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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 『アリスとテレスのまぼろし工場』特集 ①

誰もが衝動に駆られる傑作
岡田麿里監督最新作
『アリスとテレスのまぼろし工場』

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『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』などの脚本を手がけ、初監督作『さよならの朝に約束の花をかざろう』が日本だけなく、海外でも高い評価を集める岡田麿里監督の待望の最新作『アリスとテレスのまぼろし工場』がついに公開になる。

本作はこれまで岡田監督が描き続けてきたモチーフやテーマがさらに進化したかたちで物語に盛り込まれ、人間がいくつになっても感じ、向き合う“問い”がいくつも盛り込まれている。

観客がこれからも繰り返し観たくなる特別な映画、観ながら「これは“自分のための映画”だ」と思ってしまう作品。『アリスとテレスのまぼろし工場』はそんな魅力をもった傑作だ。

なぜ、岡田麿里作品は“唯一無二”なのか?

有名原作をもつもの、超大作、人気シリーズなど日々、様々なアニメーション作品が登場し話題を集めているが、岡田麿里監督は、その中で常にオリジナルの最新作が待たれ、その動向が注目を集めている作家のひとりだ。

2011年放送の連続アニメーション『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で注目を集めた岡田麿里は、2015年には『心が叫びたがってるんだ。』でオリジナル映画脚本を手がけて大ヒット。のちに実写映画も製作された。そして、2018年には『さよならの朝に約束の花を飾ろう』で自らの脚本を初監督。翌年には『空の青さを知る人よ』の脚本も手がけている。

振り返ると、岡田作品には共通するモチーフや繰り返し描かれるドラマがいくつかある。多くの主人公が学校や社会から少しだけ外れた場所にいるか、何かしらの違和感を抱いている。そして登場人物たちは過去に起こった出来事や事件がきっかけで、自分の暮らす環境や過去の記憶に“閉じ込められた”状態になっていることが多い。

また、登場人物が若い頃や思春期に感じた葛藤や気持ちが“その場限り”のものではなく、その後の人生の中で繰り返し出現し、向き合うものとして描かれる。

岡田麿里が描くドラマは、劇的や感動を狙ったものではなく、我々の誰もが日常の中で感じる感情や孤独感、人付き合いの難しさ“そのもの”だ。岡田麿里作品を観た誰もが「こんなにもワクワクして面白いのに、心の奥が痛い」と思ってしまう。そんな作家が他に何人いるだろうか?

そんな岡田麿里監督が、キャリア最大にして、自身のテイストが最も濃密に込められた最新作を完成させた。タイトルは『アリスとテレスのまぼろし工場』。本作もまた、観客の心に寄り添い、その奥深くにまで届く傑作になった。

“変化”を禁じられた世界でもがく者たち

本作の舞台は、製鉄所で爆発の起こった町。この事故によって町から外に出る道が塞がれてしまい、時まで止まってしまう。町の人々はこの状況が打開され、日常に戻れる“いつか”に備えて、何も変えないというルールを自らに課す。昨日と同じ今日、今日と同じ明日。クラスメイトはずっとクラスメイトのままで、その関係は変わらない。仮に誰かを好きになってしまったとしても。

この町で“終わりの見えない14歳の冬”を迎えた正宗は、今日も同じ友達と行動し、繰り返される退屈な日々の中で何とか“自分は生きている”という実感を得ようと試行錯誤している。ひとりになれば自然とノートに絵を描き始め、自分が絵が好きなことに気づいているが、その先の行動は起こさない。いや、起こせない。

誰もが町の外に出られず、変化を“悪”だとみなす世界の上を、工場から出た不気味な煙が覆っている。まるで意思を持つかのように動く煙は、人々から“神機狼(しんきろう)”と呼ばれており、変化を起こした者を飲み込むと噂する者もいる。

ある日、正宗は大嫌いな同級生・睦実に誘われるように導かれて、製鉄所に向かう。彼がそこで見たのは、言葉を話せない狼のような少女だった。

彼女は一体、何者なのか? 睦実はなぜ正宗に声をかけたのか? そして睦実が嫌いな正宗と、自分は狼少女=嘘つきと公言する睦実、そして狼のような少女の関係は?

変わらない日常に入った小さな亀裂は、やがて大きなうねりを呼び込み、この世界の均衡を崩していく。仮に世界が終わるとして、それでも町の人は“変化”を否定するだろうか?

いつになっても観客に寄り添い続ける“問い”を描いた傑作

本作は製作が発表された段階から国内外の多くのファンの注目を集めてきたが、完成した作品はその期待を大きく上回る傑作になっている。

何より驚かされるのは、アニメーションのクオリティの高さと圧倒的な密度だ。本作は、『この世界の片隅に』『劇場版 呪術廻戦 0』の制作スタジオMAPPA初のオリジナル映画で、「呪術廻戦」の平松禎史が副監督を、『劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME』の石井百合子がキャラクターデザインと総作画監督を、『凪のあすから』の東地和生が美術監督を務めるなど、岡田監督の前作“さよ朝”のメンバーが再集結。

キャラクターの細かな感情の機微を漏らすことなく描き出す作画の力、スクリーンで観た時に最も効果的な構図と作品世界の描き込みの精緻さ。そして舞台となる町の空気感や温度、匂いまで伝わってきそうな美術の完成度の高さ。日本屈指のクオリティで描かれる映像は圧倒的で、そのすべてが“変化”を禁じられた世界に生きる登場人物たちの感情の爆発や、恋の衝動を描くためにドライブし、クライマックスに向けて映像のテンションも、登場人物たちの感情も高まっていく。

そしてエンディングには、そのすべてを引き継ぎ、包み込むような主題歌『心音(しんおん)』が用意された。

中島みゆきが初めてアニメーション映画に書下ろした主題歌で、本作の脚本を読んだ彼女は「ゲームもアニメもさっぱりわからない中島に、御注文をくださるとは、なんでなの?と謎な気持ちで、届いた台本をおそるおそる読み始め、最後まで読み終わらないうちに、どっぷり、岡田麿里様のしもべとなっておりました。岡田麿里様は、中島の絶大なる「推し」です!」と作品の描きメッセージに深く共感。

『心音(しんおん)』は本作の世界観やドラマをじっくりと読み込んで描かれた楽曲で岡田監督は「『心音(しんおん)』が流れてきた瞬間、正面から、強い風がぶわっと吹いた気がしました。風にあおられて、緊張だけでなく、スタジオの景色がすべて吹っ飛んでいきました。そして、この物語の主人公である正宗と五実、睦実の姿が見えました。彼らはしんと冷たい世界の中で、腹の底から叫び、走っていました」とコメント。

本作と切っても切れない主題歌が観客に深い余韻を与えてくれる。

『アリスとテレスのまぼろし工場』はその完成度、描かれるテーマの進化から、これまで以上に多くの“岡田麿里ファン”を獲得することになるだろう。

本作は、変化のない、時間も季節も止まったファンタジックな世界を描いているが、その中心にあるのは、誰もが経験したことのある生々しい感情と、“よそ行き”の服を脱ぎ捨てた人間の真の心の動きと衝動だ。正宗ら本作に登場する若者たちは、大声ではなく心の奥底から叫び、自身の本心に動かされるようにして走り出す。

単に“感動”ではが片付けられない想い、“悲しさ”とは関係ないのに涙がこぼれそうになる展開……本作は岡田監督がこれまで描いてきたモチーフをすべて束ねて、その先を目指した集大成的な作品だ。

良い映画、観客が愛され続ける映画はいつも“答え”ではなく、“問い”を描いてきた。人間がいくつになっても消えない問い、何度も直面する問い。

人が人を好きになるとは、どういうことなのだろう?

人に残された時間は誰にもわからない。その時、人は“残り時間”とどう向き合うのか?

人はなぜ“自分にはここから外の世界には行けない”と思い込んでしまうのだろう?

人はなぜ、他人よりも“自分で自分を”傷つけてしまうのだろう?

本作には、これまでの岡田麿里監督の作品と同様に、人間がいくつになっても感じ、向き合う“問い”がいくつも盛り込まれている。『アリスとテレスのまぼろし工場』はこれからもずっと観客と伴走し、繰り返し鑑賞される作品になるだろう。観客にとって“特別な映画”。誰もが“自分の映画”だと思える一作。この秋、日本各地の劇場で観客の想いがあふれる瞬間が生まれそうだ。

『アリスとテレスのまぼろし工場』
9月15日(金)公開
©新見伏製鐵保存会