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「まるでタランティーノのよう」PFF特集上映「大森一樹監督再発見」で緒方明監督が“大森愛”を語る

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緒方明監督、モルモット吉田氏(聞き手)

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今年で45回目となる映画祭「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が現在国立映画アーカイブにて開催中。映画祭2日目となる9月10日、招待部門メイン特集「イカすぜ!70~80年代」では「大森一樹監督再発見」と題した特集上映で大森監督の自主映画作品が一挙上映され、大森監督の熱狂的な大ファンである緒方明監督をゲストに迎えたトークイベントが行われた。

映画上映後、ステージに登壇した緒方監督は「(初期作品は)50年近く前の映画なのでビックリですよね。今日改めて観てみて、最近のフィルムのスキャン技術の向上にビックリしています。実は大森さんの自宅の地下には、DVDが何千本もあるような有名な書斎があるんですけど、亡くなられた後にそこを掃除したら、原版が出てきたんです。これはPFFと一緒に上映会をやるべきだと思い、現像所でスキャン、修復作業を行ったんですけど、本当にキレイになっていましたね」としみじみ。

大森監督の父親は、著名な放射線科医だったことでも知られる。そのため家には父親の8ミリカメラが早くからあり、それをおもちゃ代わりに遊んでいたという少年時代だった。中学生の頃にはそのカメラを持って、当時、神戸で行われていた『007は二度死ぬ』のロケ現場を撮影しに行ったという、まさに映画の申し子ともいうべきエピソードもある。ただし初期の8ミリフィルムは技術的に音を入れられるものではなかったため、くしくも大森監督の初期作品は、映画の歴史同様、サイレント映画からスタートすることになった。

「今ならビデオやスマホで撮影すると、映像と同時に音が入っているのが当たり前ですよね。でも大森さんが常々話していたのは、映画の原風景というのはサイレント映画なんだということ。サイレント映画というのは、見たこともないお芝居を、動きだけで見せるもの。それが映画の原風景であると言っていましたね」(緒方監督)。

とにかく映画が大好きで、映画のことばかり考えていたという大森監督。「コロナになってからは、なかなか会えなくなっていましたけど、最後まで『スター・ウォーズ』のTシャツを着ているような人でした。それと一回、神戸フィルムコッミションの誘いで、韓国のロケ地を、向こうの映画人と一緒にまわって、交流するという機会があって。その行程で最後にお土産タイムを作ってもらったんですけど、大森さんはDVDとTシャツしか買わないんですよね。そういうのがいまだに好きだった方なんですよね」と緒方監督が振り返ると、聞き手のモルモット吉田氏も「僕らが学生の頃も、大阪でビデオのセールとかがあると、映画ファンに紛れて大森監督が必ずいましたからね」と証言。映画好きだった大森監督らしいエピソードの数々に、会場はドッと沸いた。

かつて大森監督の作品で助監督についた経験があったことや、住まいが近所だったということもあり、近年は一緒に酒を飲む機会も多かったという緒方監督。そこで大森監督の過去作の話を聞いていくうちに、これはしっかりと記録しなければと思うようになったという。

「後々は書籍化できればいいねということで、2015〜16年ごろから、インタビューとして何時間にもわたって聞くようになりました。その一部は、先日亡くなられた時に(執筆依頼があった)雑誌の『映画芸術』に載せています。ただ結局は最後まで聞くことができなかったのが残念なんですが、2002〜03年あたりの作品までのインタビューだけでも膨大な量があるんで。大森さんの(映画監督としての)栄枯盛衰を網羅したい」と意気込む。

「大森さんは本当にあこがれだった」と語る緒方監督は、「80年代、90年代までは日本を代表する四番バッターとして活躍してきた方。そこからはご自身でもおっしゃってましたが、少しずつ時代と合わなくなってしまい、失速していくわけです。流行監督というのはそういう宿命があるのかもしれませんが。大森一樹とは映画史的になんだったのかというのを今は調べているところです」と語る。

文芸作品からアイドル映画、コメディ、ファンタジー、果てはゴジラ映画まで、大森監督が手掛けたジャンルは幅広く、しばしば職人監督として見なされることも多い。「普通、自主映画から出てきた人って大林宣彦さんや石井(岳龍)さん、森田芳光さんもそうですが、匿名の職人性よりも、自らの作家性を大事にする人が多いと思うんです。でも大森さんはある時期からそれを全部辞めるんです。今日上映された『暗くなるまで待てない!』や『夏子と長いお別れ』などは作家性の強い作品ですが、作家性が出ているのは翌年の(村上春樹の原作を映画化した1978年の)『風の歌を聴け』までですね。あの作品はものすごく作家性の強い作品だったんですが、その次からはそれを捨てて、吉川晃司のアイドル映画。プログラムピクチャーをつくるようになった」(緒方監督)。

だがそうした資質こそが、映像作家としての大森監督のユニークな立ち位置を指し示している。「インタビューをしていて面白いなと思ったのが、『風の歌を聴け』という映画は今観ても自分の才能に満ちあふれていると思うけど、映画を才能で作ってはダメだと言うんですね。俺が俺が、の人ではないわけです。ショットを決めるのは俺ではなく、映画が決めているんだと。非常に娯楽映画というか、撮影所育ちの監督に近いというか。ある意味で中島貞夫さんのような、そういう映画監督だった。そこが面白くて、僕も影響を受けてますね」(緒方監督)。

しかしそうは言いながらも、作品から作家性や趣味性が強く匂い立つのが大森監督らしさだとも言える。緒方監督が「まるでタランティーノのよう」と指摘するように、自分が大好きだった映画のエッセンスを貪欲に自作に取り込み、その愛情を高らかに謳いあげる姿勢。さらには「(自主制作時代の代表作と名高い)『暗くなるまで待てない!』がいいのが、哀しみがあるところなんですよ。黄昏の感覚というのかな。青春の終わり、遊びの時間は長く続かない。だから今は戯れるんだというところがあって。藤田敏八の映画やロベール・アンリコの『冒険者たち』に通じるものがある」と緒方監督が切り出しつつ、「あの映画を作っていた当時の気分としては、その時が大学を留年していた時期だったということもあって。こんなことをやってられるのは今だけだという意識がすごくあったと言ってましたね。ゆくゆくは大学に戻って、まじめに勉強しないといけない。どこかで終わってしまうという切なさや哀しみを抱えた中でつくったものなので、全体的に哀しみが出たんじゃないかと本人は分析してましたね」と指摘する。

会場には大森監督と同世代を生きたであろうシニア層のみならず、大森作品に初めて触れたと思われる若者層も多数来場。緒方監督と聞き手・モルモット吉田氏による豊富な知識と愛情に裏打ちされたトークは興味深い内容の連続で、会場の観客も熱心に耳を傾けていた。

本特集は、9月20日13時にも実施予定。上映作品は、新藤兼人が自身と妻・乙羽信子の人生を綴った脚本を、大森監督、斉藤由貴主演で描き出したテレビドラマ『女優時代』をスクリーンで上映。そして90年代後半から低迷期に入った大森監督が、21世紀に入って起死回生の出来でその健在ぶりを見せつけたサスペンス映画『悲しき天使』を2本立てで上映する。

「第45回ぴあフィルムフェスティバル2023」
公式サイト
【東京】
日程:2023年9月9日(土)~23日(土) ※月曜休館
会場:国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋3-7-6)

【京都】
日程:2023年10月14日(土)~22日(日) ※月曜休館
会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)

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