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舘野泉─米寿を迎えてなお新たな挑戦を止めぬ気骨

クラシック

インタビュー

ぴあ

舘野泉 撮影:石阪大輔

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11月10日(金)は舘野泉87歳の誕生日。ピアノ界のレジェンドが、数えで米寿のバースデー・コンサートを開く(東京オペラシティコンサートホール)。

2002年に脳溢血で倒れ、右半身不随に。2年後、「左手のピアニスト」として演奏復帰した。

「僕自身の中では何も変わりません。左手だけで弾いているという意識もない。ずっと変わらず、音楽をやっているだけですから」

実際に演奏を聴けば、「左手」かどうかが小さなことだとわかる。この人だけの至高の音楽が、今は5本の指に凝縮されて紡ぎ出される。

今回はすべて室内楽との共演。ヤナーチェクのカプリチオ《挑戦》、平野一郎《鬼の学校》(2022)、パブロ・エスカンデ《奔放なカプリッチョ》(2023/委嘱作品・世界初演)。なんとも意欲的な舘野ワールド。

「ヤナーチェクは大好きな作曲家。《挑戦》は左手ピアノと管楽七重奏という特殊な編成ですが、豪華メンバーが集まってくれました」 フルート1、トランペット2、トロンボーン3、ユーフォニアム1。甲斐雅之(fl)、辻本憲一(tp)、新田幹男(tb)ら、各オーケストラの首席奏者など、頼もしい顔ぶれが並ぶ。

「ただヤナーチェクはどちらかと言えば内向的な作品なので、コンサートの最後にメンバーにもっと存分に名技性を発揮してもらおうと、同じ編成の新作をエスカンデに委嘱しました。エスカンデとはもう10年以上一緒にやっていて、いつも工夫して面白いアイディアで書いてくれるんです。現段階では《奔放なカプリチオ》という曲名だけもらっています。楽しみですね」

そして《鬼の生活》は昨年の委嘱作品の再演。シューベルトの《ます》と同じ編成のピアノ五重奏曲。

「僕は鬼の学校の先生の酒呑童子。4人の若い鬼たちが、鬼としての純粋な生き方を勉強していくわけです。脅し方だとか、戦い方、隠れ方……。いろいろな性格の音楽が出てきて面白いですよ。初演以来全国各地で弾いているので、鬼たちの調子もぐんぐん上がっています(笑)」

一方で深い悲しみも。3月に最愛の妻マリア・ホロパイネンさんを亡くした。

「最後の3週間はフィンランドの自宅で一緒に過ごすことができました。10月に小海で初演する谷川賢作さんの新作の中で、〈To Maria〉というスローバラードの楽章を書いてもらう予定です」

そう言って、少し言葉を詰まらせた。ひとときも立ち止まることなく新たな作品に挑む舘野を、天国のマリアさんも微笑みながら見守っているはずだ。

米寿記念演奏会
舘野泉 バースデー・コンサート

11月10日(金) 14時開演
東京オペラシティ コンサートホール

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343935

出演
舘野泉(ピアノ)
平石章人(指揮)
甲斐雅之(フルート)
辻本憲一(トランペット)
尹千浩(トランペット)
新田幹男(トロンボーン)
ザッカリー・ガイルス(トロンボーン)
野々下興一(トロンボーン)
齋藤充(ユーフォニアム)
ヤンネ舘野(ヴァイオリン)
小中澤基道(ヴィオラ)
矢口里菜子(チェロ)
ジョナサン・ステファニアク(コントラバス)

https://www.japanarts.co.jp/concert/p2034/

文:宮本明
撮影:石阪大輔

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