観劇後も想像が無限に広がる舞台 子どもも大人も楽しめる『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』開幕
ステージ
ニュース
『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』より、左から)斉藤悠、大場みなみ、東野絢香、細田佳央太、豊原江理佳、松尾諭、名村辰、篠原悠伸、今泉舞 (c)二石友希
続きを読むフォトギャラリー(11件)
すべて見る8月11日(金・祝)、東京・世田谷パブリックシアターで『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』が開幕した。
「せたがやこどもプロジェクト2023」の一作として上演される本作は、子どもも大人も楽しめる作品として、イギリスの劇作家、フィリップ・リドリーの児童文学を舞台化したもの。演出はリドリー作品をこよなく愛し、これまで『マーキュリー・ファー Mercury Fur』や『レディエント・バーミン Radiant Vermin』など、6作を舞台化してきた白井晃。『メルセデス・アイス』も12年前、白井の演出でまつもと市民芸術館でのみ上演したことのある作品。今回は「ぜひとももう一度」という白井の念願が叶った形だ。
舞台は「ここではないどこか」の町。平穏な町に雲にも届くようなタワーが建設される。何年もかけて高く積み上がったそのタワーの存在によって町の家々には日が差さなくなり、「影のタワー」と呼ばれるようになる。その町に住む2組の夫婦、その子ども、さらにその子どもと、3世代の物語が描かれる。
タイトルにもなっている主人公メルセデス・アイスは細田佳央太が演じる。母親に溺愛され、たくさんのものを与えられた結果、ほしいものを我慢しなくなった少年を、はつらつとしたまっすぐな演技で表現している。
メルセデスの母親・ロージーを演じる東野絢香の、少女から大人へ、そして母親へと変化していく演技も見もの。影のタワーの作業員として現れ、少女時代のロージーを支える松尾諭の存在感も大きい。
松尾を中心に、役者たちは語り手としても舞台上に存在する。語り手が丁寧に状況を説明しながら進むこの作品は、子どもたちの初めての観劇にもぴったりだろう。登場人物たちが歳を重ね、変化していく様子を語りとともに観るのは、絵本を読んでいるような観劇体験。
タワーは親世代にとっては突然現れた希望でも災厄でもあり、子ども(ロージーとティモシー)にとっては輝く未来の象徴であるが、その子ども(メルセデスやヒッコリー)の世代にとっては日常だ。魚屋もケーキ屋も身近なものなのに、目の前に繰り広げられる世界はどこか常にファンタジック。魚や貝、大きなサメの歯、たくさんのケーキ、鳥、くも、ねずみ……。次々に出てくる人間以外のものたちにも時にわくわく、時にゾッとさせられる。
何もない舞台に役者たちが家を運び込むところからはじまり、物語が進むにつれ舞台の上に少しずつ実際にタワーが積み上がっていくのを見ていると、この場所が次にどう変わっていくのかが楽しみになる。街が生まれ、タワーが建つ様子は、何もないところに物語を立ち上げる「演劇」そのものの具現化のようにも見えてくる。やがて、描かれる世界は舞台上だけでなく客席にも広がっていき、観ている自分たちも世界に入り込んだような感覚が強くなっていく。
『メルセデス・アイス』は、決して登場人物の善悪や成長がはっきりとわかる物語ではない。だからこそ、観終えたあとに想像する余地が無限に広がる。これぞ、まさに「子どもも大人も楽しめる」という表現にふさわしい演劇作品だ。
取材・文:釣木文恵 撮影:二石友希
<公演情報>
せたがやこどもプロジェクト 2023《ステージ編》
『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』
原作:フィリップ・リドリー
翻訳:小宮山智津子
演出:白井晃
出演:
細田佳央太 / 豊原江理佳 / 東野絢香
篠原悠伸 / 名村辰 / 大場みなみ / 斉藤悠 / 今泉舞
松尾諭
2023年8月11日(金・祝)~20日(日)
会場:東京・世田谷パブリックシアター
★各回150枚限定、先着順(要予約)で、18歳以下無料(要発券手数料)、当日要証明書提示
詳細は公式サイトにてご確認ください。
★ぴあ半館貸切公演(8/17)チケットも販売中!
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343720
公式サイト
https://setagaya-pt.jp/stage/1892/
フォトギャラリー(11件)
すべて見る