこからどうすればいいか、自分で決めればいいわけですし。誰かと一緒にクリエーションする上で大切なスタンスだと思います。

木下 初めてわかなちゃんと出会ったのが、『ロミオ&ジュリエット』(2019年)なんですよね。で、稽古でわかなちゃんが見せた、とある芝居に「なんだこのエネルギー」って衝撃を受けまして。そこからわかなちゃんが見せる芝居の深みと熱量に魅了されっぱなしです。役に入っていく瞬間の集中力、芯があるのにやわらかい歌声が大好きです!

 お互いに褒め合うの恥ずかしいね(笑)

木下 まだまだ出てくるよ!(笑)。小さい頃からミュージカルに触れる中で「強い声で歌うのがいいんだ」みたいな勝手な先入観があったんですけど、わかなちゃんから役としての自然な声をお客さんに届けていることが伝わってきたの。この重要なポイントに気づかせてくれた、大切な存在なんですよ。「芝居歌」っていうのかなぁ。私の凝り固まったミュージカル脳をアップデートしてくれた感覚があるんです。

 晴ちゃんは歌についてすごく深く考えているよね。ミュージカル鑑賞で得た知識もあるし。私にはそれがないから「まずやるしかない」って感じなんだよ。培ってきたものを活かす努力をし続けているのも晴ちゃんを尊敬しているポイント。

木下 ありがとう。やっぱり恥ずかしいね(笑)。

──『アナスタシア』はアーニャが魅力的でないと成立しない物語です。そんな役どころに臨むおふたりの意気込みを最後にお聞かせください。

 自分の手で運命を切り拓いていく力強いヒロインに私自身が共感しますし、そのサクセスストーリーに背中を押してもらえると思います。いろんな可能性や魅力を秘めたアーニャを再び演じられるご縁を大切にしながら、誠実に向き合っていきたいです。

木下 アーニャの「人間としての生き方を取り戻していく旅」に、ご覧になる方も心を寄せていただけるのではないでしょうか。彼女がもがく姿を全力でお見せして、歌も芝居もパワーアップした状態でお届けできるように精一杯がんばります!

取材・文:岡山朋代 撮影:You Ishii

<公演情報>
ミュージカル『アナスタシア』

【東京公演】
2023年9月12日(火)~2023年10月7日(土)
会場:東急シアターオーブ

【大阪公演】
2023年10月19日(木)~2023年10月31日(火)
会場:梅田芸術劇場メインホール

チケット情報
https://w.pia.jp/t/anastasia-musical-japan/

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